朝日杯FSは単勝オッズ7.8倍(3番人気)のドウデュースが優勝(c)netkeiba.com
netkeibaにある膨大な競走成績を人工知能によって機械学習するAiエスケープを開発したAIマスター・Mと、レースデータの分析を専門とする競馬評論家・伊吹雅也による今週末のメインレース展望。コンピュータの“脳”が導き出した注目馬の期待度を、人間の“脳”がさまざまな角度からチェックする。
(文・構成=伊吹雅也)
上位人気グループの馬が比較的堅実なレース
AIマスターM(以下、M) 先週は朝日杯FSが行われ、単勝オッズ7.8倍(3番人気)のドウデュースが優勝を果たしました。
伊吹 完勝と言って良いのではないでしょうか。先団に近いポジションでレースを進め、ゴール前の直線半ばで先頭に立ち、そのまま押し切るという内容。もっとも、上がり3ハロンタイム順位は1位タイでした。ゴール直前でようやく4着争いに飛び込んできたジオグリフ(5着)と同タイムですし、ワンテンポ遅いタイミングで伸びてきたように見えるダノンスコーピオン(3着)を0.1秒上回っています。
M 2着のセリフォスとは最終的なタイム差こそ0.1秒でしたが、上がり3ハロンタイムには0.3秒の差がありました。
伊吹 セリフォスも本当によく頑張っていると思うんです。ドウデュースにかわされた後も、失速することなくしっかり食らいついていましたからね。相手が別の馬であれば、差し返しが決まっていたのかもしれません。
M ドウデュースに騎乗していた武豊騎手は、通算22回目の挑戦でこのレースを初制覇。長く競馬を観ているファンにとっては感慨深い勝利と言えるのではないでしょうか。
伊吹 おっしゃる通りです。私が競馬を観るようになった頃、つまりレース名がまだ朝日杯3歳Sだった頃から、武豊騎手がこのレースを勝てていないことはたびたび話題になっていましたからね。こんなタイミングで、しかも“あの頃の武豊騎手”らしい見せ場たっぷりの騎乗で勝ち切るとは……。
M これで、武豊騎手が勝っていないJRAの平地GIはホープフルSのみとなりました。
伊吹 一応、GI昇格前のホープフルSはエアシャカール(1999年)とニュービギニング(2006年)で勝っていますし、現在行われているホープフルSの前身にあたるラジオNIKKEI杯2歳S(1984〜1990年はラジオたんぱ杯3歳牝馬S、1991〜2000年はラジオたんぱ杯3歳S、2001〜2005年はラジオたんぱ杯2歳S)でも、レガシーワイス(1989年)・アドマイヤベガ(1998年)・ヴァーミリアン(2004年)・ヴィクトワールピサ(2009年)・ダノンバラード(2010年)と、計5頭を優勝に導いているんですよね。ホープフルSがGIに昇格したのは4年前。このせいでまだ“JRA平地GI完全制覇”と言えないのは、オールドファンの立場からすると理不尽に感じます。まぁ、年末の楽しみが一つ増えたわけですし、そのうちドラマチックな形で達成してくれるのではないでしょうか。
M 今週の日曜中山メインレースは、年末の風物詩として親しまれてきた有馬記念。昨年は単勝オッズ2.5倍(1番人気)のクロノジェネシスが優勝を果たしました。
伊吹 横綱相撲でしたね。向正面で一気にポジションを押し上げ、3コーナーではもう3番手。サラキア(2着)の追い込みやフィエールマン(3着)の粘りにも目を見張りましたが、あの展開をものともせずに押し切ってしまうのですから、能力や適性が頭ひとつ抜けていたということでしょう。
M サラキアは単勝オッズ74.9倍(11番人気)の人気薄でしたね。波乱の決着も少なくないイメージです。
伊吹 基本的には上位人気馬が強いレースですけどね。過去10年の単勝人気順別成績を見ると、1番人気の馬が計6勝をマークしています。
M 3着内率も80.0%ですから、無理に逆らわない方が良さそうですね。
