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存廃自体を論議すべき 存在意義を問われる『サマーシリーズ』

  • 2019年09月30日(月) 18時02分
教えてノモケン

▲「サマースプリントシリーズ」を制したタワーオブロンドン (C)netkeiba.com


 9月の中山、阪神開催が29日で終了し、10月から舞台は東京、京都、新潟に。いよいよ秋競馬も佳境を迎える。GIも続くこの時期に、「今更」感は大いにあるのだが、問題提起するタイミングも実は今しかない。

 夏季競馬期間中の「サマーシリーズ」のことである。この時期の一連の重賞をシリーズ化し、ポイントで優勝を争う。今年は3つのシリーズのうち、「サマースプリント」は、第6戦のセントウルS(阪神・GII)をレコードで圧勝したタワーオブロンドンが優勝したが、残る「サマー2000」「サマーマイル」の2つは、該当馬なしで終わった。

 この決着は決して偶然ではなく、サマーシリーズ自体が構造的に、近年の競馬のあり方との乖離が大きくなった結果である。応急措置レベルの対策ではなく、もはや存廃自体を論議すべき時期が訪れた。

サマー2000 初の該当馬なし


「サマー2000」は、七夕賞、函館記念、小倉記念、札幌記念、新潟記念の5戦が対象。唯一のGIIである札幌記念は1着馬に12点が与えられ、2着6点、3着5点がつく。残る4つのGIIIは10、5、4点の順。ポイント首位で5戦のうち最低1勝し、13点以上を獲得するのが優勝馬の条件である。

 ところが、今回はシリーズ創設14年目にして、初めて優勝馬が出なかった。シリーズ5戦の優勝馬が別々で、しかも勝った5頭はシリーズの他のポイント対象レースに出走しなかったのだ。結局、GIIでポイントの多い札幌記念を勝ったブラストワンピースの12点が首位で、2位に10点の4頭が並んだ。

 シリーズ対象競走を複数、走った中では、小倉記念2着、新潟記念3着で9点のカデナが目立つ程度で、そもそもシリーズを狙いに行く馬がいなかった。

 5競走の勝ち馬を見ると、「やはり」というべきか、4頭はノーザンファーム(NF)の生産。例外は函館記念のマイスタイルで、きっちり使い分け、長めの出走間隔を取る勢力の寡占状態が深化すれば、この種のシリーズは全く機能しなくなる。

 加えて、シリーズ自体の設計にも無理がある。初戦の七夕賞から最終戦の新潟記念までは8週。早めに北海道に入って函館記念→札幌記念と進む形なら負荷は少なめで済むが、美浦所属馬の小倉記念参戦は輸送距離の問題で相当にハードルが高い。

 栗東の馬なら新潟も小倉も守備範囲内だが、福島は輸送距離がやや長め。本州の3戦に全部顔を出すのはかなり無理がある。

比較的に機能している「スプリント」


 一方、「スプリント」のタワーオブロンドンは最終的に21点で優勝した。シリーズ初戦の函館スプリントSで3着(4点)と人気を裏切り、2カ月以上開けたキーンランドCはダノンスマッシュに敗れて2着(5点)。

 ここで陣営は中1週でセントウルSに参戦。シリーズ王座を狙いに行った。昨今の競馬で、重賞3勝馬が中1週で走ること自体、相当なレアケースだが、1分6秒7のレコードで2着に3馬身差という圧巻の内容で12点を加えた。

 この結果、「スプリント」の優勝馬は、過去14回中11回で得点が20を超えたことになる。タワーオブロンドンは1勝だが、それ以前の20点超えの優勝馬6頭は全て、ポイント対象競走を2勝している。

 過去最高得点は13年のハクサンムーンで実に27点。CBC賞2着の後、アイビスサマーダッシュ(SD)、セントウルSを連勝したのだ。11年は優勝したエーシンヴァーゴウが26点で、アイビスSDとセントウルS優勝の間に、北九州記念も3着で4点を稼いだ。

 この年は北海道の2戦をカレンチャンが勝っていたが、それでも優勝には届かなかった。もっとも同馬は次戦でGIのスプリンターズSを勝っているが。

 このように、「スプリント」が比較的にシリーズとして機能しているのは、対象レースが6つで、初戦と最終戦の間隔が12週もあるためだ。3戦するのが非現実的とは言えず、むしろ、セントウルSから3週後に行われるスプリンターズSへの臨み方の方が、各陣営の悩みどころとなる。

 実際、過去13年で「スプリント」の優勝馬はのべ12頭がスプリンターズSに参戦しているが、2度の2着が最高。こうした問題があるとは言え、他の路線との違いは、短距離路線のハイシーズンに行われているのだ。

 筆者はタワーオブロンドンのセントウルS参戦の報に、「スプリンターズSは回避するのでは」と早合点した。長い出走間隔が当然と頭にすり込まれていたのである。タワーオブロンドンはスプリンターズSを勝ち、不利なデータも、形成されかけた先入観も払拭してしまったが。

