未来のスターホースを目指して入厩してきた2歳馬たち
新緑が眩しい季節になりました。栗東トレセンでは緑色のゼッケンを着けた馬たちが増えています。この時期、緑ゼッケン=2歳馬。歴戦の古馬たちに比べるとまだまだ体や顔つきは幼いですが、キラキラ輝く未来に向けて日々調教に励んでいます。
日本ダービー翌週からは新馬戦が組まれていますが、レース前の第一関門となるのがゲート試験。すでに2歳馬たちは続々と合格しています。しかし、ひと言に「ゲート試験」と言ってもそこに向かう過程はいろいろあるようです。今回の「ちょっと馬ニアックな世界」は、2歳馬のゲート試験とデビューについて探っていきましょう。
ゲート練習のさじ加減
トレセン内で見かけた今年の入厩第一号2歳馬
今年、初めて栗東トレセンで2歳馬を見かけたのは3月5日。3歳馬たちがクラシック一冠目に向けてまだ前哨戦を戦っている頃、森秀行厩舎の2頭(ジャスパージャガーとジャスパーシャイン)が入厩第1号でした。
「3月2日(土)に入厩して、翌週にゲート試験を合格しました。いまは放牧に出ていますが、そろそろ帰ってくる頃です」と森師。
ゲート試験へは実際にどういう練習を経て向かっているのでしょうか。何人かの調教師の話をまとめながら見ていきましょう。
まず前提として、ある調教師はこう話します。
「育成牧場で馴致の段階でゲートを通り抜けたりそこで立ち止まる練習をしていて、あとは調教で15-15(1F15秒)を出せるくらいまでやってくださっていれば、トレセンでゲート練習をした時、ゲートが開いて促せばスピードに乗って走れます」
栗東トレセンにやってくると、コースの内馬場に置かれたゲートで通り抜ける練習をしたり、一番外側のEコース(ダート)2コーナーポケットに設置されたゲートへ行きます。Eコースのゲートでは毎週水曜日〜金曜日、ゲートが開いてダッシュする、というよくレースで見るようなスタート練習ができます。
コースの内馬場に有るゲート
Eコースのポケットに設置されたゲート
ゲート練習のやり方やそこへ向かう過程などは厩舎によって違いもありますが、練習のさじ加減についてある調教師はこう話します。
「水曜日から金曜日まで3日間のうち毎日練習に行くか、『馬が嫌気が差すから1日置きにしよう』とかっていう見極めも大切になってきます。それ以外にも、ゲートに入ろうとしない場合、怖がっているのかズルくて入ろうとしないのかでは対応の仕方が変わります。
前者なら無理強いはしない方がいいですが、後者なら多少気合いをつければ入ることもありますからね。狭い所が苦手な馬はプールに行くと空堀(谷になっていて、両サイドが壁)があるので、そこで慣らすこともあります。うちの場合は馬にもよりますが、合格まで2〜3週間ですかね」
“人酔い“ならぬ、馬も馬に酔う?
一方、友道康夫調教師は「うちの厩舎は秋デビュー馬のほとんどは函館競馬場で入厩から1週間ほどでゲート試験を受けさせます」といいます。
ゲート練習に函館を選ぶ理由を語る友道調教師
函館を選ぶ理由は環境。栗東に比べて馬の頭数が少ないことで、馬ものんびりできるそうです。
たしかに、前出の森師も「トレセンでは牧場と違って馬がたくさんいるから、“馬酔い”みたいな感じで慣れるまでは疲れると思います。大手牧場ならたくさん馬もいるので慣れているでしょうけどね。人間も都会に出ていくと人酔いするでしょ?」と。いろんな“初めて”を経験していっている段階の2歳馬にとってはなるべくストレスがかからないようにしてあげることも大切なのかもしれません。
ちなみに友道厩舎がゲート試験に向かうまでの過程はこんな感じだそうです。
「金曜日に函館競馬場に入厩して、土日は乗りつつゲートをちょっと見せに行ったりします。週が明けて火曜日もゲートを見せに行って、水曜日から金曜日は栗東と同じくスターターがいるので、水曜日と木曜日はゲート練習に行きます。
そして金曜日に試験を受けるのですが、これまで十何年やってきて合格率98%くらいなんじゃないかって思うくらい、だいたいの馬が合格します。合格すれば翌日には放牧に出します」
そうして牧場でふたたび体力をつけて、涼しくなった頃、トレセンに入厩してさらなるトレーニングを積んでデビューを迎えるというわけですね。
ちなみに北海道開催が12週(函館・札幌各6週)に短縮された現在、「函館でゲート試験を受かった馬が札幌デビューするのはちょっと日程的に難しくなりましたね」と友道師。このあたりは一口クラブやPOGを楽しんでいらっしゃる方などはすでに実感されているかもしれませんね。
多くの調教師が「ゲート試験に合格すると、『競走馬になった』と感じます」と口を揃えます。大きな可能性を秘めて競走馬になっていく2歳馬たち。1カ月半後の新馬戦ではどんなレースを見せてくれるのでしょう。