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『だからアメリカに行く』真のプロへ・福永祐一

  • 2012年07月10日(火) 18時00分
「競馬の職人」の栗東を担当させていただくことになった常石勝義です。元騎手だった目線で、職人を探し出して「活きたい」と思います。

 いざ取材を始めると目からうろこ…という感じで。知らなかったというか、目に入らなかったことがいっぱいです。みなさん楽しみにしてください。

 さて、初回はこの人しかいないでしょう。昨年(2011年)リーディングジョッキーに輝き、今年もその軌道に乗りつつある…そして僕と同期の「花の12期生」の福永祐一騎手です。もう「花」という年齢でもないですがね。

「花」というのは、将来花形騎手になって欲しいという思い…? と、JRA初の女性騎手3人がデビューしたんですよ。今活躍中の細江純子さんがそのお一人です。

昨年リーディングに輝いた福永祐一騎手

昨年リーディングに輝いた福永祐一騎手

 さて、デビューして16年目で到達したリーディングの勲章は、元騎手だった父・福永洋一さんが9年も連続で君臨していた場所。それを思うと「自分なんてまだまだ凡才ですよ」というユーイチ。

そんな福永騎手が、6月29日から約2か月間、アメリカのケンタッキー州・カリフォルニア州へ武者修行に旅立ちました。今回は旅立つ寸前にインタビューさせていただきました。

「自分の力で何処までやれるのか? 足りないものは何か? 日本との違いは? …などを見つけるためには、まず行って見ないとね」

ーどうしてアメリカへ行かれるんですか?

「たまたま縁があって、今が一番いい時期だと感じたのでチャレンジする。現場を肌で感じ感触を確かめないとつかめないものがいっぱいあると思うから、楽しみです。行ってみないと何も分からないですが、流動的に2か月くらい行ってくるわ」

ー05年にアメリカンオークスをシーザリオ号で勝っていますよね。

「あの時はとってもいいチャンスをもらいましたね。その時のご縁もあって、今回の滞在が決まったんです。行ける事がラッキーと思っているので、思い出のハリウッドパークやカリフォルニア州でもレースに乗れたらいいですがね。なんとも言えないけどね」

ー英語は話せるんですか? (失礼…)

「まー、それも勉強して、話せるようになってくるわ(笑)」

ーさすがユーイチ。失礼しました。楽しみに待ってます。お土産も…。

「期待しといて(笑)」

ーこれからの競馬を盛り上げるためには?

「娯楽が多様化している中で競馬を選んでもらうには、きめ細やかなファンサービスが当然必要になってくると思う。競馬を応援してくれるファンの中には、馬と騎手を見に来てくれている方が沢山いると思う。そんな中で騎手ができることは限られているが、身近に感じられるようなイベントなどをしたいと思っています」

ー今何か計画されていますか?


大盛況だったYUICHI-NIGHT

大盛況だったYUICHI-NIGHT

「トークイベント『YUICHI-NIGHT 〜ホントの競馬教えます!』の第1回開催を、4月末に実現できました。自分でトーク内容や企画をプロデュースすることができてよかったです。こういったイベントをずっとやりたいと思っていたんです。

 ホントの競馬を知って理解してもらい、楽しさが伝わり、ファンとの距離感が近くなって欲しいですね。子供たちにもスポーツの一部として捉えて欲しいので、理解できるように、例えば小中学校で騎手が臨時先生として話すなど、そんな活動も増やして、もっと身近に感じて欲しいですね」

ー高知の小学校でお話されたんですよね。

「そうそう。昔は盛んだったけど今は淋しくなってきた高知競馬に、元気になって欲しいと思ってイベントをやった時に、小学校へも行ってきました。みんな元気いっぱいだったし、競馬への質問も多かったですね。“馬に乗るのって怖くないですか?”など質問攻めにあいましたよ。

“最初は怖かったけど、いっぱい練習して勉強もいっぱいしたから、今は楽しいですよ”って言ったら、みんな“勉強がんばるわー!”と歓声。小学生は純粋でかわいいですね」

ー騎手として心がけていることはありますか?


