▲左からJRAの平間所長、矢作調教師、坂井騎手(c)netkeiba.com
年に1度、東京競馬場が世界の社交場となるジャパンカップ。今年は2カ国から4頭の外国馬が参戦を予定しており、1年の東京開催を締めくくります。
そんな今年のジャパンカップに合わせて、東京競馬場に国際厩舎が新設されました。これにより、外国馬は空港から直接東京競馬場に入り、輸入検疫から滞在までを一貫して行うことが可能になりました。
その新たな国際厩舎を競馬ファンに知ってもらうため、世界の矢作芳人調教師、厩舎所属で海外経験豊富な坂井瑠星騎手、そしてJRA・東京競馬場競走馬診療所の平間あき子所長と、実際に厩舎を回りながら各施設をお届け。ドバイや香港といった海外の国際厩舎との違いから、現状の改善点まで詳しく紹介します。
(取材・構成=netkeiba編集部)
海外陣営の不安を解消し、満足してもらえる施設に
矢作 こんにちは。調教師の矢作芳人です。この度、東京競馬場に新しくできた新しい国際厩舎をご紹介したいと思います。
坂井 こんにちは。ジョッキーの坂井瑠星です。ぜひ皆さんに東京競馬場の国際厩舎について知って頂いて、日本に来ていただきたいと思います。
矢作 今日は、JRAのメンバーが、新しい国際厩舎を紹介してくれます。センター長の平間あき子先生です。
平間 競走馬診療所所長の平間です。よろしくお願いいたします。
矢作 今回、当然、海外からの要望などもあったかと思いますけど、国際厩舎を東京競馬場につくったという理由や経緯をお聞かせください。
平間 今年でジャパンカップが42回目になりますが、年々、海外からの参戦が減っている中で、外国の陣営に多く参加してもらうために、どんな施策ができるかと考えました。その中で従来、競馬学校で行なっている輸入検疫、そしてそれが終わってから競馬場へ移動するという二段階輸送がネックになっているという話をよく聞きました。そこで「最初から競馬場に入ってもらって検疫を行なう施設をつくれないだろうか?」というところから計画が始まりました。
▲ネックとなっていた二段階輸送を改善するために計画された(c)netkeiba.com
坂井 どこか参考にされた国はあるんですか?
平間 輸入検疫のスタイルとしてはドバイや北米が近いです。こちらの施設に入ってから最初の2、3日はこちらの施設で隔離されます。いろいろな検査が終わって陰性が確認できたら、馬場に出て調教ができる検疫スタイルとなっています。欧州に比べると厳しい体制になっていますが、ヨーロッパは国々が地続きなのでほとんど隔離をしません。そういう意味で、先ほどお話ししたドバイや北米、オーストラリアに近いと言えます。
坂井 なるほど。
平間 それでは馬房にご案内します。
矢作 坂井 よろしくお願いします。
▲新国際厩舎の馬房(c)netkeiba.com
平間 こちらが馬房です。広さはだいたい奥行4メートル、幅3メートルぐらいです。
矢作 広いですね。
坂井 ドバイぐらいありますね。
矢作 これは満足してもらえるんじゃないかな。
平間 検疫厩舎なので窓は閉めなくてはいけないので高い場所に設置しています。
矢作 (カメラを指さして)これは馬房のカメラですか?
平間 はい、各馬房に1つずつ設置していて、馬房全体を見られるようにしています。
▲馬房全体が見れるカメラを設置(写真右上)(c)netkeiba.com
平間 あと一般的な馬房と異なるのは、飼い葉桶です。バーを設置して、飼い葉のバケツをひっかけるようにする予定です。
矢作 ステイフーリッシュの遠征の時も、飼い葉桶を設置するのに苦労したんだよ。うちの厩舎はまだ慣れてるけど、慣れてないと、そこで苦労する厩舎もある。
平間 そこもお聞きしたかったんですけど、海外の陣営が使っている飼い葉桶ってバケツ1杯分ぐらいの小さいものですよね?
矢作 小さいね。
平間 そうですよね。(馬の食事に対して)足りますか?
