新型コロナウイルスに関する東京都の警戒レベルが、もっとも深刻な「感染が拡大している」に引き上げられた。
このところ、午後になると東京都の新規感染者数が発表され、200人を超えたら危機感を抱き、それが100人台になると少しほっとして……という日々がつづいている。
しかし、誰もがわかっていながらあえて口にしないのは、実際の感染者数はもっと多いということだ。便宜上、「本日の新規感染者は何人」という言い方をしているが、実際は、「本日、感染していることが新たに判明したのは何人」というのが正しい言い方だろう。
だから、全体の一部にすぎない「新規感染者数」の増減に一喜一憂するのはナンセンスで、現実問題として着目すべきは、重症者がどのくらいで、それにより医療体制が逼迫する恐れがあるかどうか、ということになる。
オフィシャルな発表によると、東京都のコロナ感染者は累計で8000人台前半。東京都の人口は1400万人弱。大雑把な計算で恐縮だが、分母を1400万人、分子を8200人とすると、東京都に住む1万人のうち6人ほどが感染したことになる。
4年前に他界した私の母は「大脳皮質基底核変性症」と診断され、10万人あたり10人ほどが発症する難病だと主治医に言われた。1万人あたり1人と言わなかったのは、「10人」の部分が9人になったり11人になったりすることもあり得るからだろう。
わかりやすく、母が患った難病が1万人に1人とする。今、都内のコロナの累計患者数は、その6倍ほど、ということになる。
もはや、めったにかかることのない「難病」の数ではない。ただ、母の病気は進行性で治ることはないのだが、コロナの場合は特に若年層の大半が無症状か軽症で、症状が出た人の多くが回復している。なので、難病と比較するため、「今なおコロナを患っている人」の数を、仮に東京都の入院患者数とすると、今は700人弱。人口で割ると、10万人あたり5人となり、母の難病よりレアなもの、ということになってしまう。
この割合だけ見ると、「めったにかかることはない=自分には無縁」という意識につながりかねないが、コロナの伝染力の強さを考えると、母の難病と同列に見るわけにはいかない。
つまり、巷間言われているように、誰でもかかり得ると思って行動すべき厄介なものであることは間違いない。
コロナの話は冒頭だけにしようと思っていたのだが、長くなってしまった。
こんなご時世でありながら、今週の初め、7月13日と14日に開催されたセレクトセール2020は、歴代2位の総額187億6200万円もの売上げを記録した。
どうしても高額取引馬に目が行ってしまうが、私にとって個人的に嬉しい取引きがいくつもあった。
拙著『絆 走れ奇跡の子馬』がドラマ化されたとき撮影に協力してくれた門別牧場や、『キリングファーム』などの取材でお世話になった藤澤牧場、また、先日、クラブ法人の会報で取材した鮫川啓一牧場の生産馬が落札されたときは、思わず拳を握りしめた。
そしてもう1頭。以前、本稿で紹介した弁護士馬主の白日光さんが当歳馬セッションでラスエモーショネスの2020を落札したのだが、生産者の坂本智広牧場は、今週金曜日発売の新刊『ノン・サラブレッド』の核になる名牝ミラの末裔の牝馬を繋養している牧場なのだ。
『ノン・サラブレッド』の解説に柏木集保さんが記したように、坂本智広牧場生産で、ミラを11代母に持つトウケイミラは、現役の競走馬である。今年6月13日の3歳未勝利戦を勝ち、7月5日の1勝クラスでもコンマ3秒差の4着と頑張っている。4年前に私が番組ナビゲーターをつとめたグリーンチャンネル特番「名牝ミラの記憶」を見て、木村信彦オーナーが、トウケイミラと命名したのだという。
セレクトセールを見ると毎年同じことを思うのだが、金というのは、あるところにはあるものだ。そして、それは天下を回っている。ということは、それがいつ自分のところに回ってきてもおかしくないわけだ。
『ノン・サラブレッド』で4作目となる私の競馬ミステリーシリーズが、それぞれ100万部ずつ売れれば、私もセレクトセールに参加できるようになる。100万部が無理なら、50万部でもいい。本当は20万部でも嬉しいのだが、それを言い出すとどんどん現実に近づくだけなので、やめておく。
千里の道も一歩から。まずは、最初の5冊、10冊が売れるよう、こういう本が出たことを知ってもらう作業から始めたい。