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メシ馬が考える新時代に対応した重賞の攻め方とは?

  • 2023年05月26日(金) 12時00分
インターネットやSNSの普及によってオッズの動きは数年前とは明らかに変わりました。さらに、そのオッズの歪みから生まれる期待値の高い目をAIが虎視眈々と狙っています。かつての正攻法では控除率の壁を超えにくくなり、今、新たな“競馬の勝ち方”が求められているのです。そして、それは特に重賞で顕著だとメシ馬氏は言います。

ここでは、5月26日に発売される新刊『重賞穴パターン事典』から一部抜粋し、新時代の馬券アプローチについて解説していきます。メシ馬氏の木曜コラムや予想を見られる方にも参考になると思いますので、是非ご一読ください。
(取材・文・構成=オーパーツ・パブリッシング編集K3)


いまメシ馬は何に注目して予想しているのか?


──まず、『重賞穴パターン事典』は『穴パターン事典』シリーズの第三弾となりますが、今回はどうして重賞にフォーカスしたんでしょうか?

メシ馬 色々な時代の変化があって、今は重賞で穴を狙うのが効果的だと思ったからです。

──平場と重賞はどう違うんですか?

メシ馬 平場はみんなが時間を割いて予想できるわけではないので、個々の馬の能力を分析することで勝負ができます。でも、重賞となると多くの人が擦るほどレース映像を見ていますし、個々の馬の能力や特徴についてインフルエンサー達が情報を発信しています。そうなると、なかなかオリジナリティのある分析ができません。

──SNSを見ていると「へぇ」と思うことありますもんね。それがなかったら気付かなかったようなこともたくさんあります。

メシ馬 不利があったとか、ロスがあったとか、展開が明らかに向かなかったとか、以前はそれに気付いた人だけのアドバンテージになっていたものが、競馬予想界隈におけるSNSの普及によってそうじゃなくなりつつあります。

──バレバレすぎてオッズが下がるわけですね。

メシ馬 単勝20倍だったら勝率5%でよかったのに、単勝10倍になれば勝率が10%必要になるわけです。勝率が倍になるって相当ですからね。ちょっとやそっとのことでは起こり得ません。重賞ではこういったSNSの情報でオッズの歪みが生じやすくなっているんです。

──重賞だけ買うファンも、誰かしらの見解を参考にするでしょうからね。

メシ馬 以前は専門誌がオッズを作っていましたけど、今はそれだけじゃなく、インフルエンサーの発信や予想でも大きく動きます。

──専門誌を見て「人気なさそう」と思って本命にしたら、ものすごくオッズが低かったということはよくあります。じゃあ、そういう時代になった今、どうするのがいいんですか?

メシ馬 極端に言ってしまえば「馬を見ないこと」です。今の重賞は馬を見なくても戦えますから。

──本当ですか!?

メシ馬 どんなレースでも盲点になりやすい点が必然的に生まれるので、そこを狙っていくんです。むしろレース映像から情報を得ようとしすぎて、以前よりも盲点は増えていると思います。

──「馬を見なくてもいい」というのは、個々の馬の能力を考えなくてもいいってことですよね?

メシ馬 以前より馬の能力がオッズに反映されやすい状況ですから、能力通りに決まれば配当は安いわけです。じゃあ、穴を狙うためにはどうすればいいのか? 能力順に決まらない決着を狙うんです。

──でも、人気サイドで決まってしまうこともありますよね。

メシ馬 重賞は平場に比べたら能力順の決着にはなっていないと思います。たまに能力順で決着しても配当がものすごく安いですし。

──それなら能力を見て当てにいくより、イレギュラーを狙ったほうがいいということですね。

メシ馬 例えば、昨年末に僕が当てたホープフルSも、実力どおりの決着とは思えないですよね。スローペースの前残りですから。ああいうイレギュラーが発生すると能力があっても対応できませんからね。

メシ馬


<ホープフルSのメシ馬の見解>

オッズの作られ方はどう変わった?


──SNSの普及以前と以後では、オッズの動きはどう変わったんでしょうか?

メシ馬 キャッチーな馬っていますよね。前走でスムーズじゃなかったとか、以前だったらこれで儲かっていたんだろうなというようなわかりやすい馬です。そういう馬は今は売れ過ぎてしまいます。

──説得力のありそうな推奨理由に過剰に魅かれてしまうということですよね。

メシ馬 発信する側からすると、どれだけ納得させられるかが勝負ですから。5年くらい前までは僕もそれをしていたわけですけど、「論理的に考えてこの馬が来るよね?」みたいな馬がいたとすると、以前よりもオッズが下がりやすくなっているんです。

──当時は多くの方がメシ馬さんのツイートを熱心に見ていましたもんね。

メシ馬 そもそも『穴パターン事典』って「多くの人が当たり前のことができていないから、オッズ妙味がある馬っているよね?」という切り口で書いたんですけど、当たり前のことをSNSなどを使ってみんながある程度理解し、実行できる時代になってしまったので、今度は当たり前じゃないところを狙わないと勝負にならないなと思ったんです。