エリ女を勝ったフサイチパンドラ

エリ女を勝ったフサイチパンドラ

「いい競馬をするためには、馬とのコミュニケーションはメチャメチャ重要になってきますよね。馬の気持ちを損ねないように、怒ったりなだめたりし、個性をちゃんと把握して、どんな乗り方がその馬に合うのかなど、厩舎スタッフとも意見交流をしていきます。例えばフサイチパンドラという馬でエリザベス女王杯を勝った時は、鞭は1発も使っていません。牡馬と牝馬とでは微妙に違いますがね」

ー牝馬ってどんなんですか?

「気持ち的に、優しくおだてて乗りますね(笑)。ハミもコミュニケーションを取る重要な馬具ですが、馬の背中での微妙な動きや体重移動での圧力でコントロールし、馬に伝えていくんです。これを騎坐がしっかりしているというんですが、かなり熟練が必要になってきます。僕もまだまだですね。

 でも、少し分かってきたかなと思う瞬間があります。馬に跨った瞬間も大事なんですが、馬場に出てキャンターにおろす1歩目を、騎手が出させるのか、馬が勝手に1歩を出して走ってしまうのかではまったく違ってきます。“行け”のサインを出してスタートできる馬は、騎手の思いも伝わるので、いい競馬ができるんですね」

ーレース前は絶対に馬のことを叱らないそうですね。

「そうそう。レースに出るときは、馬もよくわかっている。普段の環境ではないので、興奮したりイレ込んだりしていることも多いので、なだめて精神面で落ち着く様にしたいと思っています。言葉を話せたらいいんだけどね。“今日は走るのいやや”って言われたら大変やけどね(笑)」

ー肉体改造もされているんですね。

「騎乗技術をもっと高めていかないとダメだけど、体力もいるので、しっかりやっていますよ。勝ったからOKで、負けたからダメやと言う単純なものでもないので。プロとしてのレベルを高めていくために理論付けも必要になってくる。たまたま勝ったではダメでしょう。必然的に理論付けができる技術が身について欲しい。だからアメリカに行くんですよ」

ー沢山の馬に騎乗していますが、一番印象に残ってる馬は何ですか?

「やっぱりキングへイローですね。母がケンタッキーオークスなどアメリカのGIを7勝もした名牝グッバイヘイローという、世界的にも有名な超良血馬だったんですよ。デビューする前から騒がれていました。そんな馬にデビュー2年目で出会うなんてすごいよね。今思ってもすごい出会いだったと思う。感謝です。これからもそんな出会いを大切にしたいです」

ー尊敬する騎手はいますか?

「いっぱいいるよね。尊敬というか、上手いなと思う騎手はいっぱいいるけど、競争相手でもあるので、思ってしまうと立ち向かえなくなるからね。あまり意識をしないようにしている」

ー12期生にメッセージを!

「競馬学校でみんな苦労したからな。そろそろいい年齢になってきたし、これからの競馬界を背負っていって欲しいと思う。それぞれの立場やジャンルは違うけど活躍しているし、純ちゃん(細江純子さん)もつねちゃんもいい刺激になってるよ。僕もどこまでやれるかわからんけど頑張ろう(握手)」

ーありがとうございます。頑張るわ! 最後にファンのみなさんへのメッセージをお願いします。

「もっともっと競馬を好きになってもらえるように、競馬会にも協力してもらって距離感を縮めて、競馬の奥深さを知ってもらいたいと思ってます。応援してください。そのためにもアメリカへ行ってきます(バイバイ)」

 でっかいユーイチになって帰ってきてくれることでしょう。秋競馬の楽しみが増えましたね。お土産いっぱい、楽しみに待っています。常石勝義ことつねかつでした。[取材:常石勝義/栗東]

◆次回予告
次回は赤見千尋さんによるセレクトセール潜入レポート。大物調教師らに、走る馬の見抜き方を学びます。公開は7/17(火)18時、お楽しみに。

常石勝義
1977年8月2日生まれ、大阪府出身。96年3月にJRAで騎手デビュー。「花の12期生」福永祐一、和田竜二らが同期。同月10日タニノレセプションで初勝利を挙げ、デビュー5か月で12勝をマーク。しかし同年8月の落馬事故で意識不明に。その後奇跡的な回復で復帰し、03年には中山GJでGI制覇(ビッグテースト)。 04年8月28日の豊国JS(小倉)で再び落馬。復帰を目指してリハビリを行っていたが、07年2月28日付で引退。現在は栗東トレセンを中心に取材活動を行っているほか、えふえむ草津(785MHz)の『常石勝義のお馬塾』(毎週金曜日17:30〜)に出演中。

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