▲騎手が証言する連続騎乗とテン乗りのメリット・デメリット、初回のゲストは名手・四位騎手 (撮影:山中博喜)
ここ数年でジョッキーの起用法に変化が現れ、テン乗りや乗り替わりが当たり前の時代となりました。それと同時に、1頭の馬に一人のジョッキーが乗り続けることが貴重となり、そのコントラストは年々強くなっています。
その是非はともかく、やはりジョッキーたちのレースに対する向き合い方も変わってきているはずです。そこで今回は、テン乗りと連続騎乗のメリットとデメリットをどう捉え、どう戦っているのか、様々な立場・年代の現役ジョッキー4人を含む5人のホースマンに直撃取材を敢行。それぞれの感性とスタンスを通して、今を戦うジョッキーたちのリアルに迫ります。
第1回目となる今回は、時代の移り変わりを第一線で感じてきた四位洋文騎手です。自身の若手時代との違いを明確に感じながらも、揺るぎないスタンスを持つ説明不要の名手。テン乗りと連続騎乗について持論を展開しつつ、最後に若手へのメッセージとも取れる「大事なこと」を語ってくれました。
(取材・文=不破由妃子)
競馬は“点”ではなく“線”で考える
──1991年にデビューされて28年。四位さんがデビューされた頃とはジョッキーの起用法がだいぶ変わったかと思いますが、実際、戦い方や心持ちに変化はありますか?
四位 僕自身のスタンスは変わらないけど、ジョッキー全体で見れば、当然変化はあるでしょうね。先のことを考えて乗るというより、ポイント、ポイントでの戦いになってますから。
その馬に対して、長いプランで考えて競馬に乗るのか、逆に“今回だけ”という競馬でいいのか、やっぱりその違いは大きい。負けたら乗り替わりなのであれば、もうそのレースのことだけを考えて乗ればいいわけですからね。
僕自身の考えをいえば、競馬を“点”ではなく“線”で考えてほしいという思いはありますが、なかなか難しいところですよね。
──調教技術全般が大きく進化したという側面もあるので、一概に良し悪しは言えませんが、昔は今以上にジョッキーが馬を育てるという過程もありました。
四位 そうですね。僕らが若い頃は、次はこうやったらいいんじゃないか、その次はこんなことをしてみよう、だったら調教からこんなふうに変えていこう、みたいなね。
そうやって1頭の馬を段階を踏んで勝たせていく過程があったけど、今の若い子にはなかなかそういう機会がない。かわいそうだなと思いますけどね。
▲「僕らが若い頃は1頭の馬を段階を踏んで勝たせていく過程があったけど」 (撮影:山中博喜)
──そうなると、感性が育たないという弊害も。
四位 それは十分あると思います。でも、こればっかりはどうしようもない。勝たないと話にならない世界ですからね。だからこそ、面白いテーマですよね。今、テン乗りをどう戦うか、みたいなね。
テン乗りで“良い”ジョッキーが必ず行っていること
──四位さんご自身は、“テン乗り”についてどういったこだわりや印象を持っていますか?
四位 馬にもよりますよね。誰が乗っても同じパフォーマンスを発揮してくれるような賢い馬はいいけど、ちょっと神経質な馬とか、折り合いに難がある馬などは、テン乗りだとどうかな…とは思います。あとは、ジョッキーにもよりますよね。
とにかく僕がテン乗りで大事にしているのは、パドックから返し馬、そこからゲートに入るまでの短い時間のなかで、いかにその馬の情報を自分のなかに入れられるかということ。自分のなかにあるその馬のイメージと、実際に乗った感じに違いがあるのかどうかとか、そのあたりを繊細に感じるようにしています。
トップジョッキーは、みんなその過程を大事にしていると思うけどね。返し馬を丁寧にやるジョッキーは、みんな考えてる。
──返し馬を丁寧にしているかどうかは、四位さんが見ればわかりますか?
四位 僕が見れば一目瞭然です。何も考えてないジョッキーは、パーッと行くだけだから。
──以前に騎乗していたジョッキーにリサーチはしますか?
四位 します。僕のなかでは、それはもう当然のこと。それをしないジョッキーもいるから、逆にビックリする(苦笑)。僕はその馬の情報はひとつでも多いほうがいいと思っていますからね。
──“結果を出す”ということにおいて、四位さんが思うテン乗りのメリットというと?
四位 メリットかぁ…。たとえば、掛かる癖があったりして、それまではどうしても後ろから行かざるを得なかった馬を、テン乗りでポッと乗ったジョッキーがスッと前に行って勝たせたりすることがありますよね。
だから、いつもと違う競馬をするという意味では、先入観がないぶん、メリットなのかなと思いますね。あとは、タッチの違いが刺激になって、動く馬とかもいるかもしれない。
▲「いつもと違う競馬をするという意味では、先入観がないぶんメリットかな」 (撮影:山中博喜)
基本的に連続騎乗にデメリットはない
──連続騎乗のデメリットにもつながってくるかと思いますが、やはり続けて乗っている場合、なかなか競馬の内容を変えられないものですか?
四位 そうですね。冒険できないケースもあります。あとは、そのクラスでやっと5着、6着にくるような馬の場合、どうしても競馬がワンパターンになりがちだったり。
ただ、僕は基本的に、連続騎乗にデメリットはないんじゃないかなと思いますけどね。やっぱりずっと乗っている騎手のほうが有利だと思います。
──実際、四位さんのGI・15勝中、テン乗りでの勝利は朝日杯フューチュリティSのサトノアレスのみです。あとはすべて、過程を共有しての勝利で。
▲2007年にウオッカでダービー制覇、同馬もデビューの頃からのコンビだった (撮影:下野雄規)
四位 GIのテン乗りはなかなかね…。サトノアレスの場合は、阪神の1600mだったこともあって、すごくシンプルな競馬で。いい馬だとは感じていたし、藤沢(和雄)先生からも「終いは絶対に伸びるから」と言われていたので、ああいう(後方からの)競馬になったんですけどね。
確かに今思えば、変な刷り込みがなかったのもよかったのかもしれません。もし、その前にも自分が乗っていて、そこで勝ち切れていなかったりしたら、いろいろ考えて違う競馬になっていた可能性もありますからね。
──精神面でのメリットはありませんか? テン乗りだと逆に燃えるみたいな。
四位 それはありますね。やっぱり乗り替わったということは、ある意味、期待されているわけですから。となれば、当然その期待に応えたい。そういう感情は、ジョッキーならみんな持ってるんじゃないかな。
──そういう気持ちはプラスですよね。
四位 そうそう、それは完全にプラス。たとえばそこで勝ったりしたら、関係者はみんな喜んでくれるし、自分はドヤ顔できるし(笑)。
いつも乗っているジョッキーより、テン乗りのジョッキーのほうが期待を掛けられていると解釈すれば、それはジョッキーにとってモチベーションになりますからね。そうやってプラスの感情に変えていくのもひとつの手ですよね。
──そうですよね。そこで勝てば、“点”のはずだったものが“線”になる可能性もある。
四位 そうなんですよね。自分が若い頃に比べると、今の若い子はかわいそうだなと思うところもありますけど、それでも少しずつ育ってきているのは感じます。
大事なのは、調教でもレースでも、いかに馬を感じて乗っていけるか。テン乗りだろうと連続騎乗だろうと、とにかく1頭1頭ちゃんと感じて、その過程を決して流れ作業にしないことが大事なんじゃないかと思いますね。
(次回も人気GIジョッキーが登場、具体的なレース回顧からテン乗りと連続騎乗を語ります)