ダノンスコーピオンとNHKマイルC制覇!(撮影:下野雄規)
先月の桜花賞につづき、NHKマイルCでGl勝利を挙げた川田騎手。パートナーのダノンスコーピオンとは、前哨戦のアーリントンCをきっちり勝利し本番へ。横山典弘騎手騎乗のマテンロウオリオンをクビ差しのぎ、見事3歳マイル王に輝きました。
しかし、3走前の共同通信杯(7着)は「苦しい状態」だったと川田騎手。そこから何とか立て直し、レースに行っては川田騎手の緻密な戦略で勝利を重ね、ついに頂点へ。限界に挑んだ戦いを振り返ります。
(取材・構成=不破由妃子)
“計算ずく”負けられない前哨戦をどう勝たせたか
──NHKマイルCを4番人気ダノンスコーピオンで勝利。直線は、まさに“動かしてきた”というアクションで、川田さんの真骨頂ともいえるレースだったのではないかと。
川田 GIですからね。限界まで走らないと勝てないレースだったので、最後まで全力の走りができるように促しました。
──レースについては、後ほどじっくり振り返っていきたいと思っていますが、まずはここに至るまでの過程を。ダノンスコーピオンといえば、新馬からしっかり川田流の教育を施してきた馬という印象があります。やはり、それだけ期待が大きかったということ?
川田 もちろんです。初めて調教に乗ったときから高いポテンシャルを感じた馬だからこそ、厩舎スタッフと一緒に大事に育ててきましたし、今もまだその最中です。
──新馬戦後には、「調教で感じさせた課題を見せながらでしたが」とコメント。具体的にどういった課題があったのですか?
川田 今もまだ課題として残っていますが、体の幼さからくる右へのモタれがあります。性格や口向きの悪さが原因でモタれるのではなく、まだ出来上がっていない幼い体で懸命に走ろうとした結果、右へのモタれが強く出てしまうという状態です。
──すごく覚えているのが、川田さんにしてはめずらしく、新馬戦からガッツリ追って勝たせたということ。
川田 まだ動けていないなかにあっても、取りこぼせないレースでしたから。「次に良くなってくればいいね」ではなく、勝った上で良くなることを待つ。負ければ未勝利戦を改めて走らなければならないわけですから、幼い身体で無駄な一戦を走らせないために、あそこで負けるわけにはいかなかったんです。2着馬(ルージュラテール)もいい走りをしていたので、捕まえることが大変だったというレースでしたね。
──それだけ、その時点で「先を見据えていた馬」ということですね。続く萩Sを連勝し、朝日杯フューチュリティS(松山騎手騎乗で3着)は香港遠征後の自己隔離中で乗れず。年明け初戦の共同通信杯(7着)で再び手綱を取ったわけですが、あのレースは競馬にならなかったと。
川田 幼い身体のままGIで3着と頑張ったあとでしたから、その疲労からの回復が間に合わず、苦しい状態でしたね。物理的に時間が足りなかった。とにかく“間に合っていない”という状態でした。追い切りでも内にモタれすぎて、どうにもならなかったんです。
──CWでの追い切りでしたね。いつもよりソロっと乗っているな、という印象でした。
川田 そう見えたかもしれませんが、僕は3コーナー過ぎから両手で左を引っ張っていたんです。片腕ではもう無理で、両手で左を引っ張ってないとどうにもならないほど、内に倒れ込んで。4コーナーの出口では、「ヤバイ…、このままでは内ラチに飛び込む!」と思ったくらい。
──そうでしたか。そんな状態から、よくアーリントンCを勝つまでに立ち直ってくれた。
川田 立ち直れたのは、在厩でじっくりじっくり調整し続けた厩舎の努力と、それにスコーピオンが耐えて、応えてくれたことに尽きます。その後、また結果を残せる走りができたのは、スコーピオンの性格の良さです。あれだけ苦しい状態で走って惨敗したわけですから、「苦しい思いをしたから、もう走りたくない」「あ、負けて終わってもいいんだ」「精一杯走らなくても、勝たなくても、競馬って終われるんだ」と、能力の高い賢い馬ほど学んでしまうんです。
──なるほど。頑張らなくても終わることを学んでしまうケースもあるんですね。急に走らなくなる馬がいるのも納得です。
川田 スコーピオンは、そういう思いをしたにもかかわらず、また頑張ろうと思ってくれて、実際に一生懸命走ってくれている。それはひとえに彼の性格の良さです。とはいえ、