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「高知競馬のドル箱、ファイナルレースはこうして作られる!」<第30回>風間恒一、山崎伸浩

  • 2019年03月31日(日) 18時00分
風間恒一&山崎伸浩

のどかで、どこか牧歌的な雰囲気のある高知競馬場のパドック。


もはや廃場は必至という瀕死の状態から、奇跡的な売上げ回復を果たした高知競馬。つい先日も1日の売上げが10億円を突破し、武豊騎手がハルウララに騎乗した日に記録した1日の売上げ最高記録を更新したことは記憶に新しい。今や“地方競馬の優良児”となった高知競馬の奇跡を語るうえで、欠かせないのが2008年に始まった『一発逆転ファイナルレース』の存在だ。ファンを虜にしてやまない魅力的な番組作りの秘密はどこにあるのか? 『ファイナルレース』ができあがるまでを追った。

『ファイナルレース』に選出されるための条件とは?



 午前11時半。せわしなく職員が働いている高知県競馬組合の事務所に、2人の記者が駆け込んできた。高知随一の名門専門紙『中島競馬號』の風間恒一記者と、競輪も扱う公営専門紙のパイオニア『福ちゃん新聞』の山崎伸浩記者だ。

「今日の担当記者は我々二人ですが、記者選抜編成会議の基本的なメンバーは高知競馬の専門紙2紙の記者が各一人ずつと、組合の編成担当の計4人で行っています。最終的な出走メンバーを決める際は責任者も含め、5人で合議して決定することになります」

『一発逆転ファイナルレース』と銘打たれた高知競馬名物の最終レースは、記者によって出走馬が選抜して行われる。通称“キシャセン”と呼ばれているのはそのためだ。通常、競馬に限らず、公営ギャンブルで一日のなかで最も売れるレースといえばメインレースだが、こと高知競馬に限れば、この『ファイナルレース』が最も売れている。

「打ち合わせで決めるのは、次開催の出走メンバーです。開催日数にもよりますが、だいたいひと開催で“記者選抜レース”が3〜7鞍程度組まれているので、それをすべて決めていくのですが、いわゆる『ファイナルレース』はそのうちの2〜4鞍ほどですね」

 当時、もう後がない状況でどん底にあえいでいた高知競馬が売上げの回復を果たすべく、関係者、メディアと一体となって考案。通常、地方競馬の記者選抜レースでは、単純な賞金順のクラス編成では不可能な対決を実現するために隠れた実力馬を中心に記者がピックアップするが、『ファイナルレース』はその発想を逆手に取り、勝てない馬ばかりを集めることによって、ファンの興味をそそる番組へと昇華させた。日程や競走内容などの違いによって多少異なるものの、今では一日の売上げのおおよそ2〜3割を占めるドル箱レースへと変貌を遂げた。

「出走メンバーを決めるにあたり、考慮するのは主に4点です。まずは「過去4走以内に1着がない」こと。転入馬に関しては「高知で数戦走って勝ち星なし」が条件になります。2つ目は「厩舎のバランス」。これは、特定のレースに同厩舎の馬が固まるのを防ぐためです。続いて、「時計差がない」こと。やはり実力をはかるうえで持ち時計はひとつの基準になりますし、高知競馬は馬場状態が変わることが多いので、その時計がどういう馬場状態で走っていたときに叩き出したものか、も考慮します。そして最後は「脚質」です。逃げ馬が1頭だけとか、偏った脚質だと展開的にも読みやすくなってしまうので、そのあたりは気を付けるようにはしていますね」

風間恒一&山崎伸浩

下調べしたリストをもとに、実際の出走登録馬と照らし合わせていく作業。お互いに出走馬をチェックしながら進めていく。



記者たちの観察眼と綿密な下調べがなければ成立しない



 では実際、『ファイナルレース』はどのようにできあがっているのだろうか。それに関して、引き続き答えてくれたのが山崎記者だ。

「まず期初に配られる高知競馬の年間番組表で、『ファイナルレース』がどのクラスの番組かを確認します。ほとんどがC級クラスなので、過去の新聞でタイムや順位を見ながら、その開催に出馬登録してきそうな馬を事前にピックアップしてリスト化します。そのリスト化したものを記者選抜競走会議当日、番組編成委員から渡される実際の出馬登録馬一覧と照らし合わせながら、実際の番組に当てはめていくわけです」

 その際に出走馬をふるいにかける基準が前述した4点であり、この記者選抜編成会議は事前に自分が想定した出走馬と主催者との「答え合わせ」みたいなものだという。そして、そこには『この馬が出たら面白そうだな』というファン目線のエッセンスも加わっている。

「極論をいえば、JRAのアルゼンチン共和国杯と一緒(笑)。力が拮抗したメンバーになるように近づけて、ゴール前で横一線になるようにするのが大前提ですから、当然、力が抜けた馬は選びません。ハンデ戦のハンデキャッパーのようなもんですよ。どの馬にも勝つチャンスあるように、我々も真剣になってメンバーを組みますからね。陣営もそりゃガチになるき」

 土佐弁で雄弁に語る風間記者だが、実際、出走馬の選出は普段からレースをよく見て、馬の個性まで把握していないとできない仕事である。『ファイナルレース』の売上げが多いのは、そうした本気度がファンにも伝わっている証しなのではなかろうか。

風間恒一&山崎伸浩

山崎記者が下調べしてきたリスト。このリストを制作するだけでも相当な時間を割くそうだ。



主催者と関係者との距離感の近さが『ファイナルレース』を生み出した



「だから、陣営も『ファイナルレース』に選ばれると思ってメイチで仕上げて、選出されなかったときの落胆ぶりといったら…(笑)。昔はそれで詰問されたこともありましたけど、今はだいぶ陣営も選出されるかどうか、読めるようになりましたからね」

 ちなみに、“一発逆転”とは「馬券でやられ続けたファンが収支を一発逆転」するのではなく、実力の拮抗した勝てない馬ばかりを集めたレースで「(勝てば)馬が境遇を一発逆転できる」意味合いが強いのだという。これも、連敗記録で日本中をフィーバーに巻き込んだハルウララが在籍していた競馬場ならではの発想といえる。

「そりゃ、関係者と言い合いもしましたけど、売上げが低迷して青息吐息だった時代から同じ方向を向いて、お互いしっかりと歩調を合わせながらやってきましたから」

 山崎記者も首肯して、最後にこう話してくれた。

「確かに、自分たちで選んだ馬に対して自分たちが予想をするわけですが、最終的に番組編成委員を交えて会議をするので、公正は保たれています。むしろ、この企画は主催者側からの依頼があって始まったものですし、主催者、関係者とのかかわりが近い高知競馬だからこそ実現できたと思っています。なるべく全馬に展開ひとつでチャンスがあること。みんなが死に物狂いで1着を狙いに来るようなメンバー、そんなメンバーになるように努力しています」

風間恒一&山崎伸浩

番組編成委員を交えた出走メンバーの選考には、間違いがないように細心の注意を払うという。



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