▲湖南馬事研修センターのセンター長兼教官・齋藤昭浩の人生を賭けた戦い
湖南馬事研修センターのセンター長兼教官、齋藤昭浩。JRAの公益財団法人・軽種馬育成調教センターにて、20年以上にわたり、育成調教技術者の養成に従事した「人作り」プロである。その間、送り出した卒業生は460人以上。しかし、齋藤の心の中にあるのは、満足ではなく危機感だった。
競馬は“1勝”を目指すリレーである。アンカーがジョッキーならば、リレーの中核をなすのは育成・外厩のスタッフ。その乗り手不足が深刻なのだ。牧場の人手不足は慢性的で、現在は外国人スタッフを雇うことで補っている。「日本の競馬産業の未来を本気で思うなら、日本人の若手を育てなければ」──そんな使命感のもと、人生を賭けて人材育成に立ち向かっている男の物語。
(取材・文=不破由妃子)【掲載スケジュール】
齋藤昭浩氏インタビュー 8/16(木)前編、8/17(金)後編
吉澤ステーブル社長・吉澤克己氏インタビュー 8/23(木)前編、8/24(金)後編
「定年まであと15年」と思ったときに感じた焦り
「キャリアを重ねれば重ねるほど、“1勝”の重みがわかってくる。なぜなら、そこに至るまでに関わってきた人たちの思いを感じられるようになるから」
経験を重ねたジョッキーの多くが、何千にも及ぶ戦いの末に到達する境地である。ジョッキーとは、批判の矢面に立たされることもあれば、称賛を一身に浴びることもある花形だが、競馬の仕組みを考えれば、あくまで最後にバトンを渡されるアンカー。当然ながら、表舞台に立つまでには、“1勝”を目指す終わりなきリレーが日々繰り返されている。
今、そのリレーの中核をなす、育成・外厩の乗り手不足が深刻だ。とはいえ、牧場の人手不足は今に始まったことではなく慢性的な問題で、現在は人材派遣会社を通してインドや南米から多くの外国人スタッフを雇うことで人手不足を補っている。
日本の競馬産業の未来を本気で思うなら、今こそ日本人の若手をより多く育てなければならない──そんな使命感のもと、人生を賭けて人材育成に立ち向かっている男がいる。
湖南馬事研修センターのセンター長兼教官、齋藤昭浩。
JRAの公益財団法人・軽種馬育成調教センター(以下、BTC)にて、20年以上にわたり、育成調教技術者の養成に従事した「人作り」プロである。その間、送り出した卒業生は460人以上。そのうちのひとりである青木孝文は、美浦で厩舎を開業するまでになった。
そんな齋藤がBTCを辞め、湖南馬事研修センターという新天地で「人作り」に乗り出したのが昨年。彼を突き動かしたのは危機感にほかならない。
「45歳を迎えたとき、ふと定年まであと15年しかないと思ったときは焦りましたね。BTCの養成枠は1年間で20人でしたから、送り出せたとしてもあと15期。組織内でポジションが上がると、どうしても現場から遠ざかってしまいますが、自分の体が動くなかで、より多くの人材を…という思いがずっとあったので、まだまだ教育の現場にいたいと改めて思ったんです。