新規開業組の成長も今後の日高を占う重要課題
この年末年始は、いつもの年と異なり、緊張しながら大人しく過ごした方が多かったのではないか。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大は、一向に収束に向かわないどころか、ますます深刻度を増しつつある。ついに関東地区の中央競馬はまた無観客に戻り、それに歩調を合わせるように、南関四場もまた今月末までの無観客開催が決定している。
今の段階では中京、小倉に関しては事前に指定席をネット予約した人だけ入場可能となっているが、政府が愛知、福岡両県にも緊急事態宣言を発令する見通しであることから、この両競馬場も無観客開催に変更される公算が高い。新年早々、あまりネガティヴなことは書きたくないのだが、どうも世の中のムードはあまり明るくない。
せめて、年の初めくらいは少しでも前向きの内容にしなければと考え、表題のようなテーマを掲げた。
さて、生産牧場としていよいよスタートを切った藤原照浩氏は、現在、繁殖牝馬5頭、とある事情からお預かりしている1歳馬(年が明けたので元旦で1歳になった)の計6頭を繋養している。うち5頭が預託馬、1頭が自己馬という内訳である。
牧場経営が軌道に乗るまでは、こうした預託馬を中心とした構成にならざるを得ない。理想的には、自身が考える配合で種牡馬を選択し、生産するのが生産牧場としての醍醐味だが、それには、まず多額の自己資金が要る。最低でも数百万円単位の投資を覚悟しなければならず、加えて、必ずしも投資が成功するという保証はないので、賭博的要素が大きくなる。不受胎、死産、あるいは少し難のある牝馬が産まれるリスクを覚悟しなければならず、資金的に余裕のない間は、やや危険な賭けになってしまう。
預託馬を中心とした構成で経営を行っている藤原さん
そんなことから、当面は、様々なオーナーから繁殖牝馬を預かる形で経営の基盤を確立して行くのが最も無難で賢明な選択と言えるだろう。
藤原さんのように、新規に生産牧場を開設しようという夢を抱く人は、おそらく一定数存在するはずで、今回は、「牧場主」として独立するために必要な4つの要素について記すことにする。
まず1つ目。それは、何と言っても、本人に知識と経験がある程度備わっている、ということ。藤原さんを例に取れば、約20年の生産牧場での勤務経験があり、一通りのことは勉強した上で、開業に踏み切った。生産牧場は、繁殖牝馬や当歳馬、1歳馬の飼養管理についての知識と経験のみならず、時には、土木、建築、塗装などの仕事もしなければならないし、春から秋にかけては、草刈りにも追われる。またトラクターでの作業も不可欠である。月末には請求書作成などの事務仕事もある。つまり、相当マルチな能力と技術が求められるわけである。
そして、2つ目。次に必要なのは、言うまでもないが、牧場物件である。独立を考える人にとって、まず候補となるのは、やはり、胆振、日高であろう。生産牧場としての業務を考えたら、交配、出産、さらに市場上場などの点からも、北海道の胆振、日高管内で物件を探すのが最も現実的である。
さらに言えば、できるだけ「居抜き」の物件を選ぶのが望ましい。現在も生産牧場を継続している個人経営の生産牧場で、後継者が不在の牧場というのが狙い目と私は考えている。元生産牧場、でも悪くはないが、馬がいなくなって久しいような廃屋に近い牧場は修繕するのに手間がかかり、且つ、必要な農機具の類も手離してしまっている例が多いので、事業を受け継ぐような形で、牧場を借りるところからスタートするのが最も負担が少なくて済む。
極力修繕に手間をかけずに事業に集中できる環境が望ましい
3つ目は、当然ながら、繁殖牝馬である。藤原照浩氏は、実質的にゼロからスタートしたが、こと預託馬に関しては、いくらでも集まってくるようだ。当コラムをお読みいただいた方々からのオファーが私を通じて数件舞い込んだりもしたし、藤原さん自身にも数多くの問い合わせが寄せられたらしい。残念ながら、キャパシティには限りがあるために、お断りせざるを得なくなった話も何件かあるという。これは紛れもなく、藤原さんの若さと情熱に賭けてみようと考えた人がたくさんいるということである。
さらに4つ目は、資金ということになる。しかし、この資金に関しては、優先順位としてはそれほど高くない。最後の最後に挙げたのは、必ずしも資金力がなければならない、ということではないからだ。もちろん、あるに越したことはないし、自身に経験や知識がなくとも、極論お金さえ出せば、牧場をそっくり買い求め、誰かを雇用する形で生産牧場を開設することは可能ではある。
だが、それでは、一からコツコツと積み上げて行く「喜び」はない。地道に自分の思い通りの牧場にして行くには、それなりの時間が必要だが、まず預託馬で確実に収入を上げながら、少しずつ牧場を作って行けば良い、と思う。豊富な資金力がなくとも、何とか生産牧場を立ち上げて、維持できるような形が最も望ましい。
日高では、牧場数がいずれ半減するだろうと言われている。その原因のひとつが、経営者の高齢化と後継者不足にあるのは間違いなく、このままではどんどん牧場数が減少して行く。そうした流れを食い止めるのは、大手牧場による吸収合併も一つの方法だが、藤原さんのような新規開業組を育てて行くことも、今後の日高を占う上で極めて重要な課題である。