◆ビッグレースのM.デムーロは、鬼神と化している 京都競馬場から送られるパドック映像をみて、「こんなにも急速に変わる馬がいるのか!」と感嘆した。10月末の富士Sに出走した3歳ペルシアンナイト(父ハービンジャー)は、3歳馬らしい活気はあったものの、4歳エアスピネル(父キングカメハメハ)、6歳イスラボニータ(父フジキセキ)などと比較し、仕上がりの良さは互角でも、歴戦の古馬に比べ若さばかりが目についた。皐月賞、日本ダービー当時より成長してパワー強化の印象も乏しく、当日輸送ではないのにマイナス馬体重の476キロだった。
ところが、激変。マイルCSのペルシアンナイトは、まるで別馬のように輝き、存在感からして違った。プラス12で488キロの馬体は、すぐ前を歩く506キロの同じ3歳馬ジョーストリクトリ(父ジョーカプチーノ)よりひと回りどころかふた回りもスケールで上回るように映った。中間の2週にわたる快調教は映像で確認している。こんなに変わっているならもっと高い評価にした方が良かったかもしれない…。
でも、3歳馬の中でも決してトップではなく、プラスをもたらすとはいえない渋馬場。大外18番もきびしいはずである。神がかりのM.デムーロ騎乗で、この秋、評価激変のハービンジャー産駒。十分に怖いが、この10年【0-0-1-30】の3歳馬でもある。勝ち切るまではいかないだろうと、18番絡みの金額を少し増やすだけにとどめた。
ペルシアンナイトでマイルCSを制したM.デムーロ騎手(c)netkeiba.com
外枠の不利を最小限にするため、ペルシアンナイトは最初から下げ外を回らなかった。3コーナーで確認すると有力馬の近くにペルシアンナイトは存在せず、後方3〜4番手の内寄りだった。直線に入って馬群が横に広がり、真ん中から人気のエアスピネル(父キングカメハメハ)が抜け出しかかった残り1ハロン地点でも、ペルシアンナイトはその近くにはいなかったはずである。
しかし、ゴール寸前、だれよりも激しいアクションで馬群を割って突っ込み、R.ムーアのエアスピネルを捕らえたのは黒っぽい勝負服のM.デムーロのペルシアンナイトである。どうやって届いたのだろう。4コーナーでもまだ後方5〜6番手だったミルコのペルシアンナイトは、あとでパトロール映像をみると、内寄りで直線に向くと、斜めに外に出しながら左前方を確認。すると、馬群が固まっていない場所でエアスピネル(R.ムーア)が一気にスパート態勢に入っていた。
馬場の真ん中より少し外の、有力馬がいる馬群のド真ん中のスペースを目ざしたが、それはレーヌミノル(父ダイワメジャー)の横ではない。突っ込んだのは抜け出すエアスピネルと、外から伸びたサングレーザー(父ディープインパクト)の間である。
もう、ビッグレースのM.デムーロは、鬼神と化している。G1では宇宙人かもしれない。先週など、競走中止も除外もあって13戦1勝だけ。でも、モズカッチャン。しかし、これでオークス以降、JRAのG1に10戦連続すべて乗り【5-1-4-0】となった。
ずっと以前、吉田照哉さんが「今度、時どき日本に来てもらうから…」と、若いジョッキーを東京競馬場につれてきた。冬の寒い日で、薄着の少年はさかんに鼻水をすすっていた。とても頼りになるとは思えないイタリアの少年は、「ミルコ」と紹介されても、心細そうに巨大なスタンドを見上げ、黙っていただけだった。いま、そのM.デムーロは日本を代表するエースジョッキーであり、もう外国人騎手ではない。
現時点で年間G1競走6勝の最多タイ記録だが、他にこの記録を持つ騎手は、3冠馬、あるいはその時代のエースの複数勝利の計6勝であり、M.デムーロの6勝は、すべて異なる馬での6勝だからすごい。ジャパンCは、反動がなく好状態ならサトノクラウンか? でなければシュヴァルグランに騎乗すると思われるが…? 今週以上に大きな注目を集めることは間違いない。
ペルシアンナイトの勝利により、種牡馬ハービンジャーは、3世代目の現3歳馬から「秋華賞のディアドラ、エ女王杯のモズカッチャン」に続き、連続して3頭のG1馬の父となった。また、ゴールドアリュール(父サンデーサイレンス)も、その全妹になるペルシアンナイトの母オリエントチャームも、その母である輸入牝馬ニキーヤ(父ヌレイエフ)もずっと追分ファームの生産馬、繁殖牝馬であり、関係する(株)G1レーシングにとっては、これが初のG1勝利だった。
2番人気のエアスピネルは、ふつうは勝ったレースだろう。R.ムーア騎手も「G1を勝てると思う」と賞賛したとされるが、今年は彼にしてはちょっと不調とはいえ、ムーアがG前1ハロンで抜け出し、自分の馬より評価の低い馬に差されるのは非常に珍しいことで、詰めの甘いエアスピネルはムーアの誉め言葉をそのまま信じてはいけない。
3着には3歳サングレーザーが突っ込み、4着したのも3歳牝馬レーヌミノルなので、5頭出走した3歳馬の評価は一気に高まることになった。10月末からの古馬重賞では「スワンS(サングレーザー)→AR共和国杯(スワーヴリチャード)→福島記念(ウインブライト)、同日のエリザベス女王杯(モズカッチャン)→マイルCS(ペルシアンナイト)…」もう4週間も3歳馬の快走が連続している。同期間には「天皇賞(秋)、みやこS、武蔵野S」もあったので、別に3歳馬の大攻勢ということではない(世代レベルうんぬんでもない)が、やけに3歳馬の激走が目立っている点に注目したい。
3歳馬が目立ちすぎたこともあるが、「レース中に接触の不利があった(C.ルメール騎手)という6歳イスラボニータ、前回が体調ピークだったと映ったサトノアラジン、1600mにとどまらない総合力が問われて失速のレッドファルクス」などの6歳馬には、まだ衰えや陰りがあるわけではないが、抗しがたい勢いの差があるようにも感じられた。
5歳馬では、6着のブラックムーン(父アドマイヤムーン)、7着クルーガー(父キングカメハメハ)はともに初のG1挑戦だったためか、2頭ともに最初からずっと大外を回っていた。若くもないのにちょっとお上品すぎたかもしれない。