STV杯では3番人気だったアラタが勝利 (C)netkeiba.com
今週はSTV杯を3番人気のアラタとともに制した大野拓弥騎手に注目。馬とのバランスやコーナーワークなど、自身の現役時代にも触れながら詳しく解説します。
また関越Sで大接戦を制した福永祐一騎手の騎乗については「馬の良さの引き出し方がさすが」と絶賛した哲三氏。馬の頭の位置に焦点を当てレースを振り返ります。
(構成=赤見千尋)
レースを見ていて、2コーナーで「勝ったな」と
先週のレースでまず注目したのは土曜日の函館メインSTV杯、3番人気だったアラタが勝利しました。鞍上の大野(拓弥)君は、最終レースは残念だったものの、北海道シリーズで活躍しているし、いい競馬を見せてくれています。
僕はよく『馬との間合い』という表現を使いますが、その間合いの取り方がとてもいいなと感じますし、乗り方がその馬その馬とフィットしているなと。
このレースでは、スタートして2コーナーまでは自分より前にいる4頭くらいの馬たちに接近していきながら進み、前が流れていることもあって、コーナーワークで少し離れていくんです。2コーナーを立ち上がったら、前を追いかけやすい1馬身半くらいの距離をしっかり取って、後ろの馬とも2馬身ちょっとくらい距離がありました。こういう形を作れると、3コーナーで動いてきても自分が優位に立ち回れることが多いんです。
でもこういう形を作っていく上で、扶助操作だったり、馬に指示を出したりする時に、まったく指示を出していないように見えます。そこは自分の体を使ったバランスでの扶助操作がすごく上手くいっているように感じました。
コーナーワークもそうですし、馬のクビの位置、頭の位置、すごくいい位置でずっと走れていましたし、手綱から拳にかけて、動かし過ぎていないけれども前に進んで行くという。もちろん4コーナー手前辺りから拳は動くんですが、3コーナーくらいまでのところでは自分の体と拳と、馬のクビがしっかりフィットして走れていました。ちょっと重くなった馬場で、馬にとってはこういう走り方が出来るのは走りやすいだろうなと。レースを見ていて、2コーナーで「勝ったな」と思いました。
体と拳と馬のクビがしっかりフィットして走れていた (C)netkeiba.com
自分も現役時代はコーナー4回の2000mの芝が得意というか、好きな距離でした。こういうコースに乗る場合、最初の2コーナーまでと、そこからのゴール板までという、大きく2つに割って考えます。それで無理そうだったら3つに割ったり4つに割ったりするんですけど、今回の大野君の騎乗で言うと、最初の2コーナーまではしっかり詰めていって、そこからひと息置いて、3コーナーを回ってからまた仕掛けていくという、僕の好きなレーススタイルでした。
何をどういう風に馬に指示しているかというのは、本人じゃなければわからないけれど、自分と馬とのバランス、今考えていることがすごくフィットしているのかなと思いながら見ていました。だからこそ最終レースの斜行、騎乗停止というのは残念だったし、今後の反省材料だと思います。この夏すごく乗れていると感じていた大野君なので、騎乗停止が明けたらまたいいレースを見せて欲しいですね。
展開を読み“最後の直線に懸ける”ことを選択
日曜日の新潟メイン関越ステークスは、2番人気だったサトノウィザードが勝ちました。6着までがコンマ2秒差の大接戦だったわけですが、勝った(福永)祐一君は抜群に巧かったですね。
自分の近くにいる馬たちは先行する馬が多くて、その中で外からそこに入っていくにはスピードに乗せないと入れません。実際スタートして何頭もスピードに乗せながら内を取ったりしていて、祐一君はその展開を読んで、入りたい馬は入れて自分の馬は最後の直線に懸けるというレースを選択しました。
道中で後方を進んでいるわけですが、馬の頭の位置がすごくいいんです。僕の見た目だと、馬の頭を上げながら走らせているという風に感じました。前さばきと馬のクビが、高い位置からしっかり振れているように見えて、僕はこの走らせ方がすごく好きですね。
大接戦のなか「抜群に巧かった」福永祐一騎手 (撮影:武田明彦)
祐一君はどちらかというと、きっちりハミを取らせて馬の体を収縮させて走らせるというイメージが多かったのですが、今回の走らせ方を見て、さらに技を磨いているなと感心しました。
馬の頭の位置というのはその馬その馬で違いますし、高ければいいという単純なものではなく下げることも大事だけれど、過度に下げ過ぎるとスピードに乗り難くなると思っていて。祐一君は最近そういう部分も気にして騎乗しているなと感じる場面がよくあります。
このレースも2番人気と人気の高い馬でしたが、いい馬に乗っているから勝っているというだけではないなと。馬の良さの引き出し方がさすがでしたし、4コーナーの回り方も無駄がなくて実に巧い。祐一君じゃなければ勝ち切れなかったかもしれないと想像しています。