▲キャロットクラブに初のダービータイトルをもたらしたレイデオロ (撮影:下野雄規)
7月のセレクトセールを契機に、クラブ法人への関心が改めて高まっている。証券やFX(外為証拠金取引)を中心に、ネット関連事業を幅広く手掛けるDMM.comが、新たなクラブ法人の設立を前提に、高額馬を3頭も落札。同社の系列クラブは7月末に関係省庁の認可を受け、8月からは地上波テレビでも“一等地”と言える番組で、派手にCMを展開している。
同社のビジネスモデルは1万口前後という超小口出資で、従来のクラブと全く異なる点が目を引くが、一方で従来型の運営方式のクラブ各社でも、近年は新設や再編の動きが出てきた。既存のクラブ間の力関係にも地殻変動が見られる中で、クラブと切っても切り離せない関係にある生産界の動向も併せ、クラブ事情の変化を整理してみる。
セリ値の3倍も=DMM
7月10、11の両日行われた第20回セレクトセール(日本競走馬協会主催)で、最大の注目を集めたのはDMM.comだった。初日の1歳部門でリアルスティールの全妹(ラヴズオンリーミーの2016=父ディープインパクト)を1億6000万円(税抜き、以下同)で落札したのを皮切りに、2日目の当歳部門でもジェンティルドンナの全妹(ドナブリーニの2017=同)を3億7000万円で、キタサンブラックの全弟(シュガーハートの2017=父ブラックタイド)を1億4500万円で購入。国内で活躍した馬の全弟、全妹3頭に計6億7500万円を投じ、関係者を驚かせた。セリ会場では、同社の野本巧取締役が、1万口単位での出資を募集する新クラブの構想を取材陣に説明し、後日に開設されるアプリの試演も行った。
同社は金融庁などの認可を得た後の8月2日、記者会見を開き、募集馬9頭を発表。セレクトセールで購入した3頭中、ドナブリーニの2017は含まれなかった(同社は来年に募集開始予定としている)一方で、現2歳の4頭も含むリストが公表された。同社のクラブ「DMMバヌーシー」のサイトには、各馬の応募状況が掲載されているが、最も売れている1万円のステイゴールド産駒(母ワナダンス、牝2=美浦・戸田博文厩舎所属予定)でも、25日現在で7000口近く残っている。
目に付くのはセリ価格と募集価格の乖離である。2歳のベネンシアドールの2015(父ディープインパクト、牡、栗東・池江泰寿厩舎所属予定)は、デニムアンドルビーの全弟で、昨年のセレクトセール1歳部門で1億9000万円だったが、募集価格は4億1600万円。キタサンブラックの全弟に至っては4億3500万円でセリ価格の3倍である。他のクラブと異なり、同社は1度の出費で全てを賄うとしている。「維持会費」がないのがメリットだが、馬1頭の維持費はどう高く計算しても年1000万円は超えないはず。キタサンブラックの全弟が5歳の暮れまで現役を続けても、本体込みで2億円に届くかどうか。クラブ法人の仕組みを知る人なら、敬遠する価格設定だ。