堅苦しい“血統評論家”のイメージとは違い、時折、関西人らしい冗談を織り交ぜながら、わかりやすく語ってくれた望田潤さん。
自ら行動を起こして血統評論家への道を切り開いた
血統評論家と聞くと思い浮かぶのが、資料の山に埋もれながら血統表に向き合って、難しい顔でウンウン唸るようなイメージ。あとは、「物静かな書斎派」なんてイメージもある気がする。いずれにせよ、ちょっと気難しそうなタイプを想像してしまうのは、恐らく筆者だけではないだろう。
しかし、血統のオーソリティとして知られる望田潤の人柄は、そんなイメージとはまったく異なるものだ。非礼を承知のうえで簡潔に表現するならば、「気さくでオモロイ関西人のおっちゃん」だろうか。優しげな眼差しに、漂わせる柔らかいオーラ。普通の人ならばムッとしてしまうことでも、カラッと笑い飛ばしてしまうような懐の深さがある。
ではここで、望田のキャリアに触れておこう。馬の世界に飛び込みたいとの思いから、大学卒業後にスペシャルウィークの生まれ故郷である日高大洋牧場で勤務し、繁殖と育成の両方を経験。その後、盟友・栗山求と出会った場でもある競馬通信社に入社し、知る人ぞ知る血統専門誌『週刊競馬通信』や『競馬通信大全』の制作に10年ほど従事する。
面白いのが、日高大洋牧場と競馬通信社の両方に、「行動力」で入っているという点だ。とくに繋がりがあったわけではなく、自ら動くことでチャンスをモノにしている。それに、実際に競走馬の生産や育成に関わった経験があるというのも異色の経歴。望田がいかに、書斎派というイメージから遠い存在であるかを感じさせる。
「いやでも、馬乗りはぜんぜん上手にならへんかったねぇ(笑)。それもあってか、牧場におった頃から育成よりも繁殖のほうに興味があったんですよ。あとは、『週刊競馬通信』に連載されてた、笠雄二郎さんの血統論に触れたのも大きかった。もっと血統の世界に踏み込みたくなって、思いきって競馬通信の編集部に電話したら、とりあえずおいでって話になって」
レースを繰り返し見て、産駒のイメージを照合していく
そんな流れで転がり込んだ競馬通信社で“血統屋”としての研鑽を積み、その後はフリーに転身。血統評論家としてさまざまな媒体で原稿を執筆するほかに、競馬予想や配合診断といった分野でも活躍中だ。netkeibaの『ウマい予想』でも、回収率の高さは常にトップクラス。その実績を支えているのが、豊富な血統知識に裏打ちされた観察眼の確かさである。
「ボク、レースを観ることが何より大事やと思ってますからね。レース映像を何度も繰り返し観て、こんな馬やから勝った、こんな馬やから負けたって考える。馬体や走るフォームはもちろん、どういう気性の馬かも見えてくるやないですか。そのうえで、それが血統表にある“どの馬”の影響が強んやろかってイメージするわけですよ。父ちゃんに似てるんか、それとも母ちゃん似なんやろうか──みたいな感じで、血統のイメージと実際の馬体や走りをすり合わせていく。この作業が必要不可欠なんです」
と、このときばかりは真剣な面持ちで語った望田。これが恐ろしく時間と手間のかかる作業であるのは、想像に難しくない。血統のオーソリティであるからこそ、競馬という複雑怪奇なモノを、血統だけで語ることの“限界”をよく知っているのだろう。
「血統がすべてやなんて、まったく思ってませんからね。予想の原稿を書き終えてから、血統のこと何も触れてへんやん!って気付いて、慌てて付け足すこともあるくらい(笑)。結局は大事なんって、父や母父の血統がどうかやなくて、その馬がどうかやないですか。競馬を血統で説明できる部分なんて、それこそ30%くらいしかないんとちゃうかなあ」
実際に現場に立ち会い、配合のアドバイスや講演会などもするという。(C)Pacalla
“血統”を読み手のイマジネーションが膨らむように伝える
こういった考え方をより実感できたのが、新種牡馬について尋ねたときだ。今年の2歳戦でジャスタウェイ産駒が絶好調であるのは、ご存知の通り。望田も「血統のイメージ通りの仔が出るというのは優秀な種牡馬である証明。新種牡馬では独走でしょう」と、そのポテンシャルを高く評価していた。
「牡馬は、父似のジャスタウェイっぽい馬がエエ走りをしてますよね。でも牝馬は、スピードのあるお母さんに似た仔が、短いところで勝ち上がってるんですよ。新馬とダリア賞を連勝したアウィルアウェイなんて、まさにそのパターン。クラブのツアーで見たときにもメッチャお母さん似やなあって思ったんですけど、レース当日のパドックで見ても相変わらずの感じで。さらに走りも見て、これはジャスタウェイやない、ウィルパワーや!って確信しました」(笑)
父ジャスタウェイ、母の父キングカメハメハという血統の字面から考えると、短距離戦での馬券勝負には、ちょっと腰が引けてしまう部分がある。しかし、血統に馬体や走りをすり合わせることで、アウィルアウェイを「短距離で活躍した母のウィルパワーが前面に出ている馬」と知ることで、自信を持って馬券を買えるようになるはずだ。
「でも、ウィルパワーにまたジャスタウェイを付けたら、今後は父にそっくりの馬が出るかもしれへんからね。そうなると、血統こそ同じやけど、アウィルアウェイとはまるっきり違う能力や適性の持ち主になるやろうし。せやから、血統と馬体や走りをすり合わせて確認する作業なしに、モノは言われへんと思ってます」
そして、その結果をコラムや予想といったカタチで、競馬ファンにわかりやすく伝え続けているのが望田なのである。
「そのレースに出てるのがどんな馬なのか。それがわかって予想するのと、わからへんまま予想するのでは、競馬の面白味がぜんぜん違うやないですか。血統を使えば、コイツはじつはこういうヤツやねんで──というのを、読み手のイマジネーションが膨らむように伝えることができる。ボクにやれるのはソコなんちゃうかなって、自分では思ってます。結果的にハズレやったとしても、面白かった! って、言ってもらえたらメッチャうれしい。そういう予想ができれば最高やね」
望田さんのイメージがまさに合致した、ジャスタウェイ産駒のアウィルアウェイ。写真=下野雄規【netkeiba.com】
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