──5年くらい前まではSNSで発信する側だったのに、今はそれを利用する側になったということですね。

メシ馬 そうですね。僕はここ数年SNSでは黙っていますからね。

──まぁ、SNSでつぶやくのは、メシ馬さんにとってもメシ馬さんの予想を見る人にとってもメリットがないですもんね。

メシ馬 最近はオッズの作られ方が変わって逆転現象も起きています。前走で明らかに恵まれた馬がSNS上で嫌われすぎて、実際のオッズが高くなっている例です。単勝4倍くらいと想定していたら8倍ついている。4倍なら勝率25%必要ですけど、8倍なら勝率12.5%で良いわけですから、8倍つくのがわかっていたら消しでしたか?と言うと、たぶん違うんです。今はそういったところにオッズ妙味が発生するのかなと思っています。予想を配信する立場にある人はレース15分前に予想を公開できることは少なく、遅くても当日朝、人によっては前日夜の場合が多いというのも影響していると思います。

──予想が正しいかどうかよりも、どういうオッズで買うかのほうが大事ということですね。

メシ馬 競馬の予想に「これだけが正しい」という方法はありません。みんなが同じ予想法を使えば儲からなくなるわけで矛盾が生じます。

──じゃんけんみたいなものですね。しかも、オッズを見て買うのは後出しじゃんけんですよね。

メシ馬 僕は常に期待値が取れるかどうかを考えているんですけど、同じ馬でもオッズが変われば期待値が変わります。そう考えると、馬そのものよりもオッズのほうが大事なんです。しかも、それはずっと不変です。
 こうした時代の中で勝つためには、結局のところ「競馬の本質を理解して、それを応用する」しか道はないんです。なので、『重賞穴パターン事典』も既存の重賞本のように個々の重賞のデータを載せるような形にはせず、本質の理解や、オッズの偏向に意識を向けたものを取り扱うようにしています。

──データが変わる度に毎年更新するようなものではなく、ずっと使える考え方を紹介しているわけですね。

メシ馬 競馬予想って強い馬を見つけることが目的ではないんです。『マンガでわかる 勝つための競馬入門』にも書いたように「強いのに人気がない馬を見つける」のが本来の目的です。そこをもう一度考えるべきだと思うんです。


回収率100%を超えるために必要な考え方とは?


メシ馬 昔からオッズが大事だという話をしていますけど、ボンヤリとはわかっていてもちゃんと理解できていない人もいると思います。

──どういう意味ですか?

メシ馬 先ほども例に挙げましたけど、単勝20倍と単勝10倍で必要になる勝率が倍違うという単純なことに気付いていないんです。例えば、2023年中山牝馬Sのアートハウスとストーリアです。アートハウスは斤量57kgで単勝2.9倍、ストーリアは斤量52kgで単勝13.2倍。回収率100%を超えるための勝率はアートハウスが34.5%、ストーリアが7.6%です。これを見てどう思うかです。
 補足をすると、秋華賞ではアートハウスが5着、ストーリアが8着。タイム差はなく、斤量も両者55kgでした。それでいて今回、両者の斤量差は5kg。これを見て「アートハウスのほうが5倍近く勝率が高いんだ!」と主張できる人は多くないと思います。今これを見ている人の中でも、なんでアートハウスはこんなに人気だったんだ?と思い返す方は多いでしょう。ただ、事実そうだったんです。オッズと勝率の重要性がわかる典型例だと思います。

メシ馬




──確かに、斤量57kgのアートハウスは人気になりすぎだと思います。ただ、「この馬は勝率何%ぐらいだろう」というのは個人差がありますよね?

メシ馬 アナログでやるのは確かに難しいかもしれません。そこはオッズの変動をずっと見てきた僕の強みでもあると思います。でも、一般の競馬ファンの方にもできると思うんです。

──そうなんですか?

メシ馬 今の競馬ファン、少なくともデータやコース形態やトラックバイアスを意識しているような人は馬を選定する能力が高いと思っています。たぶん気付いていないだけで単複だったら回収率90%ぐらい取れる予想力があると思うんですよ。オッズに見合うかどうかという視点を忘れているだけで。たぶん、多くの人が自分が買おうとしている馬が想定より人気になっていた場合でも馬券を買っていると思います。でも、回収率100%を超えるためには、「じゃあ、別の馬が期待値を持っているよね」という考え方にシフトすべきなんです。

──これができている人は少ないでしょうね。

メシ馬 あと、週中から予想する人はnetkeibaの予想オッズを見ると思うんですけど、あれも仕組みを理解しておいたほうがいいですね。あの予想オッズは、競馬ファンの予想などを基にnetkeibaが独自に開発したAIを用いて作られたオッズなんですが、あくまでも想定オッズです。月曜段階のオッズを見て「こんなにつくなら本命にしよう」と決めてしまうと、週末が近づくにつれてオッズが下がってきて、「バレてきた」「こんなオッズなら買えない」となります。