伊吹 もう少し細かく見てみると、単勝2〜4番人気の馬も2011年以降[3-3-7-17](3着内率43.3%)と悪くない数字をマークしていました。一方、単勝5番人気以下の馬は2011年以降[1-6-2-108](3着内率7.7%)。伏兵を軽視する必要はありませんが、上位人気勢を安易に嫌ってしまわないよう心掛けるべきでしょう。
M そんな有馬記念でAiエスケープが指名した特別登録時点の注目馬は、エフフォーリアです。
伊吹 これはちょっと驚きましたね。普段は人気薄の馬を挙げてくることが多いのに、この大一番で人気の中心になりそうな馬を推してくるとは……。
M 皆さんもご存知の通り、エフフォーリアは今年の皐月賞と天皇賞(秋)を制している3歳馬。6戦5勝2着1回というほぼ完璧な戦績ですし、昨年の優勝馬であるクロノジェネシスを抑えて単勝1番人気になる可能性すらありそうです。
伊吹 一応、以前にも似たケースはありましたね。例えば、先月のマイルCSでAiエスケープが注目馬に指名していたのはグランアレグリア。この時はそのグランアレグリアが単勝オッズ1.7倍(1番人気)の支持に応えて優勝を果たしましたし、3連単の配当も5460円にとどまっています。
M 「魅力的な伏兵が見当たらない」と見ていたからこそ、グランアレグリアを推奨するに至ったのかもしれません。
伊吹 おそらく今回も、基本的には同じような見立てなのでしょう。Aiエスケープが高く評価していることを踏まえたうえで、エフフォーリアの戦績と好走馬の傾向を見比べていきたいと思います。
M エフフォーリアは前走の天皇賞(秋)を快勝しました。もちろんマイナス要素ではないと思いますが、前走好走馬である点はどれくらい高く評価するべきなのでしょうか。
伊吹 当然ながら、強調材料のひとつと見るべきでしょう。過去10年まで遡っても、大敗直後の馬はあまり上位に食い込めていません。
M 勝ち切った馬はいずれも前走4着以内だったんですね。
伊吹 ちなみに、前走の着順が5着以下だった馬は、2016年以降の過去5年に限ると[0-2-0-38](3着内率5.0%)でした。今年はクロノジェネシスがこの条件に引っ掛かっていますし、重要なポイントと言えるのではないでしょうか。
M GIウイナーである点はどう見ますか?
伊吹 こちらも強力なプラス要素ですね。過去5年の3着以内馬15頭中13頭は、前年か同年にJRAのGIを勝っている馬でした。
M 優勢なのは当たり前かもしれませんが、ここまでハッキリ明暗が分かれているとは……。
伊吹 エフフォーリアくらいの実績馬は素直に信頼して良いと思いますし、伏兵を探す場合も、まずは何らかの理由で人気を落としているGIウイナーに注目すべきでしょう。
M 他に何か面白い傾向はありますか?
伊吹 私が重視しようと思っているのは末脚です。年明け以降の重賞で出走メンバー中1位の上がり3ハロンタイムをマークしていない馬は期待を裏切りがちでした。
M 昨年の有馬記念で穴をあけたサラキアも、前走のエリザベス女王杯で出走メンバー中1位の上がり3ハロンタイムをマークしています。
伊吹 ちなみに、この条件をクリアしていなかったにもかかわらず3着以内となった4頭は、いずれも“前年以降、かつJRA、かつ2200m以上、かつGIのレース”において上がり3ハロンタイム順位が2位以内となった経験のある馬でした。先行力の高さを活かす競馬しかできない馬は、過信禁物と見るべきでしょう。
M エフフォーリアは日本ダービーの上がり3ハロンタイム順位が1位です。
伊吹 その通り。実は私も、早い段階でこの馬を本命にしようと決めていました。Aiエスケープと見立てが一致したのは心強いですね。それなりの利益を出せるよう、これからじっくり買い目を検討していこうと思います。