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馬を引き取りたいあなたへ「その馬を引き取ることで幸せになれますか?」

  • 2019年12月17日(火) 18時00分
第二のストーリー

2017年ツアーの様子(提供:ビッグゴールドサポーターズクラブ)


笑顔あふれるビッグゴールドサポーターズクラブ


 当歳馬や若馬たちの教育係、通称「園長先生」として北の大地で生き生きと暮らすビッグゴールド。中央競馬の現役時代から応援を続け、地方競馬に移籍してからは所属厩舎とコンタクトを取り、引退後の引き取りまで繋げた岡本義徳さん、朋子さん夫妻の情熱と行動力があったからこそ、今の姿があると言っても過言ではない。当初は岡本さん個人所有も考えたという。だがビッグゴールドを応援するファンの声もあり、2010年12月1日、会費月額2000円(1口・複数口も可)でビッグゴールドの馬生を支援する「ビッグゴールドサポーターズクラブ」を設立した。

 これまで会報やブログ、ホームページ、フェイスブック、ツイッター等で、活動及び近況報告をし、ほぼ毎年、10人前後の会員が参加しての牧場訪問ツアーを実施している。また金沢競馬場でも毎年、協賛レースを行っている。

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2010年に行われた協賛レース(提供:ビッグゴールドサポーターズクラブ)


 会員参加の牧場訪問ツアーは、新千歳空港集合、解散でビッグゴールドの繋養先である静内杉下牧場(旧静内坂本牧場)をはじめ、参加者の希望を聞いて岡本さんが訪問先にアポを取り、スケジュールを調整する。ワゴン車をレンタルし、義徳さん自らハンドルを握って牧場巡りを行っている。広い北海道の牧場巡りに車は必須だが、中には車の運転ができない人もいる。そのようなファンに、このツアーは喜ばれているようだ。最近はツアーの夜に行われる静内杉下牧場でジンギスカンやラムしゃぶパーティーも好評で、ビッグゴールドを中心に牧場、会員、岡本さん夫妻の和やかな輪が広がっている。

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ツアーでビックゴールドと触れ合う会員さんたち(提供:ビッグゴールドサポーターズクラブ)


 ここ最近、競走から引退した馬のセカンドキャリアを初めとして、引退競走馬支援活動がいつになく盛り上がりを見せていると感じる。その中で自らも引退馬を引き取りたい、そのような活動に参加したいと思われている方も少なくない。ビッグゴールドを引き取った岡本さん夫妻が取った行動は、今後引き取りや支援を考えている人々の参考になると思い、9回に分けて詳細に書かせてもらった。ただ岡本さん夫妻の方法が、すべての馬やその関係者に有効ではないかもしれない。ただ私が見聞きした限りでは、岡本さん夫妻の取った行動は、引退競走馬を引き取るにはベストに近いものだったと感じる。

行動を起こす前に…心に問うべき10の質問


 今回ビッグゴールドを紹介したのは、10月14日に東京競馬場で開催された「サンクスホースデイズ in 東京競馬場」のシンポジウムの中で認定NPO法人引退馬協会による「馬を引き取るということ―経験者に聞く」で岡本義徳さんと一緒に登壇させて頂いたのがきっかけだった。

 そのシンポジウムで司会を務めた引退馬協会専務理事の加藤めぐみさんが聴衆に向けて「馬を引き取りたいと考えているあなたへ 引き取る前に考えておくべき10の質問」という問いかけをされた。競馬や乗馬を引退した馬たちが新しい馬生を送るためには、必ず引き取り手が必要だ。引き取り手が多ければ多いほど、馬たちの命は救われてはいく。

 ただ加藤さんは、馬を助けたい、引き取りたいというたくさんの人々の相談に乗り、引き取った人々の経過も数多く見てきた。途中で経済的に苦しくなって馬を養えなくなり、人馬ともに不幸になるケースもあるという。それだけに安易な引き取りには警鐘を鳴らしている。

 ビッグゴールドの岡本さん夫妻のように、引き取りまでに時間をかけ、経済的な面も考慮しながら行動できれば1番ベストだろう。しかし、突然引退が決まり、急いで手配をしなければならないこともある。そこで必要となってくるのは、やはりお金ということになる。具体的な数字を言うと100万円ほどあれば、馬代金(その馬に関わっている人によって違う)や輸送費、当面の預託料等の初期費用を賄える計算だ。馬を飼うには、場所もいるし、手間もお金もかかるというのが現実なのだ。