──僕もよくあります。

メシ馬 思ったよりオッズがつかないと思ったときに仕切り直せたらいいんですけど、一番恐いのは「認知バイアス」の一種である「確証バイアス」です。人間というのは自分の都合のいい情報だけ集めてしまうんです。予想オッズの時点で「この馬がおいしい」と思い込んだら、オッズが低くなっても引けなくなります。週中から分析するのが主流になっている中で、こういうのが顕著になってきている気がしていますね。

──それもよくあります(笑)。

メシ馬 同時にそれと逆のことも起きます。予想オッズを見て「5倍しかつかないなら買えないな」と思った馬が当日オッズで10倍ついたとき。一度ダメだと思っているから「買おう」と思えなくなるんです。

──自分の中では既に消した馬ですから、10倍ついていることにも気付かないかもしれませんね。

メシ馬 それも結構あると思います。なので、僕は最近、週中の予想オッズはまったく見ないようにしています。



週中、週末に気をつけるべきこと


──では、週中は何をすべきですか?

メシ馬 予想オッズを見るよりも、そのレースがどのような構造で、どういう馬が盲点になるかを考えたほうがいいですね。実際、僕が書いている木曜コラムも「この馬がこう強い」みたいな話は書いていません。「このレースはこういう枠組みの中にあって、こういうステップレースだから、ハマるとしたら…妙味が出やすいのは…こういう馬だよね」という話を書いています。あとはオッズ、天候、枠を見て決めましょうという形にしているんですけど、それはその時点で「この馬が注目です!」って書くと、前述の確証バイアスにハマって自分も抜けられなくなるのでそういう書き方をしています。

──『重賞穴パターン事典』の第3章では木曜コラムから実際の予想までの間に何を考えていたのかを解説してもらっていますけど、最終的な予想はいつアップしているんですか?

メシ馬 レース当日の朝方が多いですね。そこまで引っ張ったほうが、オッズからどんな感じで推されているのか見えると思うので。売り出した直後や深夜のオッズを見ていると、誰かわからないけど影響力のある人が推しているんだろうなという馬がわかります。オッズの不思議なところは、そういう売れ方をすると他の馬券購入者の目にも入ってくることなんです。最終的に人気薄になるとしても、瞬間的に2、3番人気になっていると気になるでしょうし、人気馬には全部流しておこうという人も買います。そうなるとマイナスですよね。

──それくらいオッズが動くなら一般の競馬ファンはギリギリまでオッズを見たほうがいいですね。予想家さんはそうはいきませんけど、それだけで有利になる可能性がありますよね。

メシ馬 そうですね。僕も許されるならば3回くらい予想を変えたいです(笑)。それぐらいオッズは当たり前に動くので、ギリギリまで見たほうがいいですね。

重賞こそ穴狙いをすべき!!


──『穴パターン事典』ですから、メシ馬さんは当然穴狙いに徹するわけですよね?

メシ馬 はい、重賞こそ穴狙いの意識を持ったほうがいいと思います。

──「重賞こそ」というのは、平場は違うということですか?

メシ馬 最近の傾向として、平場は人気馬の組み合わせのほうが勝ちやすくなっています。人気馬の馬連を1〜2点に絞るとかですね。

──どうしてそんなことになったんですか?

メシ馬 今までは穴で一発取れれば回収率が100%を超えるという戦い方で全然勝てたんですけど、今は期待値を持っているおいしい目をAIがかっさらっちゃうんですよ。一昔前の中穴が全部人気になっているイメージで、戦いにくくなっていますね。

──人間よりも網羅的に見られるから、平場の期待値勝負はAIのほうが強いということですよね。重賞だとAIの影響はそこまでではないということですか?

メシ馬 そうですね。想像でしかないですけど、サンプル数の少なさゆえのブレがあるんだと思います。あと、重賞のほうがジョッキーも積極的に勝ちにくるので、イレギュラーなことが多くなるというのもありそうです。そういう意味で、重賞はつけ入る隙が大いにあるのかなと思っています。

──netkeibaの「ウマい馬券」で予想を開始してからの重賞成績を拝見しましたが、トータルの回収率は115.2%でした(2021年3月27日〜2023年3月12日)。メシ馬さんの予想はずっと売れ筋1位ですよね。それだけ見られているのに、この回収率は驚異的だと思います。

メシ馬 netkeibaデビューからトータルでの細かい回収率は知りませんでしたけど、プラスだとは思っていました。

──ただ、穴狙いだけあって非常に波があります。

メシ馬 そうですか。毎週36レース行われている中のひとつふたつという感覚でやっているので意識していませんでした。特に重賞は当てにいかないし、あくまで分析したパターンに当てはまる馬を狙っていくだけなので、当たらなくても気にならないのかもしれません。

──メシ馬さんの重賞予想を参考にするみなさんには、注意点としてここはお知らせしておきましょう(笑)。





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