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ゴールドシップ  多くのファンを虜にした芦毛の“気分屋”

  • 2018年09月21日(金) 18時30分
ゴールドシップ

▲ netkeiba Books+ からゴールドシップ  多くのファンを虜にした芦毛の“気分屋”の1章、2章をお届けいたします。(撮影:福田淳司)


 圧倒的人気でコロッと負けたかと思えば、人気が下がった時に圧勝する。そんな人間の期待を裏切り続けて人気を博した名馬は古今東西存在する。古くは“新聞の読める馬”と呼ばれたカブトシローや“気まぐれジョージ”ことエリモジョージ、最近ではゴールドシップなどがそれに当たるだろう。芦毛のクセ馬はなぜ多くのファンを虜にできたのか?
 ゴールドシップが歩んできた蹄跡をなぞりながら、そのワケを解き明かしていく。


(文:木村俊太)



ゴールドシップが内包していた「かわいらしさ」の正体に迫る


 某検索サイト(検索エンジン)で「ゴールドシップ」と入れてみると、検索補助(予測変換)機能が自然に作動して、いろいろな用語が出てくる。上から「ゴールドシップ」(そのまま)、「ゴールドシップ産駒」「ゴールドシップ 伝説」「ゴールドシップ かわいい」「ゴールドシップ 見学」…などとなっていた。この組み合わせで検索をした人が多いということだろう。

 なかでもひときわ異彩を放つ検索ワードは、4つめの「ゴールドシップ かわいい」だ。馬好きにとって、馬はかわいい。だいたい、どんな馬もかわいい。ならば、なぜあえて「馬名+かわいい」という検索をするのだろう。「ゴールドシップ かわいい」という検索をした人は、何を調べようとしていたのだろうか。

 それを知るには、とりあえず実際に検索してみるのが手っ取り早いと思い、検索してみた。すると、「ゴールドシップは、なぜあんなにかわいいのか」「ゴールドシップがあれほど人を魅了するのはなぜか」といったブログや、いわゆる「まとめサイト」が次々と出てきた。

 どのサイトも、これでもかというくらいにゴールドシップへの愛情を語っている。面白いのは馬名の呼び方。そのまま「ゴールドシップ」と呼んでいるのはもちろん、「ゴルシ」と呼んでいたり、「白いの」とか「白いヤツ」などと呼んでいるケースもあった。まとめサイトは、まさに「ゴルシ愛」の深さ比べの様相を呈していたのだ。

「ゴールドシップ かわいい」の検索者たちは恐らく、具体的な目的をもって検索したのではなく、自分の気持ちを表現してくれるサイト、自分の気持ちを表現できるサイトを探して検索したのではないだろうか。

 そして、検索ワードが物語るように、ゴールドシップが多くの人に愛された最大の理由は「かわいいから」に違いない。ただ「かわいい」という語は、昨今の若者が上手に使いこなすように非常に広く、深い意味をもっている。かなり抽象度の高い用語なのだ。普通に「かわいらしい」を意味する場合もあれば、「ブサかわいい」「キモかわいい」などちょっと他と変わっている特徴を「かわいい」と表現することも少なくない。

 この「かわいいから好き」だけでは、ゴールドシップのどんなところがかわいいのか、どうしてこれほどまでにかわいいと感じさせてくれるのか、は見えにくい。「いや、もう、とにかく『かわいい』んだよ」と言いたくなる気持ちもわかるが、やはり、ある程度具体化して、多くの人と「かわいい」を共有したい。

 ということで、「ゴールドシップは、なぜあれほどまでに魅力的だったのか?」を深く探っていきたい。もしかしたら、当時は気付かなかった、新たな魅力を発見できるかもしれない。あるいは、多くの人が気付いていたのに、筆者だけ気付いていなかったすごい魅力に出会えるかもしれない。まずは、ゴールドシップがなぜあれほどまでに愛されたのか、その要因を列挙していこう。

(2章につづく)
ゴールドシップ

▲ netkeiba Books+ からゴールドシップ  多くのファンを虜にした芦毛の“気分屋”の1章、2章をお届けいたします。(撮影:下野雄規)


ファンを魅了する源は“強さと脆さの同居”にあった!?


 ゴールドシップは、なぜあれほどまでに多くの人々に愛されたのだろうか。まず、真っ先に考えられるのは見た目だ。芦毛の馬体にピンク色の鼻面。「つぶらな瞳がかわいい」なんていう書き込みも多い。もっとも、このあたりは見る人の主観が多分に反映されているので何ともいえない。

 ただ、芦毛という毛色が人気を後押しした部分は小さくないだろう。人気の芦毛馬といえば元祖・芦毛のアイドルホース、オグリキャップ。さらに、同時代のタマモクロスやホワイトストーンも芦毛だったし、ゴールドシップの母父でいまだに最強ステイヤーの呼び声も高いメジロマックイーン、あるいは少し時代が下ってビワハヤヒデやセイウンスカイ、クロフネなどなど、枚挙にいとまがない。とくに、ブルードメアサイヤーのメジロマックイーンの面影をゴールドシップに見ていたというオールドファンも少なくなかったようだ。

