▲中西調教師と筆者、このオシャレな場所はいったい…!?
最近、地方競馬にキレイな厩舎が増えてきています。中でもオシャレな厩舎の一つが高知競馬場にある中西達也厩舎。開業して1年2カ月ながら西日本ダービー(地方全国交流)など重賞6勝で、高知を代表する生え抜き馬・フリビオンを管理します。忙しい合間を縫ってまでなぜ厩舎をリノベーションしようと思ったのでしょうか。そのポリシーは、JRA調教師リーディングを走る藤原英昭調教師の思いにも通じる部分がありました。
厩舎初勝利は重賞レース
暗闇にナイター照明が輝く高知競馬場。
「いや〜シビれたねぇ。2、3着は嫌だな〜、どっちか勝って! と願ったよ」
ほくほく笑顔で重賞・黒潮菊花賞を振り返ったのは中西達也調教師。管理馬2頭を送り込み、アウトスタンディンが優勝、ヴァリヤンツリが3着でした。
中西師は1987年に中津(大分県、廃止)で騎手デビュー後、高知に移籍。通算2597勝を挙げ、2000勝ジョッキーが集うゴールデンジョッキーカップ(園田)では優勝もしました。
現役生活も晩年に近づいた頃、1頭のフリオーソ初年度産駒に出会います。名前はフリビオン。前年から高知競馬で再開された新馬戦を勝利すると、勝ち負けを繰り返しながらも2歳重賞を2勝。3歳になり、体質がしっかりしてくると5連勝で世代No.1を決める高知優駿(地方全国交流)を優勝しました。
「ダービーを勝った時はこみあげてくるものがありました」
滅多にしないというガッツポーズで高知優駿のゴールを迎えた中西師。実はその直後、調教師試験を受けることをすでに決意していたのです。
「これがラストダービーかもしれない」という思いと、「デビューから共に戦ってきたフリビオンに勲章を」という思い。さまざまな思いを抱えながらの勝利だったのです。
そして高知優駿から約1カ月後、中西師は調教師試験に見事合格。オーナーの理解もあり、騎手として所属もしていた炭田健二厩舎からフリビオンを譲り受け、厩舎を開業しました。
記念すべき初出走はフリビオン。初陣は重賞レース・珊瑚冠賞となりましたが、見事勝利で飾ると、佐賀へ遠征した西日本ダービーも制覇。ダービーグランプリ(水沢、地方全国交流)こそ2着だったものの、年末には地元の大一番・高知県知事賞も制覇しました。
▲(左から)炭田調教師、續晋(つづきすすむ)厩務員、中西調教師とフリビオン、續厩務員は炭田厩舎から移籍しフリビオンやアウトスタンディンを担当(撮影は昨秋)
▲フリビオンの馬房、制覇した重賞が書かれたお手製プレートも飾られている
「馬が花を食べちゃって(苦笑)」
厩舎が順調な滑り出しを見せていた頃、中西師は仕事の合間を縫ってホームセンターに通っていました。
大量のペンキを買ってきて、古い厩舎の壁や馬房扉を真っ白に塗ると、「厩舎が明るくなった」といいます。
さらに花を買ってきて馬房と馬房の間にプランターを吊り下げました。しかし「届かないところに置いているつもりでも、馬が食べちゃって(苦笑)」とこれは断念。代わりに厩舎入口に花壇を作り、訪れる人を華やかに迎えました。
▲真っ白なペンキを塗って、古い厩舎が明るく生まれ変わった
▲厩舎入口の花壇が訪れる人を華やかに迎えてくれる
そして調教師室前にサンシェードとテーブルを設置。中西師の愛称・アーサー(俳優の黒田アーサーに似ていることから命名)にちなみ「カフェ・ド・アーサー」(※文頭写真)が出来上がりました。
「オーナーが厩舎にいらした時に気持ちいいように、と思って色々と手を加えています」と中西師。
JRAの藤原英昭調教師も厩舎にラベンダーを植えるなどしていて、「オーナーの大切な馬をお預かりしている場所。オーナーがいらした時に、気持ちのいい綺麗な環境をつくっています。海外ではこれが標準」というようなことを話されていました。
地方競馬でも園田競馬場の森澤友貴厩舎はおしゃれな外観(調教師室内もかなりおしゃれという話)。現在、美浦トレセンでは厩舎の改築が行われていますが、財政面などから簡単に改築工事が行なえない地方競馬。その中でも、こうして気持ちのいい環境づくりに力を入れている若手調教師が増えてきています。
「ちょうど今くらいの季節は心地いいですね〜」と先月31日、調教終わりの朝8時、カフェ・ド・アーサーでコーヒーをいただいてきました。ふと目の前を見ると、そこは炭田厩舎。中西師が騎手時代に所属し、フリビオンをデビューから管理していた厩舎です。
「11月末で炭田先生が引退されるんですよ。私が厩舎を開業してからも困った時は助けていただいていたので、寂しくなりますね」
中西厩舎には炭田厩舎から引き継いだ馬やオーナー、そして厩務員がいます。それだけ強いつながりを持っていた炭田師に向けて、中西師は今月4日の高知10R「中西達也厩舎協賛 炭田先生に感謝特別」を行いました。
一方、同日にはフリビオンが約8カ月ぶりにレースに復帰。後方からレースを進め、残念ながら6着でしたが、今後に期待が寄せられます。
恩師の引退と看板馬の再スタート。開業2年目を迎えた中西厩舎は新たな局面を迎えそうです。自身のイニシャルをもじって「TNレボリューション」と称する改革は、ハード・ソフト両面においてこれからも進んでいくでしょう。