▲『第7回引退馬フォーラム』に出席した鈴木伸尋調教師にインタビュー
筆者も感慨「こんな日が来るとは…」
取材の合間に競馬関係者と雑談する中で幾度となく耳にしたのが「引退した馬の後を追わない」という言葉だった。それが胸に引っ掛かり、自らブレーキをかけ、気になる馬がいても競走馬登録を抹消されたその後の行き先をなかなか尋ねられないまま月日が流れた。
ライターとして競馬に関わる仕事をしながらも、馬を経済動物だと割り切れずにいた私は、netkeiba.comで引退した馬たちのその後を取材するコラムをスタートさせ、自分なりに引退競走馬の問題に向き合ってはきた。
種牡馬や繁殖牝馬以外では、乗馬クラブで乗馬として仕事をしている馬もいれば、個人に引き取られたり、1頭の馬を複数の人で支えるサポートホースとして、牧場などで暮らしている馬もいる。重賞勝ちの功労馬に対する助成金制度が存在するが、その対象から外れる馬たちもあまたいる。犬や猫のように家で飼うことができない以上、乗馬クラブや牧場などに預託しなければならず、1頭の馬を維持していくには相当な経費がかかってくる。
そして不思議と引退した馬たちの余生に関わっている人たちは、特別なお金持ちというわけではなく、庶民であることが多い。
そのような中で、NPO法人引退馬協会など引退した馬たちのセカンドライフ、サードライフに真剣に取り組む団体も存在しており、地道に活動を続けて裾野を広げてきている。また最近では角居勝彦調教師が主催のホースコミュニティでも、引退馬のセカンドキャリア支援が行われている。それでも命を繋げられた馬は、ほんの一握りに過ぎない。
そのような馬たちの取材を続けながら、JRAがもっと動いてくれれば、競走馬を所有していたオーナーや厩舎関係者が理解を示して積極的に関わってくれれば、さらにたくさんの命を輝かせられるのではないかと、心のどこかで思っていた。だがどこかで諦めに似た気持ちもあった。
競走馬引退後のセカンドキャリア、サードキャリア支援をJRAが中心となって本格的に取り組み、現在、そのための組織を設立するための会議が重ねられているという話を知ったのはここ数か月のことだ。引退競走馬たちの余生に関して何もできない長い年月を過ごし、引退馬についてのコラムを連載させてもらえるようになり、昨年自分でも馬を引き取るに至った紆余曲折の中で、いつもJRAや競馬関係者の方との間に埋められない溝を勝手に感じていただけに、こんな日が来るとは…これが正直な感想だった。
この新たな取り組みについて初めて公になったのは、2月19日。Gate.Jで行われたホースコミュニティ主催の「第7回引退馬フォーラム」において