▲歴史的一戦となった今年の天皇賞・秋の直線(撮影:下野雄規)
24年前のサイレンススズカと同じ前半1000m通過57.4秒で天皇賞・秋を逃げたパンサラッサ。あと数十mというところで差されて2着でしたが、稀代の名馬と同じラップには陣営の緻密な計算がありました。
あの逃走劇はどう生まれ、矢作芳人調教師はどのような思いで見ていたのでしょうか。「ファンに見られていた(苦笑)」というレース後の意外な(?)行動とともに振り返ります。そして、大反響をいただいた「調教師飲み会対談」の後日談も。
(取材・構成=大恵陽子)
椅子を蹴っ飛ばすほどの悔しさはありつつも…
──今年の天皇賞・秋は前半1000m通過が57.4秒というハイペースでパンサラッサが逃げ、スタンドはどよめきました。さらに心揺さぶられたのが、ゴール直前まで粘り通したこと。僅差の2着でしたが、矢作調教師はどうご覧になられましたか?
矢作 あのレースには2点あって、1点目は当然勝つための戦法として、57秒台半ばで行って後半1000mを1分切って上がってくれば勝てる、と。現実に1分で上がれば勝っていました。そうした勝つための計算と戦法であったし、舞台が府中ということもありました。小回りコースだと、逆に後ろの馬が早めに追いかけてくることがあるけど、府中の場合は騎手心理としてハマりやすい、と思っていました。
──ライバルの騎手心理も読んでの作戦だったんですね。もう一つは?
矢作 ファンはあの競馬を望んでいるということ。やっぱり競馬全体の盛り上がりを考えても、ああいう競馬ができればいいなっていう思いがありました。レースはジョッキーに任せた上で「とにかく思い切って行ってくれ。それでバテるなら仕方ないから、そこは開き直ってくれ」と指示しただけで、そこからは吉田豊の技術でした。
▲「ファンはあの競馬を望んでいる」(ユーザー提供:バカおにぎり王子さん)
──ラスト数十mまでは先頭を守り抜いていて、手に汗握りました。
矢作 負けた瞬間に椅子を蹴っ飛ばしていました。ファンに見られていましたね(苦笑)。そりゃあ