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人生観も変わった被災地での5日間 そしてレース復帰への決意

  • 2017年08月01日(火) 18時00分
小牧太

今回は福岡でのボランティア、そこでの経験や出会いについて語ります


開催6日間の騎乗停止が明け、今週末からいよいよ復帰する小牧騎手。ニュースでも大きな反響を呼びましたが、この間には九州北部豪雨の被災地である福岡県・朝倉市にボランティアに出向き、その後は長男・加矢太くんが勤務する北総乗馬クラブでみっちり修行と、改めて自分と向き合う日々を送ったそうです。今回は、初めてのボランティアで感じたことのほか、現地での出会いや出来事などをたっぷり語ってくれました。
(取材・文/不破由妃子)



いろんな人に出会って、貴重な経験がたくさんできたわ

──いよいよ8月5日から復帰ですね。この期間は、7月10日〜14日まで福岡でボランティア、7月18日〜22日までは北総乗馬クラブで修行(その様子は、8月15日の『太論』でお届けする予定です)と、貴重な経験をたくさんされたのでは?

小牧 うん。普段は絶対にできないことができたね。ボランティアも初めて行ったけど…、本当に行って良かった。泣いたで。

──被災状況を目の当たりにしたら……胸に迫るものがあるでしょうね。

小牧 うん、(被災地に)入ったときにグッときてしまった。その景色が何とも言えんくて…。

──月曜日から金曜日まで、みっちり作業をされたんですか?

小牧 いや、本当は月曜日からやりたかったんやけど、着いたときにはもうボランティアの受付が終わってしまっていて。何もわからんと行ったからね。でも、着いたその日に被災地には行ってみました。地域の若い子たちがたくさんおったから、その子らに「明日からどうすればいい?」って聞いたら、そのうちの一人が「あっ! コ、コマ、コマ…」って言い出して(笑)。

──着いて早々に気付かれたんですね(笑)。

小牧 そう(笑)。だから、「はい、小牧太です」って挨拶をしてね。「よう知ってるな。誰にも気づかれんと思ってた」って言うたら、「競馬はよく観るんです」と。で、その子が「何時にどこどこに行って、こういう手続きを済ませて…」という一連の流れを、いろいろと丁寧に教えてくれたわ。

──で、翌日の朝から作業に入って。

小牧 そうそう。早めにボランティアの受付に並んで、ケガをしたらいけないからって保険に入って。説明を聞いたあと、配置を決めるテントに移って、僕は90歳のおばあちゃんがひとり暮らしをしているお宅に配置されてね。最初は13人くらいで行ったのかな。みんなでちょっとしたバスみたいな大きな車に乗って。家に入った瞬間の気持ちは忘れられんね。庭にも家のなかにも膝の高さくらいまで泥が積もってしまっていて。

──確か、川が氾濫したんですよね。

小牧 うん。ペッタンペッタンした泥ってわかる? ドローッとしていて、むっちゃ重たいねん。それをみんなで一生懸命に取り除いて。思った以上にハードな作業やった。

──火曜から金曜までの4日間で、どの程度作業が進むものなんですか?

小牧 庭の泥は全部取り除いた。あとは、畳を上げて、床下の泥も取って。でもまだまだやね。普通やったら、もう住めへん状態やけど…。そのおばあちゃんは、「どうしてもここにおりたい」って言ってね。ハードやったけど、本当にいい経験をさせてもらった。勉強になったし、いろんな出会いがあったし。

── 一人で行かれて、一人で5日間過ごされたんですものね。

小牧 最初は知らん人ばっかりで心細かったけどね。まぁ、たまにはこういうのもいいかなと思ったり。それに友達を作るのは得意やからね。なんせいろんなところから大勢の人が集まってきてたわ。熊本地震のとき、福岡の人がようけ助けてくれたっていうことで、熊本からもたくさんのボランティアが来てた。あとは、休みが取れたからって、大阪から1日だけ来ていた若い男の子もいたね。とにかくみんな一生懸命や。そういう人たちがたくさんおるんやなと思ってね。なんか感動したし、被災地の人たちもめっちゃ助かってるで。僕も月、火だけでも、また行こうかなと思ってる。

──今回の小牧さんの行動力にも、たくさんの方が賛辞のコメントをくださいました。影響を受けた方もいらっしゃると思いますよ。

小牧 そうだといいね。お世話になっているJRAの職員さんにも「評判になってますよ」って連絡をもらったんやけど、僕は別に褒められたくて行ったわけではないからね。僕の行動が誰かの支援のきっかけになったとしたら、それは本当にうれしいことや。

──そうですよね。ちなみに、寝泊まりなどはどうされていたんですか?

小牧 被災地から車で50分くらいかかるんやけど、久留米に宿を取りました。ビジネスホテルに2泊して、そのあと古い温泉宿に移って。そういえば、そこでも宿の人に「あれ? ひょっとして小牧さんですか?」っていきなり言われて、「なんで知ってるんですか!?」って僕のほうが驚いて(笑)。自分が思っている以上に、僕のことを知っている人がいるんやね。いろいろ教えてくれた地元の子もそうやけど、なんかそうやって声をかけてもらってうれしかったわ。

──心細さを抱えたなかでの出会いですものね。わかる気がします。でも、ハードな毎日で、寂しさを感じる余裕もなかったのでは?

小牧 そうそう。一人で晩御飯を食べて、毎日9時前には寝てたわ。そういえば、生まれて初めてコインランドリーにも行ったんやで(笑)。洗濯しようと思ったんやけど、どこを探しても洗剤がないねん。どうしよ…と思いながらもスイッチを押したら、自動で洗剤が出てきて「なんやねん!」ってなった(笑)。そんなこともありながら、いろんな人に出会って、いろんな経験ができたわ。

──コインランドリーの件はともかく(笑)、朝倉での5日間は、なかなか経験できないことですからね。人生観も変わったのでは?

小牧 うん、変わったと思う。人生は長いようで短いから、楽しく過ごさなアカンなと改めて思ったし、何より小さいことで悩んでいるのがバカらしくなった。

──その経験を糧に、“勝ちたい!”という気持ちをいい方向にコントロールできればいいですね。

小牧 ホンマやね。真っ直ぐ走らせるように、ちょっと冷静に乗らんと。改めて、迷惑を掛けてしまった方々には、本当に申し訳なかったと思ってる。これだけ期間が空くと乗り馬も1からになるけど、結果を出せばまた集まってくると信じて、また1から頑張りますわ。

小牧太

「また1から頑張りますわ」

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1967年9月7日、鹿児島県生まれ。1985年に公営・園田競馬でデビュー。名伯楽・曾和直榮調教師の元で腕を磨き、10度の兵庫リーディングと2度の全国リーディングを獲得。2004年にJRAに移籍。2008年には桜花賞をレジネッタで制し悲願のGI制覇を遂げた。2024年には再度園田競馬へ復帰し、活躍中。史上初の挑戦を続ける。

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