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『物言わない競走馬を守る』競走馬診療所の仕事に迫る!

  • 2012年08月21日(火) 18時00分
 馬の健康管理には欠かせない、競走馬診療所に潜入してきました。

 診療所では、コンマ1秒を争う競走馬の病気や怪我の治療を行うだけではなく、まずは健康管理を最優先に、年2回春と秋に健康診断を行っているそうです。また、伝染病を未然に防ぐために厩舎の消毒を行ったり、病気や故障を防ぐように指導も行っているそうです。

競走馬診療所に潜入

競走馬診療所に潜入

常石 :今日はお忙しい時間にお邪魔します。広いですね。

松田 :かなり古い建物で、沢山の棟が集まってできているので移動が大変ですよ。でも、今スタンドの正面に新しい診療所を工事中で、2年後に完成予定です。良くなりますよ。最新医療ができそうです。

常石 :えっ、そうなんですか? それは楽しみですね。各厩舎の中央にできるのでかなり便利になりますね。

松田 :便利になって再三来られたら困るんですがね(笑)。競走馬の事故に迅速に対応できるように、調教コースにも近くどの厩舎にも往診しやすいように、競走馬がいる厩舎エリアのど真ん中です。でも、いつもみんなの健康を願っていますよ。自己紹介が遅れましたね。所長の横田が北海道へ主張中ですので、管理課長の松田です。よろしくお願いします。

常石 :診療所はどんな役割をしているところですか。

松田 :診療所は、4つの課に分かれています。管理課は、薬品や機材の調達、競走馬の保健衛生、飼養管理などの一般業務。診療科は主に内科・外科・運動器などの診断・治療。検査課は、臨床検査や免疫検査、薬物検査など。先日、ディープブリランテがイギリスへ行きましたよね。その時やりましたね。防疫課は伝染病の予防のために大事な防疫計画、馬の健康診断もここでやっています。

常石 :いろいろあるんですね。新しい競馬場を造るとき、馬場の状態をデータ管理し、参加しているそうですね。

松田 :事故防止への取り組みとして、馬場の改善ために10年くらいのデータを取っていますね。競走馬はアスリートでスピードを求められるスポーツだから、事前に事故を防ぐために努力しています。いかに無事に走れるか。故障のない馬場にしたいですね。

毎週水・木曜日には週末の出走予定馬のチェックをし、特に骨折休養していた馬には「出走診断」を義務付けしています。こうした診断をすることで、事故のない公正な競馬ができると思います。

調教監視も行っています。調教中に発生した事故に即対応できる体制を組んでいます。人の救護はもちろんのこと、二次的な事故を防ぐために速やかに救急馬運車を出動し対応します。

診察スペース

診察スペース

常石 :一番多い怪我は?

松田 :骨折ですね。昨年診療所で行った手術は154件ありました。そのうち調教や競走中の骨折は119件でした。手術後は何度も治療や症状を見たり、人の病院と同じですよ。特に「疝痛」は、待ったなしの緊急手術ですからね。

常石 :疝痛は治りにくいんですか?

松田 :いやいや。馬は嘔吐ができないので、食べ過ぎたりものがたまってガスが出なかったりすると、腸の動きが悪くなったり痛みが出る。内臓の痛みには敏感で、かなりの苦痛のようですね。初期に発見ができたときは痛み止めなどで処置できるのですが、気がつかなくて手遅れになると開腹手術します。屈腱炎などは胸前の薄い骨の骨髄を取って移植したりします。電気治療も行っています。最初は嫌がったりしますが、慣れてくると気持ちよさそうにうっとりしていますね。

常石 :あれは気持ちいいですね。僕も鎖骨を骨折した時に、どんなものか試したことがありました。(ナイショ)

