▲トップナイフを管理する昆貢調教師(撮影:大恵陽子)
ホープフルSでゴール直前まで先頭を守り抜いたトップナイフ。ゴールの瞬間、わずかな首の上げ下げでGIタイトルを逃し、陣営は3歳クラシックでの巻き返しを図ります。
その秘策の一つが在厩調整。昆貢調教師は在厩の方がいいタイプだと判断し、この2カ月、様々な調教を行ったところ、横山典弘騎手も同馬のパワーアップを感じるようになりました。当初は皐月賞へ直行ローテも考えられていたのが、横山典弘騎手の進言で出走することになった弥生賞。皐月賞、日本ダービーと見つめるクラシック制覇へ向けて始動します。
(取材・構成:大恵陽子)
教えなくても自分で勝手に競馬を覚えている
──昨年7月に札幌で新馬戦を迎えました。その頃の印象を教えてください。
昆 調教の段階から「これは走るな」と思ったけど、一度見た時に「ちょっと気性が難しいな」とも感じました。自分で興奮してしまうような雰囲気があったから、新馬戦ではどうかな、と。やっぱりちょっとレースに集中できなかった感じでしたね。あの時期、ノリさん(横山典弘騎手)は小倉を主戦場にしていたので、(横山)和生くんに頼みました。
──2戦目でチークピーシズを着用し3着ののち、3戦目で初勝利を挙げました。
昆 札幌の馬主さんなので札幌でデビューさせて、3戦目に地元で勝たせられてよかったです。新馬戦を勝てなかったからと言って競走馬として成功する・しないというものでもありませんからね。
──新馬戦は気性的に向き・不向きもあるでしょうね。昆厩舎といえば横山典弘騎手とのコンビがお馴染みで、トップナイフも現在は主戦を務めます。しかし、まだ和生騎手が乗っていた頃に横山典弘騎手が1週前追い切りに騎乗したことがあったんですね。
昆 たまたまね、あの時はピンポイントで北海道に来ていたんですよ。それで乗ってみてもらったら、「これ、面白そうだよ」と言ったんですよ。まだその頃は馬も競馬自体をまだ理解していない感じで、初勝利を挙げた時も強い勝ち方はしたけど、「ただ回ってきただけかな」と感じる競馬でした。
▲札幌での未勝利戦を勝ち上がったトップナイフと横山和生騎手(撮影:山中博喜)
──幼さを残しながらも、高いポテンシャルを秘めていたんですね。
昆 4戦目の野路菊Sは北海道帰りで中2週だったので、そんなにめちゃくちゃ仕上げる必要もないと思って臨みました。結果は4着と悪かったですけど、次に何とかできそうな感じを受けました。
──驚いたのが6戦目の京都2歳S。4コーナーで他馬と接触がありながらも、直線で伸びて2着まで来たことです。気持ちが萎えてもおかしくない場面だったかと。
昆 ああいうパターンがこの馬は一番苦手なはずなんですよ。ぐちゃぐちゃになったり弾かれたりすると、気がちっちゃいんじゃないのかなって私は思っていたんだけど、「こんなんになっても、頑張ればいいんだ」みたいな感じで、馬が自分の中で処理しているようでした。
──状況を理解できる賢さがあるんですね。
昆 あの馬のいいところは、教えなくても自分で勝手に競馬を覚えていっていることです。私たちは何も教えていません。調教では10頭の馬群の中に入れて走ったりはできなくて、せいぜい1〜2頭ですからね。これまでレースを番手で運んだり、ハナに行ったり色々なことができているのは、馬が自分で「競馬はこういうものだ」と理解しているからです。賢くてすごい子だなと思います。
▲不利を受けるも驚異的な末脚で2着まで追い込んだ(c)netkeiba.com
ノリさんが「パワーがついて引っ張るのがしんどくなってきた」
──調教にまつわる「昆イズム」を知りたいのですが、萩SやホープフルSの追い切りではマテンロウオリオンやマテンロウレオと併せ馬を行っていました。重賞で活躍する古馬と2歳馬を組み合わせた意図というのは?
昆 調教パートナーは五分か強い馬とやるようにいつも組んでいます。ポテンシャルの高い馬が格下の馬相手に何馬身もぶっちぎって先着しても私にとっては追い切りじゃないんです。切磋琢磨して競り合って、しんどいなと思う調教をしてあげると、ひと皮むけてきますから、そういう調教方法を行っています。
──トップナイフはホープフルS後はずっと在厩で調整されているようですが、そこにも昆調教師のお考えが色々とありそうです。
昆 この馬は放牧に出さずに厩舎でやった方が多分いいタイプだろうと思って、色々なトレーニングを課してきました。「すごく良くなっているな」と効果を感じていたんですけど、ノリさんは「あんまり激変している感じはない」と言っていたんです。ところが、弥生賞の1週前追い切りに乗ったら「パワーがついているね」と。イレ込むタイプじゃなくて、大人しくて乗りやすい馬なんですけど、パワーがついているから引っ張るのもしんどくなってきたと言っています。パワーがつくと完歩が伸びるんですけど、これ以上完歩を伸ばしたらスピードが出過ぎるから抑えなきゃいけなくなってしまい、それが「しんどくなってきた」ということに繋がります。それでも、身体はもっともっと完成してほしいなと思います。
──2カ月の間に大きな成長を見せたんですね。他に横山典弘騎手とはどんなお話をされていますか?
昆 かなり余裕を持って競馬をしているんだろうなと思います。というのも、レースに使ってガタッとくるようなタイプではないですからね。私は皐月賞とダービー、春はこの2本でいいかなと思ったぐらいなんですけど、辛口のノリさんが「いや、全然大丈夫だよ。弥生賞とかを挟んでも大丈夫」って言うから、乗っていて疲れを見せないタイプなんだろうなと思います。
ホープフルSは私的には勝っているレースでした、本当に。ゴールの瞬間だけ負けているだけで、その前後は勝っているんですよね。運がないんやろうな、と思いました。ノリさんもあのレースを勝とうと思って積極的な競馬したわけですから。
▲ホープフルSでは悔しい2着(撮影:下野雄規)
──その悔しさは、皐月賞と日本ダービーで晴らしたいですね。
昆 それはもう、どちらかで何とかしようと思っています。今年のメンバーを見ると、私たちの馬にもチャンスあるかな、と思っています。
(文中敬称略)