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競馬場のヤキソバ文化

  • 2019年12月03日(火) 18時00分

かつて賑わっていた頃の名残り、心配される衰退


 ちょっと前のことになるが11月21日、笠松グランプリの取材で笠松競馬場へ。勝ったケイマは強かった。高知に移籍後、これで7連勝。次はいよいよダートグレードへの挑戦となるのかどうか。

 笠松競馬場に行くたびに寂しいなあと思うのが、スタンド裏にズラリと並んでいた食堂街のお店が徐々に閉店していっていること。自販機を置いた休憩所になったところもあるし、シャッターが降りたままのところもある。平成ひと桁のころは、まさに長屋風にずらりと並んだお店には人が溢れていて、そこを歩くだけでワクワクしたものだ。

 いま、正門を入ってオグリキャップ像を左手に見てずんずん奥に進んでいくとまず目に入るのが、2002年にオープンしたカフェ・イル・ファンティーノ。そこを過ぎると昭和の香り漂う食堂街で、今でもやっているのは、美津和家、寿屋、丸金食堂の3店舗。さらに奥に行くとたこ焼きの売店がある。

 地方競馬はここ何年か売上が回復傾向だが、言うまでもなくネットの売上が好調なだけで、競馬場に来るファンは減っている。それでも南関東などのようにある程度の入場者が見込めるところはいいが、地方都市の競馬場ではお店を続けていくのがなかなか難しい。ここ10年ほどで、お店を引き継ぐ人もなく、店主が高齢になって閉店したというところを、いくつもの地方競馬で見てきた。

 地方の競馬場がにぎわっていたころ、競馬場に着いてまず物色するのがヤキソバだった。「さて、今日はどこのヤキソバを食べようか」と。

 ところが、今はそんな選択肢もなくなった。笠松競馬場をざっと見て回ったところ、お店の前に鉄板を出してヤキソバを焼いているのは美津和家さんだけ。そういうわけで、選ぶ余地も悩む余地もなく美津和家さんのヤキソバだ。

美津和家のヤキソバは関東風ウスターソース


 笠松競馬場のヤキソバの特徴はといえば、色鮮やかな紅ショウガ。ヤキソバに紅ショウガは当たり前だろ、と思われるかもしれないが、笠松競馬場では美津和家さんだけでなく、かつてのどこのお店のヤキソバも、紅ショウガがみじん切りなのだった。おそらく、たこ焼きやお好み焼きに使うための業務用の紅ショウガではないかと思うのだが、どうだろう。

 そして笠松競馬場に唯一(と思われる)残された美津和家さんのヤキソバは、関東風のウスターソース。

 名古屋を中心とした中部地方は、関東と関西の食文化がさまざまに混在していることが多く、たとえばヤキソバであれば関東風のウスターソースだったり、関西風のどろソースだったりがお店によってさまざま。焼きうどんにしても、関東はおおむね醤油味だが、関西はほとんどソース。それが中部地方では、やはり混在している。

笠松競馬場で唯一となった鉄板ヤキソバの美津和家


 話が逸れたが、美津和家さんのヤキソバである。お願いしたのは、鉄板の上に焼かれた残りがわずかとなって、ちょうど次をつくるタイミング。前回焼いた残りのヤキソバを鉄板に広げ、まずキャベツを乗せ、その上に新たな麺を乗せる。なるほど、キャベツは蒸し焼きにすると甘みが増しておいしいのだ。しばしののちに、揚げ玉と桜えびが混じった状態のものをバラバラと振り、いわゆる油かすらしき肉もわりとたっぷりと。わしわしと混ぜて、仕上げにソース。必要にして十分なおいしい要素がちゃんと使われている。

 なぜ競馬場(だけでなく他の公営ギャンブル場も同じだと思うが)の定番がヤキソバだったのか。思うに、大きな鉄板で大量に作り置きができるからではないか。かつてにぎわっていたころの競馬場では、次々に訪れるお腹をすかせたお客さんをさばかなければならず、それゆえ一度に大量に作れるヤキソバは都合がいいのだろう。うどんやそば、ラーメンでは、こうはいかない。煮込みやおでんが定番なのも、作り置きができるという同じ理屈だ。

 今では、大レースの日や、盆暮れ正月などの特異日を除くと競馬場にはお客さんがあまり来ない。それゆえ作り置きしておくほどの量は必要としない。それで競馬場のヤキソバも徐々に衰退しているのではないだろうか。

 ちなみに、競馬場で撮影した写真の在庫を過去にさかのぼって見ていて、思わず笑ってしまった。なんと、昨年の笠松グランプリの日にも、美津和家さんのヤキソバを食べていたのだった。

 それで気になったのが、消費税。競馬場などの飲食店のように、手際よくお客さんを捌かなければならず、税込み価格当たり前のところでは、消費増税にともなう原材料の値上がりへの対応が難しい(と思われる)。釣銭のやりとりの面倒を考えると、1円単位は論外、20円、30円という単位での値上げも難しい。50円、100円単位で値上げするか、もしくは値上げしないという選択もある。

 またまた話は逸れるが、それで思い出したのが消費増税直後の10月に盛岡競馬場に行ったときのこと。盛岡名物ジャンボ焼鳥のお店が2軒、屋台村の両端にある。9月までの値段は、どちらもジャンボ焼鳥1本400円。それが10月になって、片や据え置き、片や一気に100円(!)値上げの500円になっていたのだった。今年度の盛岡開催は終了したが、新年度も100円差のままなのかどうか。

 果たして美津和家さんのヤキソバは……、値上げせずの400円でした。ガンバレ、ギャンブルフードの定番、ヤキソバ。

1964年生まれ。グリーンチャンネル『地・中・海ケイバモード』解説。NAR公式サイト『ウェブハロン』、『優駿』、『週刊競馬ブック』等で記事を執筆。ドバイ、ブリーダーズC、シンガポール、香港などの国際レースにも毎年足を運ぶ。

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