松田 :365日24時間体制で「何も言えない馬のために」診療所のスタッフは取り組んでいます。

競馬開催日は、出走前の馬体確認を装鞍所でしています。事故防止のために、脚元にバンテージを巻くなどし、準備をして馬体重をはかります。この時測定された体重が、お客様に発表されるんですね。G1競走などで出走馬の馬体重がアナウンスされるのはこのタイミングです。

この時の僕たちの仕事は重要で、出走馬の馬体検査に間違いはないか? 歩様に異常はないか? レース用の蹄鉄が使われているかなどチェックします。

レース後も競走馬診療所でチェックをします。特に目に砂が入っていて角膜炎を起こしやすいので、きれいに洗い流してもらいます。鼻血出もありますので、その場合は肺からの出血かどうか内視鏡を使って検査します。激しい運動で血圧が高くなり、肺の奥からの出血が認められたら、苦しくて走れないので安静が必要。3週間くらいで良くなる。ぶっつけたりしての外傷性の場合は、問題ないです。

歯の治療風景

歯の治療風景

目の診察の様子

目の診察の様子

常石 :心肺機能が強いと言われるのはどんなところですか?

松田 :人間のように肺活量は測定できないが、心拍数を見ることができます。また血液検査でも疲労度の検査はできるんですよ。

走った後は息がハアハアしているが、徐々におさまってきます。運動を止めてからの心拍数のさがり方を測定します。戻りが早い馬が、息の入れがいいとか心肺機能が強いと言われます。

G1級の馬は、1回30回を切るくらいですが、普通の馬は36〜40回くらいですね。ディープインパクトはこれ以上だったと言われていますね。残念ながら僕は診察したことがないので、悔しいですね。あの馬はそれだけではなく、体の筋肉がモリモリではなくとっても柔らかく柔軟性があったそうです。人間も体の柔らかい人は怪我をしにくいそうですよ。

常石 :学生の頃、踏み台昇降運動で体力測定されましたね。心拍数の回復が早いと「体力があるな」と言われたことがあります。早く心拍数が回復すれば心肺機能が高い。馬の呼吸から判断しているんですね。

そんな見方でパドックを見たり、競走後の馬の様子を見るのも面白いですね。ファンの方もちょっと専門家になった気分で、「あの馬息の入れがいいな」なんて評価するのも楽しいでしょうね。

松田 :パドックでは分かりにくいですが、表面の馬体だけではなく内面も見ていただけるといいですね。

常石 :最後に診療所からファンのみなさんへ、メッセージをお願いします。

松田 :昔に比べ馬が強くなってきたし、スピードも要求され、世界レベルまで上がってきています。それだけに怪我や病気も気になるので、『物言わない競走馬を守る』。健康で丈夫で強い馬作りを関係者と共に進めていきたいですね。ガラスの脚をもつアスリートを、競馬場に是非見に来てください。

常石 :診療所の仕事は幅が広いですね。馬だけではなく人も守ってくれているので、安心して働くことができます。

 常石勝義ことツネカツでした。[取材:常石勝義/栗東]

◆次回予告
種牡馬から乗馬への転換!? 次回は、赤見千尋さんが北海道の牧場に潜入。種牡馬を引退した馬の新たな馬生、その知られざる現実とは。公開は8/28(火)18時、ご期待ください。

常石勝義
1977年8月2日生まれ、大阪府出身。96年3月にJRAで騎手デビュー。「花の12期生」福永祐一、和田竜二らが同期。同月10日タニノレセプションで初勝利を挙げ、デビュー5か月で12勝をマーク。しかし同年8月の落馬事故で意識不明に。その後奇跡的な回復で復帰し、03年には中山GJでGI制覇(ビッグテースト)。 04年8月28日の豊国JS(小倉)で再び落馬。復帰を目指してリハビリを行っていたが、07年2月28日付で引退。現在は栗東トレセンを中心に取材活動を行っているほか、えふえむ草津(785MHz)の『常石勝義のお馬塾』(毎週金曜日17:30〜)に出演中。

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