今年落札された91頭の年内のデビューに注目
▲トレーニングセール会場風景
5月23日(火)、札幌競馬場にてトレーニングセールが開催された。前日22日(月)に公開調教、翌23日がセリという日程である。この時期、北海道はまだ気温がそれほど高くなく、外の日陰にいると暖房が欲しくなるほどだが、今年も案の定、例年通りの“寒さ”であった。とりわけ前日の公開調教の日は、終日黄砂によってどんよりと霧がかかったような状態の空模様でもあり、スタンドの日陰に座ってカメラを構えていると体の芯まで冷えて来るほど。真冬並みの服装でも大げさではないくらいの体感温度に感じた。
公開調教は全体が5クルーに分割され、1クルーあたり12〜13組が基本2頭併走で札幌競馬場のダートコースを走る。向こう正面からスタートし、3〜4コーナーにかけて徐々に加速して行き、残り400m地点から計時開始である。ハロン11秒〜12秒台で駆け抜け、仕上がり具合を購買関係者にアピールする。終いの1ハロンは、各馬ともかなり強めに追われるが、10秒台を出す馬は少なく、大半が11秒台でまとめていた。
2ハロンの合計タイムでの最速は、1クルー2組目に単走で公開調教を行なった44番センターグランタス2021(牡鹿毛、父デクラレーションオブウォー)の11秒2、10秒8、合計タイム22秒0であった。本馬は半姉に京阪杯、キーンランドカップなど6勝を挙げたエイティーンガールがおり、このセールの注目馬の1頭。一番時計を叩き出した効果もあって、翌日のセールでは1650万円(税込、落札価格1500万円)で井山登氏に落札された。生産者は庄野牧場、販売申込者は99.9、飼養管理者は(有)NO9ホーストレーニングメソド。
▲2ハロンの合計タイムでの最速を記録した44番センターグランタス2021
▲翌日のセールでは1650万円で落札された44番センターグランタス2021
また、終い1ハロンの最速は、5クルー7組目に登場した53番パラダイスコーブ2021(牝鹿毛、父リアルスティール)の10秒6である。本馬は生産者が(有)嶋田牧場、飼養管理者・販売申込者が(株)セイクリットファーム。2145万円(落札価格1950万円)で(有)ノルマンディーファームが落札した。
▲終い1ハロンの最速を記録した53番パラダイスコーブ2021
▲牝馬最高価格で落札された53番パラダイスコーブ2021
これら2頭に関しては、それなりに高く評価されて価格も上昇したが、翌日のセリ本番では、購買者の慎重な姿勢が目につき、全体的にはやや低調なムードでのセリ風景であった。
上場頭数は116頭(牡72頭、牝44頭)で、前年よりも18頭の減。そして落札頭数は91頭(牡53頭、牝38頭)と前年比5頭の減。売却率は前年より6.81%高い78.45%に達したものの、売り上げ総額は6億6704万円と、前年より1億230万円の下落となった。平均価格も前年から68万3848円下落して733万円。中間価格は660万円である。
最高価格馬は49番ピサノプリヴェ2021(牡黒鹿毛、父リオンディーズ)の2420万円(落札価格2200万円)。生産者、飼養管理者、販売申込者ともに(有)下河辺牧場、落札者は安原浩司氏。
▲最高価格で落札された49番ピサノプリヴェ2021
▲49番ピサノプリヴェ2021の調教の様子
次点は、前述の53番パラダイスコーブの2145万円(落札価格1950万円)。また牝馬の最高価格馬も本馬であった。
全体的に価格の伸び悩む馬が多く、終わってみれば、落札価格が1000万円を超えたのは91頭中10頭のみ。1歳秋より2歳5月までの育成費用を加味すれば、1歳時よりも最低200万円程度は高く売れて欲しいところだが、購買者の財布の紐が案外固かった印象が強い。
団体購買では、岩手県馬主会が12頭を購買し、合計7359万円のお買い上げとなった。岩手県馬主会が落札した12頭の中で最も高額だったのは94番アンフレシェ2021(牝鹿毛、父カリフォルニアクローム)の1760万円(落札価格1600万円)。ただ、本馬以外は、概ね500〜600万円止まりで、今回のセールの購買者の平均的な予算額とも合致する。
▲岩手県馬主会が落札した中で最も高額だった94番アンフレシェ2021
▲94番アンフレシェ2021の調教の様子
生産界はコロナ禍にありながら、昨年までは1歳市場がひじょうに好調に推移し、市場を主催する日高軽種馬農協では史上最高の年間売り上げを記録していた。いわば、ちょっとしたバブル状態でもあったわけだが、ここにきてそれがやや陰りを見せ始めているように思える。少なくとも、2歳トレーニングセールに関しては、価格の伸び悩む上場馬が多く、関係者の多くが渋い表情であった。
敢えてその原因をひとつ挙げるとすれば、当セール出身馬の競走成績にあるのではないかと思う。因みに昨年の当セールで落札された96頭は今年3歳になっており、すでに大半がデビュー済みだが、今日現在における稼ぎ頭はマイクロモザイク(牝鹿毛、セリの購買価格2530万円)の738万円。96頭中、獲得賞金が500万円を超えているのは現時点で10頭しかいない。一方で、未だ賞金ゼロ(競走名のついていない2頭を含む)が18頭、また50万円未満も11頭に上る。
まだ各地で行われるダービーを控えての時期ゆえ、今後、活躍馬が出て来る余地は大いにあるが、少なくともトレーニングセール出身馬は、即戦力として評価され、落札された馬たち。それを考えると、昨年の取引馬の競走成績は今のところやや不振と評価せざるを得ない。そうしたことが今年の市場マインドに影響しているのは間違いなさそうだ。
ただ、過去にはバビット(2020年、セントライト記念、ラジオNIKKEI賞)、さらに遡るとモーリスなどもこのセール出身馬である。どちらもセリ上場時には決して高額とは言い難い落札価格ながら大活躍したのだから、今年の取引馬の中からもこれらに続く活躍馬が出て来る可能性はある。今年、落札された91頭の多くは年内にデビューして来るはず。どんな走りを見せてくれるのか、注目して行きたいと思う。