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日高の生産牧場は成り立たなくなる? 暗礁に乗り上げた農協合併

  • 2018年09月20日(木) 18時00分
生産地便り

JAみついし(新ひだか町三石本桐)



経営難の問題は泥沼化といっても過言ではない状態に…


 去る9月10日。「第6回ひだか4JA合併推進委員会」が開催され、その席上、JAみついしより「合併から離脱したい」旨の申出があったという。

 明年2月1日をもって、JAにいかっぷ(新冠町)、JAしずない(新ひだか町静内)、JAみついし(新ひだか町三石)、JAひだか東(浦河、様似、えりも)の4JAが正式に合併し、新たに「ひだか広域農協」として発足するべく、これまで4JAが協議を重ねてきたわけだが、今回のJAみついしの離脱により、合併問題は一気に雲行きが怪しくなってきた。

 もともとJAみついしを除く3つのJAは、以前より多額の不良債権を抱え、経営が厳しいと言われてきた。そこで平成22年(2010年)より、まずにいかっぷ、しずない、ひだか東の3JAが合併協議会を設立し、検討を進めてきた。

 その背景には、政府のJA改革方針によって、JAの合併、広域化が進められてきた経緯があり、今回、これら3JAに加えて、JAみついしを中核として新たに新冠町〜えりも町に及ぶ日高管内中東部全域を網羅する形での4JA合併案が浮上してきていたわけだが、ここに及んでJAみついしが合併から離脱したいという意志を示し、4JA合併案は当面棚上げされることになったという次第だ。

 これまでの予定では、今月26日にみついしを除く3JAがそれぞれ臨時総会を開催し、4JA合併に向けての是非について議決する手はずになっていたのだが、そのスケジュールは延期せざるを得なくなった。

 なぜ、ここにきてJAみついしが合併から離脱を決めたのか? 数人のJAみついしに所属する組合員に話を聞いてみると、まず共通しているのが「今回のJA合併には、みついしの組合員にとって何一つメリットがない」ことが最大の理由だという。

 ある組合員はこう言う。「多額の不良債務を抱えた組合員たちが新しいJAにも加入してくることになり、財務内容は著しく悪化することが目に見えている。なぜ私たちがそういう人々の分まで面倒を看なければならないのか」というわけである。

 JAみついしの財務内容の健全性は他の3JAとはまるで比較にならない。平成29年度における経営概況をみると、JAみついしは組合員数(正組合員)379人。貸付金12億6700万円に対し、不良債権は1億3700万円。比率にして10.20%である。

 一方、他の3JAはというと、にいかっぷ(正組合員311人)は60億1200万円の貸付金のうち不良債権が21億6400万円。率にして34.91%。しずない(正組合員362人)は79億1500万円の貸付金に対し、不良債権が34億200万円、率にして42.43%。ひだか東(正組合員663人)は、173億3500万円の貸付金で、不良債権は当初68億円と公表されていたが、その後約70億円と“上方修正”された。率にして約40%である。

 つまり、みついしを除く3JAは、貸付金の3分の1から4割程度が、不良債権化しており、もはや単独での債権回収は不可能という段階に達していたことになる。そこで、全国、全道のJA上部団体から支援を受ける形で、みついしを含めた4JA合併案が浮上したのは以前触れたとおりだ。

 その計画がとん挫したことにより、今後の展開が全く予測できなくなってきた。JAみついしの離脱によって、他の3JAだけの合併がそもそも認められるのかどうか。上部団体からの資金的支援を受けるにあたり必須条件とされたのが、唯一の健全経営JAであるみついしを中核にしての合併案だったはず。その前提が崩れてしまっては、おそらく他の3JAだけの合併は実現できまい。

 ならば、従来通りに4JAがそれぞれ単独での運営を続けられるのかというと、これもかなり厳しい。ひだか東でも事情は同じで「単独のままでは早晩、破たんせざるを得なくなる」と6月以来2度開催された地域懇談会の席上、組合長の口からはっきりと明言された。

 JA合併問題と競馬とは直接何の関係もないように見えるが、実は、大ありなのである。

 日高は周知の通り、我が国最大規模のサラブレッド生産地であり、中小を中心に数多くの生産牧場が点在する地域だ。その牧場の経営を資金面で下支えしているのが、多くの場合、それぞれのJAなのである。各牧場はJAから融資を受け、繁殖牝馬や種牡馬株(種付け料)、厩舎、農機具、飼料などへの投資、支払いに充てる。JAなくして、生産牧場は成り立たないほど両者は密接な関係がある。

 日高管内で生産されるサラブレッドの頭数は年間約5000頭いるが、そのうち、新冠町からえりも町までの上記4JA管轄内の生産頭数はざっと3800頭に達する。我が国のサラブレッド生産頭数の半分以上どころか約3分の2がこのエリアで生まれていることになる。生産地の根幹を揺るがしかねないこのJA合併問題の行方が気になるところだ。

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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