語り継がれてほしい珠玉の名実況
9日(木)、園田・姫路競馬場の吉田勝彦アナウンサーがレース実況を引退されました。
吉田さんが大阪の春木・長居競馬場で実況を始めたのは、1955(昭和30)年10月とのこと。以来64年間、あと1カ月ほどで御年83才になろうというところまで、その仕事を続けてこられたわけです。これは今後、誰も追い抜くことができない“大記録”でしょうね。
みなさんもご存知のとおり、吉田さんは数々の名実況を残してこられました。それらを集めてDVDにして発売したら、けっこう売れるんじゃないかと思います。
でも、それはご本人が嫌がるはずです。「この歳まで約9万レースを喋ってきて、満足できる実況をしたことはほんのわずかしかない。だからまだまだ実況を続けたい。いつか自分の喋りに馬が付いてくるような実況がしたい」。これは吉田さんの口グセ。われわれが名実況だと思っても、ご自身では恥ずかしかったり、足りなかったりするところがたくさんある。だから、わざわざそれらを集めて商品にするなんて・・・。吉田さんはそういう方なのです。
それで思い出したのが、故・古今亭志ん朝師匠。われわれからしてみれば、名人のそのまた上を行くような素晴らしい噺家さんでしたが、ご自分の高座を収めた映像集が発売されることを亡くなるまで許しませんでした。吉田さんと志ん朝師匠、相通じるものがあるようです。
それはさておき、9日の園田競馬場には、吉田さんの最後の実況を聴こうと、多くのファンや関係者が詰めかけました。そのレースは当日の第6レース。1、2着が写真判定の大接戦になったゴール前の喋りは、吉田さんならではのものでした。
喋り終えると、ゴール前に陣取ったファンが一斉に実況席を見上げて「吉田さーん!」の大コール。それに吉田さんが手を振って答えるという、感動的なフィナーレとなりました。
ちなみに、私がお見かけした主な“列席者”は以下のとおりです(順不同)。
山田雅人さん、斎藤修さん、荘司典子さん、青木るえかさん、橋口浩二さん、井上オークスさん、浅野靖典さん、乗峯栄一さん、古谷剛彦さん、大恵陽子さん、赤見千尋さん(前日8日)、小堺翔太さん(同)・・・。
また、在阪テレビ局や各新聞社なども多数取材に押し寄せました。さらに、最終レース後に行われたセレモニーには、兵庫競馬出身の小牧太、岩田康誠騎手も駆けつけ、花束を贈呈。とにかくこの日は、馬や騎手よりも吉田さんが主役の1日でした。
ところで吉田さん、セレモニーの後の記者会見で「引退を決意した理由」を問われていたのですが、ハッキリとしたことは語ってくださいませんでした。何か、内に秘めておきたいことがあったのかもしれません。次に吉田さんにお目にかかって一献傾ける時に、こっそり教えていただこうかと思っています。