今後は二刀流で世界に挑戦
地方の期待馬3頭で挑んだフェブラリーSは、残念ながらモジアナフレイバーの6着(同着)が最高という成績だった。
敗因を挙げると、「スタートの芝がすべってぜんぜん進んでいかなかった」(モジアナフレイバー・繁田健一騎手)、「今のノンコノユメには1600m(の流れ)は忙しい」(ノンコノユメ・真島大輔騎手)、「軽いダートが走り慣れていなくて戸惑ったところもある」(ミューチャリー・御神本訓史騎手)とのこと。
2年前に勝っているノンコノユメはともかく、アウェーの舞台で大レースを勝つには、当然のことではあるが、これまで経験していないさまざまなことを克服しなければならない。それは馬自身もそうだが、厩舎関係者の経験値としてもいえること。
それともうひとつ、21年前には岩手のメイセイオペラがフェブラリーSを勝ったが、中央のダート路線は層の厚さもレベルの高さも当時とは比較にならないくらい上がっている。
ダートで圧倒的な力をみせたモズアスコット(c)netkeiba.com、撮影:下野雄規
それだけに、前走根岸Sがダート初出走だったモズアスコットのレースぶりは圧巻だった。冒頭で地方馬の敗因を挙げたが、ほんとうに強い馬というのは、どんな条件でもどんな環境でも関係なく強い。モズアスコットは持っているポテンシャルの高さが二段階も三段階も違っていた。
JRAで芝・ダートのGIを制したのは、クロフネ、アグネスデジタル、イーグルカフェ、アドマイヤドンに続いて5頭目とのこと。それぞれさまざまに芝とダートを渡り歩いたが、パターンとしては初ダートだった武蔵野SからジャパンCダートを連勝したクロフネに似ている。
ただ違うのは、クロフネの場合はそれが3歳の秋だったのに対して、モズアスコットは6歳になってのダートへの転身。これについてルメール騎手は、「根岸Sから新しい馬になりました」と言った。一昨年、安土城S2着から連闘で臨んだ安田記念を制したときにも驚かされたが、その後GIでは掲示板内の争いには一度も加われていなかった。「血統的にもダートのセンスがあるので、矢作先生はグッド・チョイスをしました」とも話していた。
GI勝ちが安田記念だけであっても、父がフランケル、母インディアがアメリカの重賞勝ちという血統的な魅力は大きく、成績が下り坂になれば、その価値が下がらないうちに種牡馬にと考えそうなものだが、そこからダートを“試した”のではなく、結果論ではあるものの、むしろ自信を持っての転身だったようにも思える。
「年齢を経て多少変わってきた部分はあると思います。以前はスピード勝負のマイルでいいと思ってましたけど、年齢を経て、体型的にも変わってきたので、芝であれば少し時計のかかる馬場、あるいはダートに変わってきたのではないか」という矢作調教師の判断が見事に的中した。
ただダートに専念するわけではなく、次走には、すでに言われていたとおり、4月4日オーストラリアのドンカスターマイル(芝1600m)に遠征予定。「今後は芝・ダートを問わず本格的に二刀流としてこの馬を育てていきたいと思います。距離的には、ダートでも1800、2000は厳しい、限界があると考えていますので、秋はブリーダーズCであればダートマイルを考えています」とも話していた。日本の芝とダートでGI、さらに海外でもGIとなれば、アグネスデジタルに続いての快挙となる。
モズアスコットはすでに6歳だが、3歳6月のデビューでここまで21戦。レース数はまだそれほど使われていない。昨年はリスグラシューであらたな歴史を切り開いた矢作調教師が、今度はモズアスコットで、芝とダート、世界を股にかけての挑戦となる。