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馬を飼うには場所も手間もお金もかかるというのが現実(提供:ビッグゴールドサポーターズクラブ)

 
 馬は犬や猫に比べると寿命が長く、30歳前後まで生きる馬も見受けられる。人間が年を取って健康を害したり、働けなくなっても馬はまだまだ元気一杯というケースも出てくる。だから引き取る時には、自分の年齢と馬の年齢をよく考えた方が良い。
 
 競馬や乗馬を引退した馬に関心を持つ人が増えなければ、現役を退いた馬の命は繋がっていかない。さらに言えば引き取るために行動をし、実際に養う人がいなければ、引退馬の命は繋がってはいかない。けれどもその前に前述した「10の質問」を自らに問いかけてみてはいかがだろう。

「馬を引き取りたいあなたへ 引き取る前に考えておくべき10の質問」


Q1.あなたはなぜその馬を引き取りたいと思っていますか?

Q2.あなたはその馬にどんな馬生を過ごさせたいと願っていますか?

Q3.あなたは終生変わらずその馬を養っていくという固い意志がありますか?

Q4.あなたはその馬より長生きをする自信がありますか?

Q5.引き取るための資金の準備はできていますか?

Q6.あなたはその馬の現在の管理者や所有者と連絡を取れる状態にありますか?

Q7.馬を引き取ったときの預託先を考えていますか?

Q8.馬を引き取った後、あなたにもしものことがあった場合のことを考えていますか?

Q9.馬を引きとった後に経済状況が変わったら、あなたは馬をどうしますか?

Q10.あなたはその馬を引き取ることで幸せになれますか?


 どの項目も、自分と向き合わなければならない内容で、胸にズシッとくる。私の場合、馬を引き取る前にこの質問事項を読んでいたら前には進めなかったかもしれないが、前もって知っておけばもっと早い段階から準備ができたとも思う。ただ引き取ってからでも、この質問は初心に帰る意味では有効だとも感じる。

 さしあたって自らがしっかり考えなければならなのは、Q4とQ8とQ9だった。経済面を含めて私にもしものことがあったら、愛馬はどうなるのかと不安になることもあるからだ。ただ健康でさえあれば、どの問題もある程度はクリアできそうなので、今すべきことは健康管理をしっかり行うということに尽きるだろう。

 ただQ10の質問だけは、自信を持って答えられる。愛馬と過ごしていると、日々新しい発見がある。信頼関係も深まっていく。愛らしい仕草に心癒される。間違いなく私自身は幸せを感じている。あとは愛馬にもっと快適な環境を与えることを努力していきたい。

 一方、岡本さん夫妻は、北海道にいるビッグゴールドとは時々しか会えない。だがゴールドの話をする2人は本当に楽しそうで、その存在が間違いなく岡本さん夫妻を幸せにしていると感じた。

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ビッグゴールドの存在が間違いなく岡本さん夫妻を幸せにしていると感じた、と筆者(提供:ビッグゴールドサポーターズクラブ)

 
 このコラムを読み、さらに10の質問を問いかけた上で、馬を引き取りたい、あるいは引退馬支援をしたいという方がいたら、下記を是非参照してみてほしい。

(了)


認定NPO法人引退馬協会
https://rha.or.jp/index.html

引退馬預託施設INFO
https://rha.or.jp/yotaku_info/index.html

ビッグゴールドサポーターズクラブ
https://www.biggold-supportersclub.jp/

ビッグゴールドFacebook
https://www.facebook.com/1998biggold

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北海道旭川市出身。少女マンガ「ロリィの青春」で乗馬に憧れ、テンポイント骨折のニュースを偶然目にして競馬の世界に引き込まれる。大学卒業後、流転の末に1998年優駿エッセイ賞で次席に入賞。これを機にライター業に転身。以来スポーツ紙、競馬雑誌、クラブ法人会報誌等で執筆。netkeiba.comでは、美浦トレセンニュース等を担当。念願叶って以前から関心があった引退馬の余生について、当コラムで連載中。

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