足跡を残して去った名馬の思い出は忘れたくはない
種牡馬の世界でしのぎを削ってきたディープインパクト、キングカメハメハが相次いで世を去り、これからはその後継馬たちによる争いが本格化していく。血統の継承のスポーツという競馬の一面がクローズアップされることには意味がある。
その血が確実に受け継がれていき、それを見ることが競馬の醍醐味と言えるからだ。ただ、足跡を残して去った名馬の思い出は忘れたくはないので、その血統を語るときには、いつも傍らにその記憶をとどめておきたい。静かに思い出すことでその思い出がこの心をうるおしてくれるし、競馬を崇高なものに導いてくれる。
そうした名馬の一頭、キングカメハメハと言えば、NHKマイルCからダービーと戦って勝った変則二冠馬。金字塔を打ち立てたその現役時代の蹄跡は今後も語り継がれていくことになる。管理した松田国英調教師は、その以前にも、クロフネとタニノギムレットで変則二冠制覇を狙っていて、前者はNHKマイルCを、後者はダービーを勝っていたが、二冠達成には至っていなかった。
そのころこちらの問い掛けにはこんな風に語っていた。「調教師の役割の中には種の保存ということがあり、世界レベルの種牡馬にするには1600米と2400米の両方で結果を残すことが肝要なのだ」と。
一冠目の皐月賞から外れ、変則路線を歩むには、それだけの器でなければならず、自信と信念がなければかなわない。中2週の厳しいローテーションであっても、「スタッフを信頼していたし、問題はないと思っている」とキングカメハメハがNHKマイルCを勝ってダービーに向かうときには述べていた。
そして悲願を達成し、種牡馬としても、国内外GI6勝のロードカナロアをはじめ、牝馬三冠馬アパパネ、ダービー馬のドゥラメンテ、レイデオロなどの名馬を輩出したのだから、松田調教師の「自分にとって、夢の塊だった」という言葉に、こちらも心を打たれたのだった。
松田師とはまた、「正攻法のレースがもっともこの馬の力を出せる」と語っていて、NHKマイルCもダービーも、ともにレースレコードをぬりかえる会心の勝利で、強さと速さという新しい時代の名馬の姿を見る思いがしたのだった。
キングカメハメハという一頭の名馬の生涯は、エポックメーキングな出来事を見せてくれたと言っていい。