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北米一絵になる競馬場が台風でひっそりと閉鎖

  • 2012年11月03日(土) 12時00分
 菊花賞と天皇賞・秋の合間に、アメリカとカナダの競馬を観戦してきました。

 22日にアメリカ・ニューヨーク州のフィンガーレイクス、23日にカナダ・オンタリオ州のフォートエリー、24日にアメリカ・ケンタッキー州のキーンランドを回る日程。当初、23日は別の競馬場に行く予定でしたが、後にその日が休催日となり、さらにフォートエリー競馬場が10月末限りで閉鎖されてしまうということを知ったので、スケジュールを組み直して行ってきました。

 ご存知の方もいらっしゃると思いますが、実は今、カナダ・オンタリオ州の競馬が存続の危機に瀕しています。

 同州の競馬場は、馬券売上げの低迷による資金難を解消するため、ほとんどのところでスロットマシン場を併設、その収入を競馬開催に回すことでどうにか経営を成り立たせています。ところが、同州政府は競馬場併設のスロットマシン場に対する認可を打ち切り、新たなカジノ開設計画を策定してしまいました。

「ルーレットやカードゲームなどもできる総合カジノが北米各地でしのぎを削っている時代。もはや、競馬の赤字補填のためのスロットマシン場には伸びしろがない」ということなのでしょう。

 競馬主催者にとっては“命綱”を断たれた形。フォートエリーのスロットマシン場は今年4月に閉鎖され、1897年(明治30年)に始まった競馬開催も今シーズン終了とともに115年の歴史に幕を閉じることになったのです。

 フォートエリー競馬場は、ナイアガラの滝に近いアメリカ・ニューヨーク州バッファローからナイアガラ川に架かる国境の橋を渡ってすぐのところにありました。当日は断続的に強い雨が降るあいにくの空模様。競馬場の紹介に「北米で最も美しいレーストラックの1つ」と書かれているとおり、内馬場には池があり緑も豊かで、天気がよければまさに「絵になる競馬場」だったんですが…。

 場内のファンには気さくな人が多く、私が写真を撮っていると、あちこちで声をかけられました。そのうちの1人、初老のファンに「ここがクローズされることをどう思う?」と聞いてみると、「私は小さな子供の頃からおじいさんに連れられてここに遊びに来ていた。私も子供を連れてきた。つまり親子4代ということだ。そんなヤツがここにはいっぱいいる。そういう場所をなくしてしまうなんて、時代の流れかもしれないけど、もったいないね」との答え(一部“推測”が交じっています)。115年の歴史、それに終止符が打たれてしまうことの重みを感じました。

10月30日に最後の開催を予定していたフォートエリー競馬場ですが、その日のレースは、なんとハリケーン・サンディによる豪雨の影響で中止になってしまったとのこと。カナダ三冠レースの1つ、プリンスオブウェールズSが行われてきた由緒ある競馬場は、嵐の中に消えていってしまいました。

テレビ東京「ウイニング競馬」の実況を担当するフリーアナウンサー。中央だけでなく、地方、ばんえい、さらに海外にも精通する競馬通。著書には「矢野吉彦の世界競馬案内」など。

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