自身よりも早い時期から活躍する傾向が見られるクラックスマン産駒
JRAで2歳戦がスタートしてから6週間が経過。ともに2頭の勝ち馬を送り出しているミッキーロケット、デクラレーションオブウォーを筆頭に、この世代が初年度産駒となるフレッシュマンサイアーの仔が続々と勝ち上がり、早くも、今年の新種牡馬は当たり年という評判が広まっている。
イギリスやアイルランドでは、3月末に芝平地シーズンがスタートすると同時に、2歳戦がスタートしているが、そんな中、ロケット並みの猛ダッシュを見せて話題となっている新種牡馬が、ウィットバリースタッドで繋養されているハヴァナグレー(父ハヴァナゴールド)である。
7月10日の競馬が終わった段階で、実に56頭の初年度産駒がデビュー。このうち37.5%にあたる21頭が既に勝ち上がり、新種牡馬ランキング首位、2歳総合ランキングでも2位につけているのである。
ハヴァナグレー自身も、G1ジャンプラ賞(芝1600m)勝ち馬ハヴァナゴールド(父テオフィロ)の初年度産駒の1頭だ。1歳8月にアルカナ・ドーヴィル8月1歳セールにて7万ユーロ(当時のレートで約803万円)で購買され、カール・バーク厩舎に入厩した。
デビューしたのが2歳4月だから、ハヴァナグレーは明らかに仕上がり早のタイプで、2歳時は8戦し、G3モールコームS(芝5F)を含めて4勝をマークした他、G1モルニー賞(芝1200m)で2着に入っている。単なる早熟タイプに終わらなかったのがハヴァナグレーの魅力で、3歳9月にカラのG1フライングファイブ(芝5F)を制覇。待望のG1初制覇を果している。
3歳シーズン一杯で現役を退き、4歳春に種牡馬入り。初年度の種付け料は8000ポンド(当時のレートで約116万円)だった。
昨年英愛で開催された1歳市場には、84頭の産駒が上場され、このうち93%に相当する78頭が購買されるという、高い売却率をマーク。平均価格は、初年度種付け料の4倍近い2万8571ギニー(約434万円)だったから、マーケットにおける評価は上々だった。
そして今年の春を迎えると、ハヴァナグレーの産駒は続々と勝ちあがっているだけでなく、ロイヤルアスコットのG2クイーンメアリーS(芝5F)で2着となったメイランドシー、シャンティイのG3ボワ賞(芝1200m)で3着となったハヴァナエンジェルらが登場。内容的にも充実のラインナップとなっている。
ここまでのロケットスタートは予測していなかったにしても、ハヴァナグレーの産駒たちが早めに動き出すことは、この馬が持つ背景からある程度は想定されていたことだった。その一方で、この時季から勝ち馬を送り出していることが、驚きをもって迎えられているのが、ダルハムホールスタッドで供用されているクラックスマン(父フランケル)だ。
アンソニー・オッペンハイム氏による自家生産馬で、現役時代はジョン・ゴスデンが管理したのがクラックスマンである。
重賞初挑戦となったのが3歳6月のG1英ダービー(芝12F6y)で、ここで3着に好走した後、3歳夏を迎えて本格化。ヨークのG2グレートヴォルティジュールS(芝11F188y)を制して重賞初制覇を飾ると、続くシャンティイのG2ニエル賞(芝2400m)も快勝。さらにアスコットのG1チャンピオンS(芝9F212y)も制し、3連勝でG1初制覇を果して3歳シーズンを終えている。
4歳時も現役に留まり、G1ガネイ賞(2100m)、G1コロネーションC(芝12F6y)、連覇となったG1チャンピオンS(芝9F212y)と、さらに3つのG1制覇を積み重ね、2019年春に種牡馬入り。初年度の種付け料は2万5千ポンド(約363万円だった。これだけの競走成績を残しただけに、種牡馬としての期待も高かったのだが、自身がそうであったように、産駒も実が入ってくるのは3歳の夏過ぎで、距離的にも2000m以上が本領発揮の場となるというのが、おおかたの見るところだった。
ところが、7月10日の段階で、クラックスマン産駒はイギリスとアイルランドで既に4頭が勝ち上がり、イタリアで勝った1頭を加えると、クラックマンは既に5頭の勝ち馬の父となっているのである。
さらに、5月31日にニューバリーでデビュー勝ちしたリッチ(牝2、父クラックスマン)が勝ったのは、距離6Fのメイドンで、7月9日にチェスターで勝ち上がったディッキーバード(牡2、父クラックスマン)が制したのは、距離5F15yのノーヴィスだった。クラックスマンから、短い距離で豊かなスピードを発揮する馬たちも現れているのである。その父はフランケルであるゆえ、爆発的なスピードを伝承していても不思議ではないのだが、クラックスマン産駒たちが今後、どのような成長曲線を描いていくのか、興味深く見守っていきたいと思っている。