 実際、芦毛好きのファンは多い。若いうちは黒っぽかったり、灰色がかっていたり、あるいは母親の毛色に似ていたりするが、年齢を経るとともに白いブチが増えてきて、やがて真っ白な(見た目上の)白馬になるというのはとても魅力的だ。年齢を経ることでこれほどまでに色が変わっていくというのは、他の毛色ではお目にかかれない。

 もちろん、ゴールドシップの魅力は毛色だけではない。競走馬にとって最も重要な「強さ」をもっていたことが、当然、人気の理由のひとつに挙げられよう。そもそも、強くなければ注目されることもない。まれに極端に弱い(100戦以上未勝利のような)ことで人気を博す馬もいないわけではないが、これは特殊な例。やはり、競走馬は強くないと愛されにくい。

ゴールドシップ

(C)netkeiba.com


 ただし、ゴールドシップの場合は「ただ単に強い」ことで愛されたわけではない。「ゴールドシップ かわいい」で検索して出てきたまとめサイトには「強さと脆さの同居」という表現があった。まさに、言い得て妙といえるだろう。これについては別の章でレースを追いながら、もう少し深掘りしてみたい。

「強さ」に関しては、「強さと脆さの同居」とも絡むが、ゴールドシップがたびたび見せてくれた「通常ではあり得ないようなレース展開」も人気の秘密と言えるだろう。ゴールドシップの代名詞といえば「出遅れ」。そして、最後方から向こう正面で加速を始め、4コーナーでは先頭を伺う位置まで押し上げ、直線で抜け出すという超ロングスパートで勝ち切るという展開は、多くの競馬ファンが「あり得ない」と笑ってしまうほど魅力的な勝ち方だった。

 そして、「強さと脆さの同居」がここでも表れ、あり得ない展開で勝つときもあれば、あり得ない展開で負けることもあるというのもまた、ファンにとっては大きな魅力だった。ハラハラして見ていられない、でも心配で目が離せない。そんな複雑な心境になり、もう心はゴールドシップのことで一杯になっている。

「あり得ない」という意味では、ゴールドシップの「キャラクター性」も愛される理由のひとつだ。代名詞の「出遅れ」もキャラクターだし、出遅れの原因である「気性難」も魅力的なキャラクターだ。気性難が絡んだ数々の不思議なエピソードも、ゴールドシップの魅力的なキャラクター性を示してくれる。

 なかでも、競馬関係者までもが驚いたゴールドシップが「吠える」というエピソードは興味深い。「鳴く」「嘶く」ではなく「吠える」。しかも、他馬を威嚇するために「吠える」。ゲート内で、隣の馬を威嚇するような行動もたびたび見られた。

 元ジョッキーの細江純子さんはJBISのコラムで、ゴールドシップが「吠える」ことについてこんなふうに書いている。

「私が馬と出会ってから初めて耳にした馬が吠えるという行為。鳴くのではなく、吠える…。しかも地鳴りを思わせるような、深い深い奥底から振動するような声で、一瞬、寒気すら感じたほどの恐怖でした。猛獣を通り越して怪獣のような恐ろしさと、馬がこのような音を発するのだ〜という驚きに、思わず私もキャーキャーと声を乱してしまいました。」

「ゴールドシップの担当である今浪厩務員の元にかけよると、同じく第一声が、『吠えとったわ』と。そして、『隣のフェノーメノにケンカ腰になっていた』と愛馬の気持ちを代弁。そして数分後に決着したレースの勝者はフェノーメノに...。もし今浪厩務員のおっしゃるとおり、本当にフェノーメノを威嚇していたとするならば、やはりゴールドシップはあのレースでの勝者を理解していた可能性は十分に考えられる気がします。」(原文ママ)

 そして、もともと群れで暮らしていた馬は集団のなかでボス争いをすることも珍しくなく、強いオーラを放つフェノーメノにボス争いを挑んだのかもしれないと分析している。

 ゲート内で隣の馬にボス争いを仕掛け、吠えて威嚇する。そんなとんでもないキャラクターの持ち主が、愛されないはずがない。いや、もう愛さずにはいられない。こうしたゴールドシップの魅力について検証していきたいと思うが、次章では「強さと脆さの同居」について見ていこう。

(続きは 『netkeiba Books+』 で)
ゴールドシップ  多くのファンを虜にした芦毛の“気分屋”
  1. 第1章 ゴールドシップが内包していた「かわいらしさ」の正体に迫る
  2. 第2章 ファンを魅了する源は“強さと脆さの同居”にあった!?
  3. 第3章 数字から浮かび上がってきたゴールドシップの魅力
  4. 第4章 デビュー当時から随所に見られた「破天荒」の片りん
  5. 第5章 強さを随所に示しながらも大舞台で見せた“綻び”
  6. 第6章 普段はやんちゃ坊主でもレースでは優等生を演じる
  7. 第7章 成長過程で露呈してきた“気難しさ”ゆえの“脆さ”
  8. 第8章 “強さ”と“脆さ”に振り回される陣営と関係者、そしてファン
  9. 第9章 人間の思惑をことごとく裏切り続けた古馬時代
  10. 第10章 ファンを惹きつける最大の要因は「一瞬たりとも目が離せない」こと
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