▲東京パラリンピックを目指している元JRA助手の宮路満英氏
2020年の東京オリンピック・パラリンピックまであと1年半を切った。「五輪と競馬」と言っても、関連性を思い浮かべる人は、競馬に対する関心度とは関係なく少なかろう。
だが、56年ぶりの国家的イベントで、日本の競馬施行体が、政府の強い影響下にあるJRAと、地方自治体であることを思えば、無関係では済まない。また、馬術という五輪で唯一、人間以外の生物が参加する競技もある。この点は競馬と他種公営競技の大きな差である。今回は五輪・パラリンピックと競馬界とのあまり知られていない関連性に触れる。
非営利団体初のパートナーシップ
有馬記念を2日後に控えた昨年12月21日。東京・六本木のJRA本部で、東京オリンピック・パラリンピック組織委員会(以下2020組織委)とJRAの共同会見が開かれた。2020組織委とJRAの「東京2020オフィシャルコントリビューター」(以下OC)契約締結を伝える趣旨だった。
組織委のホームページによれば、OCは企業を対象としたスポンサーシップと異なり、大会開催に貢献する非営利団体を対象としたプログラム。契約を締結すると、貢献内容に応じて、国内で呼称などの権利を行使できる。貢献内容は、馬術競技会場である馬事公苑(東京都世田谷区)の整備と無償貸与、大会中に使用される仮設の施設(オーバーレイ)整備、期間中の獣医師派遣などの運営支援などが挙げられている。
馬事公苑はJRA保有で、1964年の東京五輪の会場でもあった。ただ、当時は大会の華だった障害馬術は最終日に、メーン会場の国立競技場で行われた。今大会の招致段階で、馬術会場は東京臨海部に新設する計画だったが、費用削減の観点から馬事公苑に変更された。既に老朽化が進み、改修が迫られていたのだが、JRAは約317億円を投じて17年から改修に入り、今年10月に第1期工事が竣工予定。大会後は仮設施設を撤去し、緑地化などを進める22年秋までの2期工事に入る。
組織委の現在の最大の課題は、運営費の圧縮。競技施設自体の整備費は運営費に含まれないが、仮設費用は運営費に該当し、額もかなり大きい。馬事公苑の場合、仮設スタンドやプレスセンター、さらにセキュリティーチェック用の通路や競技馬の馬房の冷房など、関係者によれば総額100億円以上という。
獣医師派遣も協力の核心部分だ。国内の馬術競技を主管する日本馬術連盟に常勤の獣医師は不在で、国内大会では連盟に登録されている各地の獣医師を招集している。大動物や公衆衛生分野の獣医師は、国内で恒常的に不足しており、職員(約1800人)の約1割弱が獣医師免許を持つ(※長く臨床から離れている者もいる)JRAの助力なしに、五輪級の大会開催は不可能。
馬事公苑では第1期工事竣工前の今年8月、テストイベントが開催。国内で久々の本格的な国際大会になる。ただ、後述する検疫の負担から、参加する競技馬は30頭前後、外国馬は10-15頭の見通しだ。
JRAに続いて、今年2月12日に日本財団が組織委とOC契約を締結した。日本財団は競艇事業の収益で事業を行っているが、競技とは分離されている。今回の貢献内容も、ボランティアの研修プログラムのコンテンツ作成、講師の育成などが挙げられており、福祉関係に強い日本財団の特徴が現れている。
検疫に新たなアプローチ
五輪の馬術競技は常に、開催都市に大きな負担となっている。検疫が難題の種になるのだ。筆者は1990年に東京で開かれた国際オリンピック委員会(IOC)理事会を取材したことがある。当時はバルセロナ大会(92年)前で、理事会後のブリーフィングでは連日、馬術の検疫問題が言及された。