精神面で立ち直り、ずっと強い内容の勝利
ソダシが力強く抜け出して勝利(C)netkeiba.com、撮影:下野雄規
入場者の数が増えて約2万7千人。入場門近くの売店では、ソダシのぬいぐるみが飛ぶように売れていた。坂を上がってゴールまで約300m。白毛のソダシ(父クロフネ)が力強く抜け出してきた。興奮の歓声もすごかったが、まだレース中なのにスタンドに響き渡る拍手はもっと大きかった。みんなソダシを見に来ていたのだった。
先入れのゲートをしばらく嫌がったが、好スタートを決めて好位4番手をキープすると道中は集中力を失わなかった。連敗はしていたが、精神面で立ち直ったソダシはこれまでよりずっと強い内容だった。
先行タイプが多いので、数字以上にきびしい展開になるかと思えたが、押して伏兵ローザノワール(父マンハッタンカフェ)が先手を奪うと、すんなり隊列が決まりレース全体の前後半は「34秒7-46秒3-(1000m通過58秒0)-45秒9-34秒2」=1分32秒2。
近年のヴィクトリアマイル(東京1600m)はハイペースにならないことが多いが、今年は例年以上に落ち着いたペースとなった。
同じようなバランスだった2021年はグランアレグリアが4馬身抜け出し、2着以下は微差の接戦。2020年はアーモンドアイが抜け出て4馬身差。2着以下が大接戦だったが、今年もソダシが2馬身差の完勝。2着以下は「クビ、ハナ、ハナ…」の接戦。
差のつきにくい平均ペースだったことを考えると、時計は目立たないが、今回のこの組み合わせではソダシのマイル戦の力量が完全に一枚上だったことを示している。
5歳で勝ったアーモンドアイも、同じく5歳時に圧勝のグランアレグリアも桜花賞馬。今年のソダシは4歳の桜花賞馬。4歳でこの牝馬のビッグレースを完勝したソダシはこれからもっと強くなる可能性がある。秋はマイルCSとされる。
この3頭のあいだに入るのは2020年の桜花賞馬デアリングタクト(父エピファネイア)。難しい脚部不安(繋靭帯炎)を克服して今回は1年1カ月ぶりの出走。ソダシをマークしながら、インから0秒5差の6着に押し上げたのは立派だった。久しぶりに競馬場に帰ってきたデアリングタクトを迎えたファンはみんな優しかった。レース前、遅れて本馬場入りしたデアリングタクトを待っていたのは、(大きな声を出してはいけないので)、レース前とは思えない割れんばかりの拍手だった。デアリングタクトは復活する。
先行勢を見る位置から、最後に馬群を割って2着に突っ込んだのがファインルージュ(父キズナ)。一瞬の切れを生かしたい脚質のため、追い出しを待つうちに馬群をさばかなければならない位置になってしまう。今回も接触の不利があった。最後はさすがの切れで、これで2000m以下【3-4-1-0】。決して崩れないから立派だが、桜花賞ではソダシと0秒1差だった差が今回は2馬身。どちらかといえば、右回りの短い直線の方がかえって切れ味を発揮しやすいかもしれない。
一旦は先頭に並んだレシステンシア(父ダイワメジャー)が、きわどい写真判定で3着確保。うまく流れに乗って勝負強さを発揮し、自身「58秒4-34秒1」=1分32秒5。
GI(阪神JF)馬の底力をみせたが、東京のマイル戦だけに最後の詰めがちょっと甘くなっている。マイルは守備範囲でも、勝ち切れるのは1200-1400mか。
18番人気のローザノワールが粘りに粘って4着。先週のNHKマイルCのカワキタレブリー(18番人気で3着)の再現かと思わせたが、あと一歩だった。絶妙のペースで自身の前後半は「46秒3-46秒2」=1分32秒5。楽な単騎マイペースに恵まれたのは確かだが、東京コースだからこそ「流れは緩む」ことがあるパターンの典型だった。
3番人気のソングライン(父キズナ)は、好スタートから好位におさまりかけたが、向正面のポジション争いで狭くなり、下げる形になったのがあまりにも痛い。上位馬では最速の上がり33秒2で差を詰め、最後に2着争いに加わったものの5着止まり。残念ながら能力全開とならなかった。
1番人気のレイパパレ(父ディープインパクト)は、横からでは目立たなかったが、スタートでつまずき、川田騎手が大きくバランスを崩す不利があった。すぐに態勢を立て直し、追って好位の外に取りついたが、レース前にいつもより気負っていたこともあり、最初からリズムが崩れてしまったのだろう。自身の前半1000m通過は58秒6。スローにも近いペースであり、これで失速は能力うんぬんではない。
差し=追い込み馬にはまったく不向きな流れ(展開)になり、上がり32秒台を記録した馬が複数いたが、全馬が着外。それぞれ自身の理想形があるので仕方がないが、このペースのわりにやけに縦長になりすぎの印象は残った。