デアリングタクトがJRA史上初となる無敗での牝馬三冠を達成! そして、16番人気ながら怒涛の追い込みで5着に食い込んだミスニューヨーク。秋華賞をにぎわせた2頭は、どちらも杉山晴紀調教師(栗東)の管理馬です。
そこで今回、デアリングタクトの松山弘平騎手とミスニューヨークの長岡禎仁騎手がそろって登場。前半ではレース映像を見ながら、騎手心理を踏まえたレース回顧をお届けします。勝負をわけた決定的なポイントとは?
(取材・構成=不破由妃子)
16番人気も、針の穴を通すような競馬をすればチャンス
──三冠達成、おめでとうございます!
松山 ありがとうございます。ホッとしました…。
▲無敗での牝馬三冠!こぶしを天に突き上げた松山騎手 (C)netkeiba.com
──そうですよね。秋華賞では、長岡騎手も16番人気ミスニューヨークで5着と大健闘。まずは改めておふたりにレース映像を見ていただいたわけですが、松山騎手は、終始邪魔をされないポジションでの競馬を選択しましたね。
松山 そうですね。1〜2コーナーは内目の最善のポジションを取れましたし、距離のロスが生じない向正面では極力いいところを走らせたかったので、外目を選択しました。
3コーナーへ向かうにあたっては、コースロスがなく、いつでも動けるポジションを意識しましたね。外から被せられて動けなくなる展開は避けたかったので。
長岡 3コーナーあたりでデアリングタクトが左前にいたので、一瞬付いていこうかどうか迷ったんですけど…。
──デアリングタクトについていけば、必ず進路が開けますものね。
長岡 そうですね。でも、ここは自分の競馬に徹しようと思って、動きませんでした。どちらかというと内目の枠が欲しかったんですけど、7枠(15番)を引いたので、道中はなるべく内から2頭目までに入って、できるだけコースロスなく運ぶことを心がけて。
3〜4コーナーも外々を回るのではなく、逆に針の穴を通すような競馬をすればチャンスはあるかなと思っていたので、ここは動かないほうがいいなと。
▲長岡「デアリングタクトに付いていくか迷ったけど、自分の競馬に徹しようと」 (撮影:桂伸也)
松山 僕は7枠で本当によかった。内枠だったら全然競馬も違っていただろうし、難しかったと思う。
──4コーナーでは、外から早めに幸騎手のオーマイダーリン(6着)が上がってきて。あのときの心境は?
松山 あそこで左手前に替わってしまったので、ちょっと焦りました。もっと持ったまま回ってこられると思っていたのですが、僕自身も思っていたより早めに手を動かすことになって。内のほうもゴチャついてたよね?
長岡 はい。早めにみんな上がっていきましたからね。そのぶん、僕の馬の脚が溜まって、外に出したときにメリハリが効いた感じです。
松山 4コーナーで外を回していたら、競馬としてはスムーズだったかもしれないけど、あそこまで伸びなかった可能性はあるよね。ゴチャついたときにしっかり脚をタメたのがよかったと思うし、素晴らしい騎乗だったと思うよ。
長岡 ありがとうございます。馬が最後まで本当によく頑張ってくれました。結果はもちろん悔しいですが、人気より上に持ってこられたので、よかったなとは思っています。
長岡騎手もデアリングタクトの背中を知る一人
──松山騎手に改めてお聞きしたいんですが、勝利のポイントを挙げるとしたら?
松山 やっぱりまずは枠ですよね。あとはスタート。ゲートではちょっとうるさかったんですけど、なんとか堪えてくれて。五分とはいえないまでも出てくれたことで、それほど迷うことなく競馬を進められました。
だからこそリズムよく運べましたし、それが大きいと思います。折り合いも含めて、いかにスムーズに乗ってあげられるかだと思っていたので、本当に上手くいったなと思っています。
長岡 デアリングタクトは、すごく成長していますよね。馬がどんどん大きくなっていますから。僕が新馬戦の前に乗ったときとは全然違います。
松山 新馬の前に乗ったとき、こんなに走ると思った?
長岡 いえ、思いませんでした。いい馬ではあったので、「新馬は勝ち負けできると思います」と報告したのは覚えています。でも、2勝くらいかなというのが正直な印象で、まさかGlとか、ましてや三冠なんて…。そういう馬だとは思わなかったです。
松山 やっぱりそうだよね。僕もそうだった。
長岡 当時はいかにも牝馬という感じで、非力でしたよね。バランスはよかったんですけど、何かがズバ抜けていいとか、そういう感じではなくて。
松山 そうそう。本当によくなったのは、桜花賞が終わってからだと僕は思う。桜花賞からオークスまでのあいだにガラッと変わった。Glを勝ったからそう思うんじゃないかと言われそうだけど、本当に変わったから。
▲松山「桜花賞からオークスまでのあいだにガラッと変わった」 (撮影:桂伸也)
──デビュー前の段階でわかることが、いかに限られているかということですね。馬って本当に不思議です。
松山 本当ですね。もちろんいい馬ではありましたが、三冠馬といったら、もう飛び抜けた馬という印象じゃないですか。正直、そこまでの可能性は感じることができなかったです。(担当助手の)池水さんも、そうおっしゃってました。
──杉山先生はもちろん、担当の助手さんも相当なプレッシャーを経験されたでしょうね。
松山 あれだけの馬なので、もちろん緊張感はあったと思いますが、どんなときも池水さんはとても話しやすくて、すごく丁寧に仕事をされる方。なので、けっこうイレ込みやすい馬ですが、当日のパドック、返し馬、ゲート裏まで、池水さんと話し合いながら、スムーズに持っていけたと思います。
長岡 池水さんは、いつも穏やかな方ですよね。
松山 うん。プレッシャーはあっただろうけど、当日もピリピリした感じはまったくなかった。
長岡 杉山厩舎全体がそうですよね。先生もそうですが、スタッフの方たちもイレ込まないというか、肩に力が入っていない感じがします。
重賞も何度か乗せていただきましたが、そういう厩舎の雰囲気のおかげで僕の緊張感もほぐれて、いつも通りにできる。それがGlであっても、雰囲気は変わりません。秋華賞の日もいつも通りでした。
松山 そうだね。先生からもとくに細かい指示とかなかったし、先生自身も気負った感じがなくて。もちろん本当のところはわからないけど、僕から見るとドッシリと構えているように見えた。
長岡 装鞍所で感じたんですが、ほかの厩舎がけっこうピリピリしているなか、杉山厩舎だけがすごく和やかで。
松山 そうだったね。イレ込んでいたのは、デアリングタクトだけだった(笑)。
(明日11日公開の後編へつづく)