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競馬やってる大喜利

  • 2021年10月21日(木) 12時00分
上司「競馬やってる?」

私「やってないですね」

上司「競馬やってるか調べろって部長に言われてさ」

私「やってないですね」

上司「その台車、まっすぐ押せないのか」

私「はい。こいつ、口向きが悪くって」

上司「競馬やってる?」

私「やってないですね」

     *

 知っている人は「またかよ」と苦笑し、知らない人は「何それ」と首を傾げたのではないか。

 これは、先週末あたりからツイッターで流行りはじめた「競馬やってる大喜利」の一例である。最後から2つ目の「上司」と「私」とのやり取り、つまり、下から4つ目と3つ目のセリフを自分の考えたものに入れ替えてツイートしていく、という遊びだ。

 なお、この「台車の口向き」ネタの作成者は私である。

 元になっているテンプレートにはもう一種類あり、そちらは「上司」の2つ目のセリフが「競馬やってないか調べるように言われてさ」で、「私」の最後のセリフが「いややってないですね」となっている。

 どちらのテンプレートも、上に書いたように1行空ける形になっている。

 そもそも、この大喜利を始めたのは誰なのか。どうやら、発火点となったのは昨年9月の<上司「twitterやってる? 」>から始まるツイートだったようだ。

 それを誰かが先週の金曜日あたりに「競馬やってる? 」に変えてツイートした。

 で、見た人が、ハッシュタグもつけずに自分の考えたネタをツイートし、流行り出したらしい。「競馬」の前には「DQ10」「ポケモン」なども同じパターンでバズっていたようだ。

 こういうのは盛り上がるのも早いが、鎮静化するのも早い。おそらく今週末には下火になり、ブームは去っているだろう。

 実は私は、それを非常に寂しく感じている。

 というのは、ここ数日、私は半日に1回のペースで「競馬やってる大喜利」をツイートしているからだ。それも、練りに練って半日に1回ツイートしているのではなく、たくさん浮かんでいるネタをしょっちゅうツイートしたらうるさがられるからと、自分を抑えて半日に1回にとどめているのだ。

 元来、私はそれほど言いたいことが多いほうではない。それなのに話が長い。ひとつのネタについて、いろいろな角度からあれこれ言ったり、別の事象との関係性を見つけてあることないこと言ったりするのが好きだからだ。

 つまり、私は、140字でひとつのネタをつぶやかなければならないツイッターには向いていないのである。だから、4年ぶりにツイッターを復活させても、ほとんどツイートせず、知り合いのツイートに「いいね」をつけるだけの日がつづいていた。

 それを「競馬やってる大喜利」が変えてくれた。

 まず、自分で加える「上司」と「私」のセリフを両方とも「競馬モノ」にするか、それとも、「上司」からの振りを普通の言葉にして、それを「私」が競馬関連のセリフで受ける形にするかを考える。

 前者の場合、ネタ元は、ほかの人の作品を見ていると、「菊の季節に桜が満開」「メジロはメジロでもマックイーンのほうだ」「河内の夢か、豊の意地か」「踏み切って、ジャンプ」など、よく知られた実況が多い。それを「上司」と「私」のセリフに分割する。「上司」が質問する側でありながら、実は自分も競馬に詳しいということが伝わって笑える、ということにもなる。

 そのほか、レース名に使われる地名や、厩舎関係者の名字などから、一般には難解でも、競馬をしている人ならすぐにわかるものを読ませたり、馬券の組み合わせの点数や、インブリードの血量など、普通はすぐに計算できないものをパッと「私」に答えさせたりしておきながら、しれっと「やってないですね」で終わらせる。

 ほかの人のネタと被りたくなければ、そうした「定石」をひと通り把握したうえで、「上司」からの振りを、競馬用語ではないものにするとつくりやすいように思う。

 ただ、世代によって見てきた競馬が違うことに加え、「ドゴーン」など、ウマ娘に出てくる言葉も多用されているので、どの層に向かって投げかけるかも意識したほうがいいかもしれない。

 と、いろいろ言ってみたが、思いついたものをパッとツイートするだけで参加できるのが、この遊びのいいところだ。

 コロナ禍向きの遊びでもあるので、もうしばらく、「競馬やってる大喜利」を楽しみたい。

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作家。1964年札幌生まれ。Number、優駿、うまレターほかに寄稿。著書に『誰も書かなかった武豊 決断』『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』(2011年度JRA賞馬事文化賞受賞作)など多数。netkeiba初出の小説『絆〜走れ奇跡の子馬〜』が2017年にドラマ化された。最新刊は競馬ミステリーシリーズ第6弾『ブリーダーズ・ロマン』。プロフィールイラストはよしだみほ画伯。バナーのポートレート撮影は桂伸也カメラマン。

関連サイト:島田明宏Web事務所

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