プロの“予想家”として真摯に競馬と向き合う「まゆゆ」こと鈴木麻優元騎手。
惜しまれつつ、ステッキを置いてから約1年半―――。数多くのメディアに出演し、その天真爛漫なキャラクターとツイッターなどで積極的に発信している裏表のない素顔、そして元騎手としての視点を生かした予想で、現在のスタンスを築き上げてきた岩手競馬の元騎手・鈴木麻優さん。そんな「まゆゆ」の現在、そして彼女が描く未来予想図とは?
“元騎手”の肩書はプレッシャーだった
「今は、普通にバイトもしてますよ」
そういってケラケラと笑った“まゆゆ”こと鈴木麻優さん。そのチャーミングな笑顔は引退間もない頃と変わらず、屈託がない。「それでも、現役時代に比べると太ったんですよ」と体重を気にするあたりは、年頃の等身大の女性の姿そのものだ。
「学校を卒業してからずっと競馬漬けだったので、一般社会に触れてみようと思って(笑)。ずっと“普通の仕事をやってみたいな”という興味はあったんです。どうしてもこの仕事をしていると競馬だけになりがちですし、仮にこの仕事を辞めたとして何もできることがないと苦労するなと思ったので、今はいろんなことに取り組んでみたいなと思っています。自分の視野を広げる意味合いもありますね」
元騎手がバイトとは驚きだが、もともと栄養学や介護の仕事に興味があり、引退直後は一般の仕事を真剣に探していたほど。メディアの仕事に就くことなど、露ほどにも考えていなかった。
「メディア側が私に対して求めているのは“元騎手”という部分じゃないですか? でも、それに応えられるかどうかという点で、まだ仕事としてやっていけるだけの自信がなかったんですね。“元騎手”というレッテルだけで『知識がある』と思われがちなので、そこに自分が追いつくまでは大変でした。実際、当時は足りないものばかりでしたし、“元騎手”というレッテルは仕事を始めるうえでも、自分にとって大きなプレッシャーになっていました。もちろん、感覚など乗った人にしかわからない部分に関しては、自分のキャリアを踏まえて伝えることはできるなと思ったんですけど、知識やデータに関して不安はありましたね」
そう苦しかった心境を吐露してくれたまゆゆ。天真爛漫な笑顔の裏にそのような葛藤があったとは、当時は誰も知る由もなかった。とはいえ、彼女を支えるモチベーションになっていたのも、大好きな競馬の存在だった。
「最初の頃は地元のことしかわからず、中央競馬もGIを見ていた程度。同じ女性騎手として菜七子ちゃんのレースだけは注目して見ていましたが、それほど詳しかったわけでもありませんでした。それが、いろんな方に出会ってお話を聞いたり、自分なりに勉強して、今では自信をもってどんなことにも応対できるようになりました。ここまで支えてくれた人たちには、ホントに感謝しかありません」
馬柱を見ながら、予想と格闘するまゆゆ。さまざまなファクターのなかでも、とくに重視するのは当日の馬場傾向だという。
他の女性競馬タレントには負けたくない
現在は、およそ8〜10時間を予想の時間に充てている。金曜の午後から日曜まで、さらに平日は南関東、各地方の重賞と、プライベートの時間がないと思えるほど予想漬けの毎日だ。
「基本的に中央競馬、高知競馬は全レース予想しています。予想することが好きなので、大変とは思わないですね。予想の組み立て方も、昔に比べて変わりました。知識が増えたことで、予想の引き出しが多くなったのは確かですし、競馬は生き物なので、少しでも見逃すと馬場状態などさまざまなことが変わってきます。そうした些細な情報もしっかり頭に入れておかないといけません。こと予想に対する情熱に関しては、他の女性タレントさんには負けたくないと思っています」
最初の頃は時計を重視して予想していた時期もあったが、メンバー構成や展開ひとつでタイムがまったく変わる事実を突きつけられ、コース適性、馬場適性の高い脚質を重視して、予想するようになったという。
「時計は確かにファクターのひとつではありますけど、重視はしなくなりました。むしろ枠順やレースの流れを踏まえ、その馬場にあった脚質、メンバー構成で変わるペースや展開を予想の軸に据えています。また“私らしい予想”ということを考えたときに、自身の騎手経験を踏まえて、ポジションを獲りに行ける馬なのか、そこで掛かったりしないか、など、過去のその馬のレースぶりから性格を判断して、予想に反映するようになりました」
「夢は帯封」と言ってはばからないが、帯封を狙うための予想が一筋縄ではいかないのはファンなら誰もが知るところ。それだけに、彼女の予想スタイルも当然、穴狙いになる。
「力のある馬を本命にするのは普通。だけど、私は“面白い馬”を見つけたいと思っています。狙って“面白い馬”というのはだいたい穴馬になるんですが、自分なりの視点で穴馬を見つけて当てたときは快感ですね。本命はかぶる人が多いけど、穴馬を本命にする人は少ないじゃないですか。当てたときのインパクトが大きいし、そのぶんの見返りも期待できます(笑)。一発の破壊力も大きいし、目立てるし、まさに一石二鳥です」
パドックで、一頭一頭の馬を吟味する表情も真剣そのもの。予想のためには、時間と労力を惜しまない。
ファンと同じ目線で予想を楽しむ
騎手を引退し、立場が180度変わった現在。ゴール前で声を出し、勝った負けたで一喜一憂して馬券を楽しんでいる姿は、一般のファンと何ら変わるところはない。
「予想をするようになって、ファンの気持ちはわかるようになりましたね。大事なお金をかけていますからね(笑)。ただ、かつてジョッキーをやっていて、大事な局面での判断は騎乗している騎手にしかわからない感覚があるのは理解しているので、そこは一般のファンに比べたらジョッキー寄りというか、それで騎手を責めるようなことはないです。誰も負けようと思って乗ってはいませんし、結果的に判断が間違っていたとしても、当時はそれがベストだと思って乗っているわけですから」
こうした騎手心理が理解できるのも“元騎手”だったからこそ。それが予想に生かされているのなら、馬券ファンにとってこれほど心強いことはない。そんな彼女にとっての“予想”とは?
「生活の軸です。学校を卒業してからずっと競馬漬けだったので、逆にその他に熱中できるものってあるのかな? って思っちゃいますね。競馬がなくなったら、絶望ですよ。路頭に迷うと思います(笑)。表舞台に出なくなったとしても競馬はすると思いますし、スタンスは変えずにいきたいです。結婚しても競馬は続けたいですし、それには理解のあるダンナをもらわないと(笑)」
まっすぐな眼差しでそう言い切るほど、競馬をこよなく愛してやまない“まゆゆ”の“予想家人生”はまだ始まったばかり。これから、どんな驚愕の印で私たちを楽しませてくれるのか。その行く末を長い目で見守っていきたい。
やはり“元気印”のまゆゆには笑顔がよく似合う。そのチャーミングな笑顔と裏腹に、「他の女性競馬タレントには負けたくない」と気の強い一面も。
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