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【東海S】テイエムジンソクが千八ダートを1分50秒を切らずに勝てる理由

  • 2018年01月25日(木) 18時01分
哲三の眼

▲哲三氏が古川騎手に送った“ある助言”とは?(C)netkeiba.com


今回は当連載でも度々紹介してきたテイエムジンソク×古川吉洋騎手のコンビをフィーチャー。12月のチャンピオンズCでは、惜しくもクビ差の2着に敗れたものの、GI獲りに向け再始動となった東海Sを快勝し、満を持してフェブラリーSに向かうことになったこのコンビ。その強さの理由を哲三氏が古川騎手に送った“ある助言”をヒントに解説します。(構成:赤見千尋)

「GIを勝ちたいなら千八ダートで1分51秒台で勝てる馬を作ること」


 先週のレースで注目していたのが東海S。テイエムジンソクはこのメンバーでは力が違ったな、という強い競馬を見せてくれました。ではどこで「力の違い」を感じたのか。直線で詰められなかったから、という部分に強さを感じた方もいらっしゃったかと思いますが、僕はもっと前、1コーナーの入りのところでもう力が違うなと思いました。

 今回も好スタートを切って、全身を上手く使うような感じでスタートを出してあげて、そこからはほぼ馬なりで進むテイエムジンソクに対して、周りの馬は取りたいポジションへ行くために探っていきながら、促していきながら運んでいました。

 4番のサルサディオーネは逃げたい馬なのである程度押していて、ジョッキーは多分自分が内にいるし、ハナを主張すれば行けるんじゃないかと思ったんじゃないでしょうか。古川(吉洋)君も「行ってもいいよ」という感じで乗っているんですけど、結局馬なりのテイエムジンソクのスピードについていけない。ハナに行けそうな形なのに、「あれ?なんか行けないな」という感じ。どうしようかと迷っているところでコーナーに入って進路がなくなってしまいました。

■1月21日東海S(8番:テイエムジンソク)

 この場面で古川君が過怠金ということでしたが、ジョッキーの感覚からすると内側の対処が遅れたというか、迷ったなと。結局はテイエムジンソクのスピードに翻弄されたんですよね。

 3着だった秋山(真一郎)君の馬(モルトベーネ)は、テイエムジンソクについて行こうとして、すぐ後ろを取るためにゲートを出てから追っているんですけど、コーナーに入ってテイエムジンソクがペースを落とした時にハミを取ってしまうんです。

 この場面で、テイエムジンソクと古川君のコミュニケーション、スピード調整という部分でも、他馬とはレベルが違うなと感じました。

 先行馬の中には今回くらいのスピードで走れる馬はいっぱいいるんです。でもそれがテイエムジンソクがいることでリズムが崩れて走れなくなる。翻弄されるんです。それが力の違いであり、テイエムジンソクの強さだと思います。

 古川君自身は、ゲートを出てから最初だけスピードに乗せて、その後のスピード調節は馬に任せて自分はテイエムジンソクのセッティング(その馬の体幹に合わせた、馬上での騎手のポジショニング)の中でしっかり乗るというのを重視していたのかなと。クビの動きを極力邪魔しないで推進できるようなイメージで乗っていると思うんです。

 古川君が乗り出してからのテイエムジンソクは、調教でもレースでも、クビの辺りの動きがダイナミックなんです。成長段階にもよるので一概には言えないし、これまでの過程があるからこそ今のレーススタイルがあると思いますが、前とははっきりと違いが出て来ていると感じます。

 今回の勝ち時計は1分51秒8でしたが、なぜ古川君が乗っている時のテイエムジンソクは、1800ダートで1分50秒を切らないで勝てるのでしょうか。

 以前古川君と、「GIを勝ちたいなら1800ダートで1分51秒台で勝てる馬を作ること。エスポ君はそういう感じだよ」って話をしたことがあって。1分51秒前後で勝つところに、古川君とテイエムジンソクが1着を並べている理由が隠れているんです。

 調教もただ速ければいいというものではないし、レースも同じで、スピードをコントロールできるかどうかが大事なんです。一見51秒でしか勝ってないんだから、49秒出してる馬の方が強いじゃないかって見えるかもしれない。もちろんその理論も間違ってはいないけれど、それが通用するのは自己条件やGIIIまでかなと思っています。

 時計の速い高速決着にならないと勝てないというのは、本当の意味でのGI馬、最強馬ということにはならない。自分でペースを作り、そのペースで周りを支配する。それが真のダート王者だと僕は思っています。

哲三の眼

▲「自分でペースを作り、そのペースで周りを支配する。それが真のダート王者だと僕は思っています」(C)netkeiba.com


 前走のチャンピオンズカップで、逃げているコパノリッキーにもっと早く並びかけて行けばよかったのに、という意見があったと伺いました。その意見に対して僕は疑問で、まず京都の自己条件やGIIIクラスで早めにマクッて勝ちましたというのと、バリバリのGI馬をマクッて勝てるかというと同じじゃないですよね。芝で言えばキタサンブラックをマクッて勝てと言っているのと同じ。例えスローだったとしても、そこには“タイムだけじゃない駆け引き”が存在する。

 古川君は、今テイエムジンソクに対してやっていいこと、ダメなことをきちんと把握しながら、ここまで一緒に上り詰めて来ました。初めてのGIだったチャンピオンズカップは負けてしまったけれど、次に繋がるレースだったと思うし、今回の東海Sを見て次がさらに楽しみになりました。

今週の注目コンビ


哲三の眼

▲新馬戦時にも取り上げたリビーリングの成長に注目!(撮影:下野雄規)


 今週注目しているのは、セントポーリア賞に出走予定のリビーリングです。以前このコラムでも取り上げましたが、デビュー戦で逃げて、フラフラと物見をしながらも圧勝。かなりの能力を見せてくれました。

 一度レースを経験して2戦目になりますから、粗削りな部分があっただけに、どんな風に成長し、どんなレースを見せてくれるか楽しみです。今回は騎手というより、馬自体に注目しています。

(文中敬称略)

1970年9月17日生まれ。1989年に騎手デビューを果たし、以降はJRA・地方問わずに活躍。2014年に引退し、競馬解説者に転身。通算勝利数は954勝、うちGI勝利は11勝(ともに地方含む)。

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