坂井 だから、自分たちで大きな桶を持っていくようにしています。
矢作 日本馬の陣営はみんな飼い葉桶を持っていってますね。
平間 やはりそうなのですね。
坂井 ここは飼い葉桶も用意してくれるんですか?
平間 そうですね。日本馬用と海外馬用の両方を用意しておいて、好きなほうを使ってもらえるようにしておいたほうがよさそうですね。
矢作 海外の陣営が持ってきた飼い葉桶も使えるんですか?
平間 使えます。
矢作 なら、引っかける場所は必要ですね。いろんな形に対応できる準備をしてあげたら親切だと思います。
▲各馬房に設置されている銀色のプレートが飼い葉桶を設置する場所(c)netkeiba.com
坂井 空調はどう管理されてるんですか?
平間 (馬房の壁の上方を指さして)あちらがエアコンの吹き出し口になっています。検疫厩舎なので、馬がいる間は窓を開けることはできないので、冷暖房完備で自由に温度を調整することができます。
矢作 窓を開けるのもダメなんだね。
平間 原則、開けっ放しにはせずに閉めて頂きます。扉は網戸になっているので、病気などを媒介する虫などが入ってこないようになっています。天井にも捕虫器を設置しています。
矢作 そういうことね。フランス人にも教えてあげないと。
坂井 向こうの厩舎は虫がいっぱいですよ(笑)
▲扉には網戸が設置され虫対策もされている(c)netkeiba.com
平間 ここが飼料や馬具などを置くスペースです。外側にも餌を入れておくスペースがあります。
矢作 ここはタックルームにして、餌は別の場所に置かないと…
坂井 餌を一緒に置いておくと汚れちゃいますよね。
矢作 ここは鞍や馬具だけを置くようにしたほうがいいですね。餌は別の場所にしたほうがいい。あるいは、2馬房のうち、片方を餌の置き場にするか。
平間 はい、それが理想的な使い方です。馬が寂しがって、隣に馬がいないとダメという状況でなければ、1棟に1頭入ってもらって、片方の馬房を餌置き・物置に活用して頂けます。「1頭だと寂しい」というリクエストって、結構くると思いますか?
坂井 国によってはあるでしょうね。自分たちがチームとして海外にいくとしたら、やはり2頭いてほしいです。
平間 やはり、そうなのですね。今年のジャパンカップは海外馬5頭が来る予定で、例年も3頭程度なので、現状は余裕をもって使って頂けると思いますが、こちらは今後も使い方を考えていきたいと思います。
▲奥に見えるのが厩舎内の荷物置き場(c)netkeiba.com
平間 厩舎内にはシャワーや休憩スペースがあります。休憩室のソファはベッドにもなるので仮眠もできます。
矢作 こういう空間は他の国の厩舎には用意されてないね。
坂井 そうですね。
平間 他の国はスタッフが寛ぐためのスペースってないですか?
矢作 そういうスペースはない。まったく休めない。だから厩舎スタッフは厩舎の近くをブラブラするぐらいしかやることがない。
▲厩舎備え付けの休憩スペース(c)netkeiba.com
平間 ここはグラスピッキングのためのスペースです。今までも外国の陣営からよく「グラスピッキングできるスペースはありますか?」というリクエストは多かったので、今回の国際厩舎ではロット(厩舎棟)ごとに芝生の空間を設けました。
矢作 ちょっと狭いけど、1、2頭用って考えたら贅沢は言えないよな。
坂井 パッと見は狭く見えちゃいますけどね。
矢作 ドバイとかはもっと広いからね。
坂井 逆に香港にはこういうのがないから、それよりはいいかもしれない。
平間 香港も検疫には厳しいですよね。
矢作 そういう意味では香港には勝っていると思います。
▲グラスピッキングのスペースを各厩舎ごとに設置(c)netkeiba.com
平間 こちらに入厩した馬は最初の48時間はこちらの敷地内で過ごさないといけません。その間は曳き運動か、こちらのダートコースで運動して頂きます。
坂井 軽いハッキングぐらいならしてもいいんですか?
