▲前田幸治オーナーと武豊騎手(撮影:平松さとし)
キズナと挑んだ2013年から5年後、次に凱旋門賞へ挑んだのはキズナを生産したノースヒルズの代表がオーナーを務めるクリンチャー。そのオーナーとは武豊騎手を苦しい時に助けてくれたオーナーの1人、前田幸治氏でした。
そのオーナーの愛馬で挑む前夜、武豊騎手は夜空に向け“雨”を願います。しかし、クリンチャーと武豊騎手に待ち受けていた現実は凱旋門賞という壁の高さを改めて実感する結果でした。そんなレース後、武豊騎手は次の挑戦へ向けオーナーから熱い言葉を貰うのでした。
(構成=平松さとし)
「甘くなかった。さすが凱旋門賞だ……」
2018年の凱旋門賞(G1)。武豊騎手がコンビを組んだのはクリンチャー。栗東・宮本博調教師が管理する牡馬で、当時は4歳だった。オーナーはノースヒルズ代表の前田幸治氏。前回の当コラムで紹介したキズナのオーナーである前田晋二氏とは兄と弟の関係だ。
「前田代表には本当にお世話になっています」
武豊騎手がそう語るオーナーの愛馬で凱旋門賞に挑んだのは18年10月7日の事だった。
前の晩に就寝した日本のナンバー1ジョッキーだが、夜中に目が覚めるたびにカーテンを開け、空模様を確認したという。
「自分が乗ったレースではないですけど、菊花賞で2着(17年、勝ち馬はキセキ)した時や京都記念(18年)で同世代のダービー馬レイデオロを破った時がいずれも道悪でした。だから少しでも重い馬場になってほしいと願い、夜空を見上げたのです」
結果、明け方に多少の降雨は見られたが、曇り空の下での開催となった。
▲クリンチャーの挑む凱旋門賞は曇り空に(撮影:平松さとし)
第1レースの直前にパリロンシャン競馬場入りした武豊騎手は、早速馬場を歩き、自らの足で感触をチェックすると、次のように感じた。
「過去に記憶がないくらい、芝丈が短いですね。雨もさほど降ってくれなかったので、固い(馬場)ですよ」
馬場の固さの目安となるペネトロメーターの数値は3.2。発表通りBon(良馬場)だった