先週の土曜日、福島の開成山特別をオジュウチョウサンが快勝した。
単勝2.0倍という支持は、いかにも、多くの人々の「迷い」と「希望」と「冷静な観測」とが入り乱れた数字だったように思われる。
かつて、オジュウチョウサンは、平地で新馬、未勝利と2戦して11着と8着だった。それ以来4年8カ月ぶりの平地なのだから、絶対とは言えなかった。2.0倍は集中しすぎにも思われた。
それでも、障害界の絶対王者として、2016年の春から2年間負けなしの9連勝という、驚異的な強さを見せてきた馬だ。しかも、今春の中山グランドジャンプでは、直線で障害を飛びながら上がり3ハロンを36秒9でまとめて圧勝している。デビュー当初とは「別馬」になっているし、舞台は500万下だ。2.0倍は美味しい。
とはいえ、障害と平地とでは道中のラップもペースの上がり方もまるで異なる――といったように、いくつもの「しかし」を頭の中で巡らせて、ファンが出した結論だった。
結果は周知のとおり、メンバー中一番と言える速いスタートを切り、好位で折り合い、3コーナーで先頭に並びかけ、2着を3馬身突き放した。
私は、道中は引っ張り切りの手応えで行き、ノーステッキで圧勝すると思っていたのだが、ちょっと違った。
序盤から武豊騎手がやや促すところもあったし、直線では鞭が5発入った。そのあたりは、やはり、4年8カ月ぶりの平地だったぶんか。また、武騎手のコメントによると、けっして道悪が得意ではないようなので、首が低すぎたというか、少しノメっているように見えたのは、走りづらさを感じていたからかもしれない。
にもかかわらず、上がり最速で、2着に3馬身差をつけたのだから、やはり強い。
が、ひとクラス下がっただけの降格馬がかなりの確率で好勝負するくらいだから、あり得ないタラレバだが、バリバリのオープン馬が500万下で走ったら、もっと楽に勝っているのではないか。
それでも、何が起きるかわからず、いろいろな結果が出る競馬で、こうして力を見せたところは正当に評価すべきだろう。
といったように、今もいくつもの「しかし」がついて回るのだが、ともかく、これで収得賞金を獲得したので、フルゲートにならない平地重賞に出走できるようになった。
ファン投票で出走できる有馬記念と宝塚記念は、心配ないどころか、トップでの出走もあり得るだろう。
そこに向けて、これからどんなローテーションを歩むのか。オールカマー、京都大賞典、アルゼンチン共和国杯、ステイヤーズステークスなどが候補になりそうだが、どこに出てきても盛り上がるだろう。秋の大きな楽しみができた。
開成山特別から1日置いた7月9日(月)と10日(火)には、苫小牧のノーザンホースパークでセレクトセールが開催された。
パレードリングを歩く仔馬を眺めていると、社台スタリオンステーション事務局の徳武英介さんに会った。徳武さんは、去年まで毎年壇上で鑑定人をつとめていた。
「もう鑑定人は辞めたのですか」と訊くと、こう答えた。
「これまで20年やってきたので、区切りのいいところで引退させてもらいました。言えば辞められるという前例がないと、なり手がいなくなりますからね」
セレクトセールの会場で、こうして徳武さんと普通に話すのは、何だか不思議な感じがした。もうひとり、名調子で知られるノーザンファームの中尾義信さんはどうするのだろう。
「あの人は生涯鑑定人だと思いますよ。だって、レジェンドですから」と徳武さん。中尾さん自身とは話すことはできなかったが、今年も「リアアントニアの2018」を最高額の2億9000万円まで引き上げるなど、「さすがミスターセレクトセール」という手腕を発揮していた。
また、昨年まで、会場での上場馬の持ち手は社台スタリオンステーションのスタッフがつとめていたのだが、今年から、社台ファームとノーザンファームのスタッフも加わり、人数が倍ほどになった。今すぐ調教に乗れそうな50キロ台とおぼしき人から、格闘技やパワー系のスポーツを経験した100キロ超えの人まで体格がバラバラなので、見映えがよくなるよう、スーツはすべてオーダーメイドだという。採寸と注文だけでも大変だったのではないか。
日本最大の競走馬のセリ市ともなると、舞台裏も忙しい。
これから父の新しいケアマネージャーと面談し、明日、父を入院させる。そして、明後日の午後イチくらいまでに、先週インタビューした騎手の原稿を送らなければならない。私もぼちぼちだが、忙しい。