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▲木実谷場長が語る天栄マジックの真相は?
アーモンドアイを筆頭に、レイデオロ、ブラストワンピース、フィエールマン、ステルヴィオなど、昨秋のGIを席巻した、ノーザンファーム天栄の調整馬たち。アーモンドアイのドバイ挑戦を控え、“天栄マジック”の真相を探るべく木実谷雄太場長を直撃します。
(取材=不破由妃子)
「休み明け」は私たちにとっての体のいい表現であり、ただの言い訳
──ノーザンファーム天栄がスタートして約7年半。昨秋は、アーモンドアイ、レイデオロ、ブラストワンピース、フィエールマン、ステルヴィオをはじめ、天栄で調整していた馬たちの活躍は目を見張るものがありました。木実谷さんが場長となられてから約4年が経ちますが、取り組んでこられたことの成果については、どのように感じていらっしゃいますか?
木実谷 実感としては、私が場長になってからというわけではなく、ノーザンファーム全体として積み上げてきたノウハウの蓄積が今の結果に結びついているのではないでしょうか。たとえば、最近多様化が目立つローテーションひとつを取っても、各世代の馬を見ていく中で、馬によって違う回復度合いや成長曲線を見極められるようになって、それぞれの馬に合うローテーションを組むことができるようになりました。これは一世代に何百頭も生まれて、育成してノウハウを積んでいくことができるノーザンファームの一番の強みだと思います。
──いわゆる王道といわれるローテではなく、ポテンシャルを最大限に引き出すローテーションということですね。
木実谷 そうですね。結果的にクラシックレースをはじめとする大目標のレースにいい状態で使えなければ意味がありません。別にこれまでの既定のローテーションがダメというわけではなく、あくまでも馬の状態本位でローテーションを組んでいかなければならないということです。
──去年の話になりますが、アーモンドアイのシンザン記念から桜花賞に直行というローテーションも、そういったノウハウが生かされた選択だったのですか?
木実谷 今思い返すと、多方面から賛否両論いただきまして色々と迷うことも多かったのですが、一番は馬の状態を優先してシンザン記念→桜花賞というローテーションになりました。当時のアーモンドアイは1走毎の消耗が激しく、次のレースに向けての立ち上げに時間が掛かるタイプでした。間に1走挟むことによって疲弊してしまっては元も子もありませんし、成長を促す期間を設けるという意味も含めて桜花賞に向けてじっくりと調整を進めていくことを選択しました。
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▲シンザン記念から桜花賞、多方面から賛否両論があったという(C)netkeiba.com
──会員さんにしてみれば、1レースでも多く愛馬が走る姿を見たいと思うでしょうしね。
木実谷 馬主様や会員様のそういう気持ちは十分わかっているつもりです。ただ、結果的に走らなければガッカリさせるだけですし、だからこそいい状態でレースに臨み、結果に繋がるよう努めていかなくてはなりません。天栄の馬に関していえば、間隔の空いたローテーションで使うケースも多いのですが、一般的に「休み明け」と言われる言葉は私たちにとっての体のいい表現だけでしかなく、ただの言い訳だと思っています。大体のケースで、こちらが意図的に間隔を空けているわけですし、結果が出なければ私たちがしっかりと仕上げることができなかったということです。馬主様や会員様たちにも「間隔が空いていても、天栄で調整していたのであれば大丈夫」と信頼していただけるよう、これからも結果を残していかなければならないと考えています。
──たしかに、フィエールマンにしろアーモンドアイにしろ、それで結果を出しているという現実があります。個体差があることは前提として、王道ローテ自体が形骸化しつつあるのかもしれませんね。
木実谷 なんといっても、馬は生き物ですからね。先ほどもお伝えしたように、馬がパフォーマンスを発揮できる状態でレースに臨めるかどうかが一番重要なわけです。アーモンドアイやフィエールマンのような成功体験が積み重なってくれば、携わる方々にもご理解をいただけるようになるわけですし、 現場のスタッフも自信を持って臨めるようになります。これからも固定観念にとらわれず、色々と試行錯誤しながら馬と向き合っていきたいと思います。
──成功体験の裏には、当然糧となった失敗体験があると思います。それにまつわる印象的な馬や出来事というと?
木実谷 たとえば秋華賞ひとつにしても、アーモンドアイのように美浦トレセンで最終調整を行った馬が勝ったのはメジロドーベル以来となりました。それだけの長いあいだ勝っていなかったということは、どこかに問題があったというわけで、結果を出すのに随分と時間が掛かってしまったという印象です。ローテーションに関しては紫苑Sから秋華賞、クイーンSから秋華賞といったものや、昨年のプリモシーンのように関屋記念から秋華賞を使ったりと試行錯誤を繰り返してきました。
また、その時期の3歳牝馬には過酷と言われるオークスを走った反動を感じ取ることができず、チェッキーノのようにクイーンS前に屈腱炎を発症してしまうということもあったので、調整を進めていく時期の見極めも慎重に行うようになりました。春のクラシックレースを使った疲労を十分に回復させた上で秋の大きなレースにいい状態で臨めるかという課題は牡馬、牝馬に関わらず、これからも大きなテーマになってくると思います。
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▲調整を進めていく時期の見極めも慎重に(撮影:下野雄規)
──そういったノーザンファームが有するノウハウが存分に生かされたアーモンドアイが現役最強馬となり、いよいよ3月31日(日本時間)、ドバイターフで2019年初戦を迎えます。木実谷さんがアーモンドアイの非凡性に気付いたのはいつ頃ですか?
木実谷 1歳の募集時からバランスのいい馬体で、とてもキレイな馬でしたね。調教もデビュー前からよく動いていましたし、素質の高さは常々感じていました。
──木実谷さんから見て、アーモンドアイの性格的な特徴とは?
木実谷 ちゃんと自己主張をすることができる馬です。馬房のなかではリラックスしていても、これから調教するぞとなると、目の色も変わりますし、オンとオフの切り替えが上手というか、気持ちの切り替えを上手にすることができる馬だとも感じています。
──そこまで切り替えができる馬は少数派ですか?
木実谷 牝馬のなかでは少数派かもしれませんね。牝馬は調教が進んでくるとどうしても落ち着きがなくなったりとか、飼い葉食いが落ちてしまったりと、精神面での影響で自身のパフォーマンスを発揮できなくなってしまう馬も多くいますので。
──ということは、オンとオフの切り替えが上手にできることも、強さの秘訣のひとつといえそうですね。
木実谷 そうですね。競走馬としてすごく大事なことだと思います。
──以前、netkeibaのコラム『with佑』で、アーモンドアイの2着を3度経験している川田騎手が、「アーモンドアイは、まだ本気で走っていないと思う」という感想を述べられていました。木実谷さんとしても、もう一段階ギアがあるのでは…という印象はありますか?
木実谷 そこはどうなのでしょうか。レースで騎乗したことがない私にはわからないですね。ただ、秋華賞やジャパンCのあとは、ヘロヘロで倒れそうなくらいの症状を見せていました。だから、私個人としては彼女のなりに精一杯走っていたのではないかと思っていますし、牧場でも最大限のケアをするようにしています。