平間 はい。1周300メートルありますので、ハッキング程度であれば問題ないかと思います。
矢作 ドバイよりも大きいし、これぐらい大きければハッキングするには十分だね。
坂井 ここは右回り・左回り、自由に使ってもいいんですか?
平間 他の陣営との利用時間の調整はさせて頂くかもしれませんが、どちら回りでもご利用頂けます。
▲1周300mのダートコース(c)netkeiba.com
平間 馬体重計は装鞍所と同じ地面埋め込み式になっています。滞在中、いつでも馬体重を計ることができます。
坂井 海外の陣営はあまり体重は計らなさそうですけどね。
矢作 海外の人はあまり計らない。
坂井 人間が「日本食食べて太った」って計るかもしれませんね(笑)
▲ここでいつでも馬体重を計ることができる(c)netkeiba.com
平間 なるほど(笑)そして、こちらがトレセンにもある砂浴び場です。海外には砂浴び場はあるのですか?
矢作 いや、ないと思います。
坂井 みんな、芝の上に寝っ転がっちゃいますね。
矢作 でも、これは使う陣営もあると思います。
平間 これは古い国際厩舎にもありますが、使う厩舎は毎日のように調教終わりにゴロゴロさせていますね。
坂井 ウォーキングマシンはないんですか?
平間 ウォーキングマシンはないので、曳いて歩いて頂きます。
▲海外にはあまりないという砂浴び場(c)netkeiba.com
平間 あと特筆すべきは、そこに見える黒い防音壁です。高さは3メートルぐらいあります。
坂井 開催中の騒音は気になりますよね。
平間 競馬場の中ということで、多くのお客様が来ているので音は気になると思いますが、そうした不安を軽減するために防音壁を設置しています。
矢作 これでどの程度、消音してくれるかな?
平間 検疫の日程上、開催日に国際厩舎にいるのは1節だけ(※当週の前週)なので、朝早くに外に出して運動させて、お客様がいなくなった夕方以降に出す形にすれば、そこまで騒音は気にならないかと思います。
▲競馬開催中の騒音防止にスタンド側には防音壁を設置(c)netkeiba.com
坂井 騒音を気にするのは日本人ぐらいですよね。
矢作 確かにそうかもしれないな。日本人がいちばん神経質かもしれない。
坂井 ドーヴィルなんか厩舎近くの競馬場でクラブミュージック流して大騒ぎしてますよ。
矢作 競馬の前日に夜中までやってたもんな。みんな、競馬場で踊ってんの。
平間 一般のお客様が!? そうなのですね。すごいですね…。
▲騒音を気にするのは日本人だけかもしれない…(c)netkeiba.com
平間 こちらが管理棟、「クラブハウス」と呼んでいる建物です。
矢作 クラブハウスでは朝食も食べられるし、飲み物・アルコールも用意されているそうですね。
平間 厩舎関係者のために朝食を提供するのと、飲み物を自由にとれるようにしています。アルコールのご用意もあります。
▲クラブハウスでは厩舎関係者向けに朝食や、飲み物のサービスがある(c)netkeiba.com
矢作 いいなぁ(笑)
坂井 他の国だとそういうサービスはないですよね。
平間 そうですね。ジャパニーズ・ホスピタリティです。
矢作 おもてなしですね。
▲日本の“おもてなし”が受けられるとのこと(c)netkeiba.com
坂井 これは気に入ってもらえると思います。中に宿泊用の部屋も用意されているんですよね?
平間 はい。宿泊用の部屋は2部屋あります。
矢作 ホテルからも通えるし、馬房カメラもチェックできるから便利ですね。
平間 そういった面では安心して使って頂けるかと思います。また馬房の映像はパソコンや携帯からリアルタイムでチェックできるようになっています。
矢作 まだ直すべき点はあるけど、お世辞抜きでいい施設だと思います。ぜひ世界の競関係者には日本に遠征して欲しいですね。日本でお待ちしております。
(文中敬称略)
新たな国際厩舎を回る様子を動画でも!