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【NHKマイルC】デムーロ騎手の見事なレース構成が光った一戦

  • 2020年05月11日(月) 18時00分

レシステンシアは恰好の的となったか


 昨年、2番人気のアドマイヤマーズで勝ったM.デムーロ騎手が、今年は9番人気の伏兵ラウダシオン(父リアルインパクト)で連覇し、NHKマイルC【2-1-0-3】となった。

 種牡馬リアルインパクト(父ディープインパクト)は、この世代が初年度産駒。初重賞勝ちが、GI制覇となった。競走時代のリアルインパクトも3歳春の2011年、初重賞勝ちがいきなりGIの安田記念だった記録がある。ただし、早熟型ではなく、7歳春のドンカスターマイル(豪GI)で2着もあり、半弟ネオリアリズムと同様にタフだった。

 典型的なスピード系と思われるラウダシオンは、ファミリーにもスピード色が濃いが(輸入牝馬の祖母スナッチドの半姉Cuveeキュヴェは、米2歳ダートGIフューチュリティSの勝ち馬)、これからマイル路線のエース級に成長する可能性はある。

 近年のNHKマイルCは、きびしい流れの多かった東京のマイル戦にしては、「逃げ切り勝ち-2番手抜け出し」が増えているのは知られる通り。最近10年間でラウダシオンが5頭目の、先行しての押し切り勝ちになるが、「逃げ馬-2番手の馬」がそのまま1着、2着したのはさすがに初めてのことだった。やや、味気なかったが…。

 レース全体のバランスは、「前半46秒0-(1000m通過58秒0)-後半46秒5」=1分32秒5。高速馬場なので決してきついペースではなく、勝ったラウダシオンの前後半バランスは「46秒2-46秒3」=1分32秒5。2017年、アエロリットが早めに進出して2番手から「46秒2-46秒1」=1分32秒3で勝った際と酷似したバランスになった。先行すること必至のレシステンシア(父ダイワメジャー)に譲るよう行かせ、ピタッとマークしたデムーロ(ラウダシオン)の鮮やかなレース構成が光った。

写真提供:デイリースポーツ


 ルメール騎手(レシステンシア)は2016年、同タイプで桜花賞4着のメジャーエンブレム(父ダイワメジャー)で逃げ切っているが、そのときより多少速いペースとはいえ、このペースであっさり勝ち馬に捕まったのは案外の印象も残った。1分32秒7は高速だった阪神JFと同タイム。悪くないとはいえ、当時のデキならもっと抵抗できたろう。

 木曜計測の申告馬体重は500キロ(桜花賞時は498キロ)。それが東京への遠征でデビュー以来最少の476キロ(桜花賞は482キロ)。落ち着き払った気配に不満はなかったが、当日輸送ではなく短期滞在なのに栗東時より24キロ減は痛い。輸送、環境の変化に敏感なタイプなのだろう。東京遠征の経験のあった男馬のラウダシオンは水曜計測498キロで、当日も494キロ。中間ビシビシ追いながら平気だった。

 それでもレシステンシアは、初の左回りの東京1600mを自己最高タイで乗り切っているが、阪神JFの内容と比較すると、かなり物足りなかった。東京の1600mで阪神JFのように飛ばす(1000m通過57秒5)わけにはいかないが、前半1000m通過58秒0は、ぴたっとマークしていた勝ち馬のリズムだったことになる。結果的に、ライバルの能力、可能性を引き出してしまう目標になっていた。

 風の影響もあったか、追い込みにくいコンディションのなか、3着ギルデッドミラー(父オルフェーヴル)は好位のインで手応え十分。残り400mから追い出しにかかったが、前の2頭の脚色が鈍らなかったと同時に、スパッと切れるタイプではない死角が出てしまった。流れに乗ってこれで1600mを4戦【1-2-2-0】の適性は発揮したが、自己最高の1分34秒6を大幅に短縮して1分32秒8。もっとタフなコンディション向きなのだろう。

 まず大崩れはないと支持されたタイセイビジョン(父タートルボウル)は、この楽な流れなので3コーナーでかかり気味に映るほどの行きっぷり。直線も理想のコース取りになったが、ギルデッドミラーと同様に鋭さもう一歩だった。ゴール前はまだ脚があったようにも思えるフットワークだったが、本質がスピード色の濃いマイラーではないのだろう。ここというところの瞬発力がなかった。東京1400mを1分20秒8の2歳コースレコードで快勝しているが、このNHKマイルCの1400m通過は1分20秒5であり、現時点ではインから力強く伸びて、1分34秒3(自身の上がり36秒2)で決着したアーリントンCのようなパワーの求められるレースの方が合うのだろう。

 5着ルフトシュトローム(父キンシャサノキセキ)は、スタートで一歩出負け。馬群のバラける速い流れにならなかった結果、レーン騎手が「位置取りがわるくなったことが響いてしまった」と残念がったように、切れ味不発の結果となった。自身の上がり34秒0は最後方から差を詰めて7着のウイングレイテスト(父スクリーンヒーロー)に次ぐ2位だが、直線、スパートできたのは最後の1ハロンだけ。どの馬もバテないので、18頭立ての馬群を割ることは不可能だった。レーン騎手は狭いスペースに突っ込んでいく騎乗はしない。それをすると、次の短期免許取得が難しくなる。

 3番人気のサトノインプレッサ(父ディープインパクト)は、後方17番手追走から直線は外に回って追撃態勢をとったが、スムーズなコース取りとはならず、途中でほぼあきらめている(届く展開ではなかったため)。まだこれからの大きな可能性を秘めていることは間違いないが、今回は軽快なスピード能力の勝負。マイル2勝はともに渋馬場で時計は関係ないが、差し切った毎日杯1800mの自身の1600m通過も推定1分35秒9前後。いきなり1分32秒台、入着でも33秒前後のマイル戦はかわいそうだった。

 5番人気で14着にとどまったサクセッション(父キングカメハメハ)は、パドックではゆったりみせたが、レース直前にカリカリしすぎ。悪いことに馬群の中でもまれて行きたがったため、3コーナーから進出して直線は外に回ったが、坂の途中で伸びる手応えを失っている。近くにいて大敗を覚悟していたサトノインプレッサ(武豊騎手)と同様、横山典弘騎手も最後はムリをしてなかった。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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