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荒尾競馬廃止報道を受けて

  • 2011年08月27日(土) 12時00分
「荒尾競馬、今年度(12年3月末)限りで廃止」というニュースが伝わってきました。

 インターネットでチェックしたところ、25日の熊本日日新聞が、管理者である荒尾市長が廃止の方針を固めた、との記事を掲載。その後、西日本新聞やスポーツ紙などが相次いで関連記事を載せるようになりました。競馬場関係者(調教師、騎手や競馬場の出入り業者など)も“熊日”の記事で廃止を知ったようです。

 “熊日”の報道があった25日には、市長と競馬場関係者との会合が開かれました。その席で市長は「廃止を明言も否定もしなかった」そうです。しかし、「存続へ向けて努力している」などの前向きな言葉が聞かれなかったことから、競馬場関係者の間では、廃止は“既定路線”と受け止められています。

 市長がこの時期に決断したのは、廃止に伴う関係者への補償費用などを荒尾市だけではまかない切れないため熊本県にも支出を求めたい、それには、来年度予算の編成作業が本格化する秋を前に方針を明確にしておく必要があったから、とのことです。

 これに対し、競馬場関係者からは、「廃止やむなし。早くその後の対策(補償や再就職先の確保など)を打ち出してほしい」という声が上がっています。なにしろ馬券の売上は低迷、賞金や出走手当などは限界近くまで削減され、調教師や騎手ら現場の人たちは、競馬の稼ぎだけでは普通の生活を維持することが難しいくらいの状況です。何が何でも存続を訴えるより、転職への援助を期待するほうが現実的なのかもしれません。

 数年前に中津、益田、新潟、上山、栃木、高崎と続いた廃止の嵐は、いったん小休止していました。他の競馬場との連携やダービーウィーク、グランダムジャパンシリーズ、スーパージョッキーズシリーズトライアルといった新企画、インターネット投票の拡充、開催経費のギリギリまでの削減などがささやかながら効果を発揮し、崖っぷちで踏みとどまってきたのです。

 しかし、もうそれだけでは立ちゆかなくなってしまいました。荒尾から伝わってくるのは、「これ以上なすすべなし」という手詰まり感。荒尾がそうなら、笠松や福山なども同じでしょう。東日本大震災で大きな被害を受けた岩手も苦しい状況に変わりはありません。道営も、ばんえいも…。安泰の競馬場なんてあるんでしょうか?

 ハッキリ言って、地方の競馬場を抱える市や県の力だけで現状を打破するのは不可能です。JRAでさえ、様々な手段を使って馬券売上の減少に歯止めをかけようとしても、なかなか劇的な効果を上げられずにいます。

 国はこの状況を“黙視”し続けているようにしか思えません。競馬は、馬産を含め、多くの人がそれを生業とし、数兆円規模の金が動く立派な産業なのに…。今は競馬どころではない、という時なんでしょうか?

テレビ東京「ウイニング競馬」の実況を担当するフリーアナウンサー。中央だけでなく、地方、ばんえい、さらに海外にも精通する競馬通。著書には「矢野吉彦の世界競馬案内」など。

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