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みなさんは撫恤競走をご存じですか?

  • 2020年09月05日(土) 12時00分

明治時代の未勝利馬救済競走


 4月半ば以来、競馬を開催している競馬場に行っていない私。夏の新潟も“行かずじまい”でした。

 来週からの中山競馬も無観客開催になったので、テレビ東京本社スタジオでの実況付けはまだまだ続くことに。もう双眼鏡を使ってレースを実況する感覚は忘れちゃったかもしれません(泣)。

 さてさて、夏競馬が終わるということは、JRAの3歳未勝利戦も終わってしまうわけです。現時点で東西あわせて500頭を超える3歳未勝利馬がいますが、今週のレースでうれしい初勝利を挙げられるのは(1着同着がなければ)19頭だけ。勝負の世界ですから優勝劣敗が大原則とはいえ、キビシイものがありますね。

 最近、ワケあって古い時代の競馬のことをいろいろ調べているのですが、その中で、明治時代に「撫恤(ぶじゅつ)競走」というレースがあったことを知りました。

 撫恤の「撫」は「なでる、いたわる、かわいがる」、「恤」は「あわれむ、めぐむ」という意味の漢字です。「撫恤競走」というのは、開催最終日に、その開催で勝てなかった馬を集めて行うレースのこと。言葉の意味からすると「未勝利馬救済競走」でした。

 明治末期、馬券発売が黙許された(本当はダメだけど黙って見逃してもらえた)頃の競馬は、各競馬場で春と秋にそれぞれ4日間ずつ開催。その番組編成は、今の競輪やボートレースのように、開催3日目までに“予選”をやって、最終日にそれらの上位馬同士で「優勝競走」を行うというパターンになっていました。

 「撫恤競走」は「優勝競走」の“逆バージョン”。どうやら英語の「コンソレーションレース」(=予選落ちした馬の競走)を日本語にしたら、そうなったようです。

 ですから、今の未勝利戦とはちょっと意味が違います。過去にどこかで勝っていた馬が別の開催中に勝てていなければ「撫恤競走」に出走できました(ただし、他競馬場、他開催の未勝利馬に限るなど、特別な条件が付けられていた場合を除く)。

 そういう意味では、高知競馬の「一発逆転ファイナルレース・記者選抜」のようなものかもしれません。ちょうどそれについては、今週火曜日に大恵陽子サンがコラムで取り上げていましたね。あのレースも、最近なかなかいい成績を挙げていない馬を“撫恤する”競走、でしょう?

 アッ、そうじゃなくて、高知の「ファイナルレース」は馬券で大損している人たちのための「撫恤競走」なのかも。一発逆転を目論んでいるのは馬(とその関係者)というより、馬券が当たらなかった人たち、ですもんね。

 それはともかく、夏競馬が終わっても未勝利を脱出できない馬が500頭もいるんだったら、それらを対象にどこかの地方競馬で現代版の「撫恤競走」を新設してもいいんじゃないかと思うんですけど。馬主さんからすれば、愛馬の勝利は何よりウレシイはずですからね。

テレビ東京「ウイニング競馬」の実況を担当するフリーアナウンサー。中央だけでなく、地方、ばんえい、さらに海外にも精通する競馬通。著書には「矢野吉彦の世界競馬案内」など。

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