▲「通信機器の取締り」は本当に実効性のある防止策なのか (C)netkeiba.com
開催日にスマートフォンを不適切使用したとして、経歴2年3カ月以内の若手騎手6人が5月13日から6月11日まで、30日間の騎乗停止処分を受けた。競馬を含む国内公営競技の騎手、選手に対しては、不正防止の観点から一定期間、外部との接触を断つことが共通のルールとなっており、通信機器使用もご法度という建前である。
だが、こうした規制はともすれば形式論理に陥り、不正防止策としての実効性に疑念の目も向けられてきた。また、通信機器の著しい普及は人々の生活様式を一変させている。
若年層は「デジタルネイティブ」と言われる通り、パソコンやスマートフォン、タブレットに幼少時から親しみ、同じ情報に接する場合も、紙ではなくデジタルデータを選択し、SNS上で積極的に発信する人が多い。また、競馬が他種公営競技と異なり、一種のチーム競技であることも、機器使用規制を難しくしている。こうした状況を踏まえて、今回の事態をどう整理し、制度のアップデートを図るかを考えてみたい。
福島で女性騎手4人が使用
事態が発覚したのは4月23日の福島。女性騎手控室で4人のスマートフォン閲覧をJRA職員が現認したという。4人は自身が騎乗したレースの動画を見ていたといい、その後に調査対象を広げた結果、同じ日に京都で騎乗していた2人が通話していた事実も判明した。
処分を受けたのは、福島騎乗組では3年目の永島まなみ(20)、古川奈穂(22)、新人の小林美駒(18)、河原田菜々(18)の4騎手。また、この週に京都で騎乗していた2年目の今村聖奈(19)、角田大河(19)両騎手も、騎手控室でのネット閲覧と調整ルームでの通話(今村)と、認定調整ルーム(コロナ禍を受けて策定=JRA職員が宿泊しているホテルが指定される)での通話(角田河)が処分の対象となった。6騎手への処分の後続措置として、JRAは全騎手を対象に聞き取り調査に入り、5月2週にも終了予定だ。
福島の件の現場となった女性騎手控室は、1996年に中央で初めて女性騎手3人がデビューしたのに併せて各場に設置されたが、人数が少ないためか、男性騎手の控室よりはるかに狭い。中山の場合、地下馬道に通じる廊下の突き当たりの一室が割り当てられているが、女性騎手が姿を消した時期には使われなかった。筆者は競馬場の行き帰りに近くを通るが、通路自体が暗く殺風景な場所なのが印象に残るほどだ。
また、男性騎手の控室は扉が開いていて、近くを通ると中の様子が自然に目に入るが、さすがに女性騎手控室を開けっ放しにしておく訳にはいかないし、部屋付きのアルバイト職員もいない。小林美、河原田がデビューしたことで、3月から女性騎手は6人となり、4月23日の福島には5人が集結。同日の7レースに全員が参戦し、史上初の女性騎手5人騎乗という記録も生まれた。狭い空間に最大6人では居住性に問題があるし、常駐職員がいないことは事件の遠因となった。
下級生だけの「マイルール」?
今回、処分を受けたのは経歴3年以内の6人で、しかも5人が女性だったことは、様々なハレーションを起こした。ただ、開催期間中のスマートフォン閲覧が女性騎手だけ、または“下級生”だけの問題だったのかは大いに疑問がある