教えてノモケン

▲サマーシリーズ歴代優勝馬


「マイル」は創設したこと自体が判断ミスと言わざるを得ない。12年の創設から8回だが、4回は該当馬なし。対象レース2勝は14年のクラレント1頭だが、これは本来なら中山施行の京成杯AHが新潟に移設され、左回り巧者の同馬が連戦しやすい状況だったからだ。

 17年は15点でウインガニオン、グランシルクが優勝を分けたが、残る2件の優勝はともに優勝最低ラインの12点と質は低かった。今年は中京記念1、2着のグルーヴィット、クリノガウディーが参戦したが、7、11着。「1勝して12点以上」の馬は出なかった。

「スプリント」も「マイル」も、サマーシリーズといいながら、最終戦は9月1週の阪神と中山に食い込んでいるのも、体裁としてはどうか。JRA内部にさえ、この点を問題にする意見は少なくない。

 夏競馬とともに終了する「2000」も、札幌記念というGI級のGIIが含まれていて、歴代優勝馬の得点を見ても、20点以上は4回だけで、15点以下が8回。シリーズとしての機能の仕方を見ると、スプリントは現状で問題ないが、「マイル」と「2000」はもはや存廃を考える段階だ。

発端は「何かやってる感」?


 3つあるシリーズのうち2つは、06年の創設。当時のJRAが置かれていた状況は、今日では想像できないほど厳しかった。1998年に始まった売り上げ低下局面は9年目に入っていて、組織形態改革問題も05年12月に決着がついたばかり。「経営努力をしている」という外部向けのアピールが求められていた。

 と言って、1年の競馬のカレンダーの中で言えば、夏場は1、2月と並んで閑散期なのは間違いない。この時期でも動くのは主としてコアなファンであり、そもそも売り上げのパイ自体が大きくない。

 施策の有効性以前に、ここで振興策を打って成功しても、さして増収にはつながらないが、それでも動いたのは「何かやっている感」を出すためだった。

 加えて、今世紀に入って民間企業だけでなく、公共性の高い団体にも広がりつつある成果主義の影響もあったと思われる。成果主義はその実、米国流の人件費抑制策という身もフタもない話なのだが、JRAでも個々の職員が目標を設定し、管理職が人事評価するという方式が採られている。

 例えば、現在の売り上げ上昇局面が特定個人のパフォーマンスの成果と言えるのかを考えれば、成果主義的なアプローチの限界は簡単に理解できるのだが、個々に対しても「何かやっている感」を求める雰囲気が出てきたのは間違いない。

 興行の主催者として、どんな形であれ新機軸を打ち出し、メディアの露出を増やしたい心理は理解できる。問題は外れた場合の対処で、民間企業はダメならすぐに撤退する。朝令暮改もいとわないが、困ったことにJRAには、1度始めたら簡単にやめない「悪癖」がある。

 例外は04年開始の薄暮競馬で、11年の東日本大震災の後、節電という当時の優先課題を考慮して撤退。現在に至っている。

 だが、こうした非常事態を除けば、一度始めたことは簡単にやめない。「やめたら誤りを認めたことになる」と思っているのではないかと邪推したくなる。サマーシリーズでも、何らかの「改善策」が出てくる気配がある。

暑熱対策を「降りる」名分に


 では、サマーシリーズの全部とは言わないが、一部であれ「降りる」大義名分はあるか? 十分にある。暑熱対策である。

 昨年7月の福島、中京開催を襲った猛暑を受けて、JRAも夏場に開催のある競馬場を対象に、パドックへのミストシャワーの設置や装鞍所の改修、装鞍所で待機する時間(引き馬で歩かせている)の短縮など、各種の対策をとっている。

 今年は福島も中京も天候不順で、中京に至っては芝の良馬場で施行された競走がなかったほど。肩透かしに終わった格好だが、近年の流れを見れば、昨年の暑さを基準に考える方が合理的であろう。今年も小倉記念施行日はやはり猛暑だった。8月1週だから当然だが、小倉で頭数を集めようと考えること自体、相当に無理がある。

 6月半ばから9月初旬までとスパンが長い「スプリント」はまだしも、5つの対象レースが8週という短い期間に集中していて、連戦がタイトル獲得の条件となる「2000」はいかにも無理がある。3つの指定レースが7週に集まる「マイル」と併せ、さっぱり廃止してはどうだろうか。

 今年の「2000」対象レースの売り上げは、軒並み好調だった。頭数の多かった新潟記念は前年比19.6%増。七夕賞に至っては、頭数が大きく増えたこともあって、39.6%増を記録した。シリーズの優勝争いへの関心は低くても、業績には影響しなかった。この辺を考えても、廃止の機は熟したのではないか。

※次回の更新は10/28(月)18時を予定しています。
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1964年1月19日、東京都出身。87年4月、毎日新聞に入社。長野支局を経て、91年から東京本社運動部に移り、競馬のほか一般スポーツ、プロ野球、サッカーなどを担当。96年から日本経済新聞東京本社運動部に移り、関東の競馬担当記者として現在に至る。ラジオNIKKEIの中央競馬実況中継(土曜日)解説。著書に「競馬よ」(日本経済新聞出版)。

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