▲トップを走り続けた2018年をルメール騎手が振り返ります (撮影:大恵陽子)
昨年、JRA年間215勝を挙げて、武豊騎手の持つ212勝を超えて年間最多勝の新記録を樹立したクリストフ・ルメール騎手。記録更新の瞬間、中山競馬場の関係者スタンドでは大喜びでルメール騎手のもとへ走っていくご家族の姿がありましたが、実はお子さんからも新記録を期待されていたとか。さらに昨年は勝利数だけでなく、アーモンドアイでの牝馬三冠やジャパンカップでの驚異のレコード勝ちなど記憶に残るレースもたくさん見せてくれました。ルメール騎手にとってトップを走り続けた2018年はどんな年だったのでしょうか。
(取材・構成:大恵陽子)
熟成されていくフランスワインと僕は同じ(笑)
――2018年、JRA年間215勝を挙げて年間最多勝記録の更新、おめでとうございます。2017年は「199勝」でしたが、「200」という数字は意識されていましたか?
ルメール まず一番の目標は200勝でした。夏からすごくいいペースで勝つことができて、早めに200勝を達成できましたね。それで、新記録も取れると思って、ちょっと緊張しました。新記録は大事です。ファンも競馬関係者も新記録はすごいことだと思っていますし、新記録をリスペクトしています。僕にとっても大事なものでした。
2017年は最後の日(12月28日)が勝てず2着ばかりで嫌でした。でも、その経験があったので、プレッシャーがそこまで強くなくてリラックスしてスムーズなレースができました。だから、2018年は最後の日に4勝できました。フランスワインは年を重ねるごとに熟成されておいしく、ウマくなります。それと同じで、僕は今年40歳になるけどまたウマくなれますね(笑)。
▲中山競馬場で年間最多記録を更新 (撮影:下野雄規)
――武豊騎手の記録を超えたというのはどんなお気持ちですか?
ルメール ユタカさんは昔からすごくいいジョッキーで、記録は全てユタカさんが持っていました。彼は天才。同じレベルになれたことはすごく嬉しいです。ただ、新記録をとれたことは、運もちょっとあったと思います。2018年は怪我をせず、騎乗停止も1回だけ。海外に行ったのもドバイと香港だけ。1月〜12月までコンスタントに勝てました。だから、新記録をとれたんだと思います。
ユタカさんはフランスに来ていた時からお手本です。乗り方を観察してきましたし、これからもそうします。騎手を30年以上続けて、ずっとトップレベルで戦っていることを大いにリスペクトしますし、4000勝を達成されたこともすごいことだと思います。
――新記録更新となった12月28日中山6Rマイヨブランでルメール騎手が先頭でゴールした瞬間、奥様や子供たちが歓喜の声をあげながら走っていく姿をお見かけしました。
ルメール 記録更新は家族にとっても少しプレッシャーがありました。12月は奥さんや子供たちも記録についてよく話していて、子供たちは「パパ、新記録を取って、取って〜!」って。フランスの写真家も、その瞬間を撮影したいと来日してくれました。フランスでもみんな応援してくれていました。そんな状況だったのでプレッシャーはありました(笑)。でも、新記録を取った時はみんなで喜びました。
――ご家族が競馬場によく応援に来られているなど、家族みんなでパパを応援していて素敵ですね。そういえば、昨年8月、ワールドオールスタージョッキーズで総合優勝をされて記念の手形を押す時には「マイマーク!」と指輪も一緒に収まっていましたね。
ルメール 家族は大レースの日はよく競馬場に来てくれています。中でも、中山の最後の日(12月28日)は特別でしたね。指輪は2つあるんです。左手は結婚リング、右手はエンゲージリング。両方つけて、指輪と一緒に乗っています。
牝馬三冠よりジャパンカップの方が緊張した
――ところで、昨年は年間最多勝の記録更新もですが、アーモンドアイとの活躍も印象的でした。牝馬三冠のかかった秋華賞よりもジャパンカップの方が緊張したとおっしゃっていましたが、なぜですか?
ルメール ジャパンカップは1番枠だったからです。スタートしてすぐコーナーを迎えるコースですが、彼女はゲートの中でチャカチャカしてたまに出遅れるので、もしそうなったら外から被せられて内から出られなくなって嫌だなと思っていました。JCはスタートでジャンプしましたが、1、2歩目が速くてすぐにいいポジションを取れて安心しました。すぐに逃げたキセキの後ろはちょうどいいポジションで、1コーナーでは「いい感じ!」と思えましたね。
▲懸念の最内枠もクリア、ジャパンカップの表彰式での様子 (撮影:下野雄規)
――古馬相手にJCを2分20秒6でレコード勝ちしたこともあり、アーモンドアイは3歳牝馬としては史上2頭目の年度代表馬に選出されました。それも、満場一致。おめでとうございます。
ルメール 史上2頭目なの? すごい! 投票ではみんなが選んでくれたんですよね。三冠を獲って、JCは古馬相手にレコード勝ち。昨年の彼女はパーフェクトで受賞に値すると思います。
これまでハーツクライ(2005年最優秀4歳以上牡馬)やメジャーエンブレム(2015年最優秀2歳牝馬)、レイデオロ(2017年最優秀3歳牡馬)などの騎乗馬がJRA賞をもらったことはありましたが、年度代表馬は初めてです。牧場から競馬場まで、調教師や厩務員などアーモンドアイに携わった人がみんな一生懸命働いていい仕事をしてくれたからですね。
――アーモンドアイは美浦・国枝栄厩舎で、天皇賞・秋を勝ったレイデオロは美浦・藤沢和雄厩舎。美浦の厩舎や馬とも好成績を残していますね。
ルメール 美浦では国枝先生と藤沢先生の馬にたくさん乗ります。調教師とジョッキーのコンビネーションが良かったら、お互いに信頼できていいレースができるし、いい結果が出せると思います。
――アーモンドアイは今春、ドバイ遠征が予定されています。その後は、昨年の活躍からも凱旋門賞に出走し、そこでいい結果を残してくれることを期待する競馬ファンも多いと思いますが、どう思われますか?
ルメール 凱旋門賞はみんなにとって勝ちたいレースですね。でも、まだ時間がありますし、ゆっくり考えます。
――ルメール騎手の好きな言葉ってなんですか?
ルメール 『ファイト』『一生懸命』『がんばって』です。心の中では勝ちたいって気持ちが強いです。ゲートの中では「勝ちたい」ってすごく集中しています。他の騎手やスポーツ選手と同じくらいアスリートスピリットがあります。
――最後に、今年はどんな年にしたいですか?
ルメール 毎年同じですが、大きなレースに乗りたいし、勝ちたいし、いいレースをしたいです。ミスせず、いいレースをするのが僕の仕事。それで馬のコンディションがよかったら、大きなレースも勝てると思います。日本はほぼ毎週、大きなレースがあるので、毎週集中して僕のベストパフォーマンスを出したいですね。
そのためには真面目に、一生懸命しないといけません。毎週、違う調教師さん、違う馬主さん、そして毎週ファンのみなさんが馬券を買ってくれています。だから、毎週一生懸命がんばります。今年も応援よろしくお願いします。