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故きを温ねる

  • 2013年03月02日(土) 12時00分
 突然ですが、いきなり問題です。現存するJRAの重賞競走の中で、最も古くから行われているのはどのレースでしょう?

 正解は目黒記念。1932年(昭和7年)4月18日に第1回のレースが行われています。これは、第1回東京優駿大競走が開催される6日前。つまり、日本ダービーと“同い年”なのですが、目黒記念のほうがちょっとだけ先輩ということです。

 開催場所はその名のとおり目黒競馬場。したがって「府中移転によって廃止された同競馬場を記念して創設された」というよりも、単純に「同競馬場の名前を冠して創設された」と言ったほうが正しいんでしょうね。

 でも、この問題はちょっとした“ひっかけ”になっています。目黒記念よりもずっと昔に始まり、今に続いている重賞があるからです。競馬の歴史に詳しい方ならお気づきでしょう。そう、天皇賞です。

 天皇賞のルーツは明治時代に始まった帝室御賞典。全国各地の競馬場(最も多いときで横浜、東京、阪神、札幌、函館、福島、小倉の計7カ所)で行われていたレースが、1937年(昭和12年)の日本競馬会設立に伴い、東西2カ所での開催に集約されました。そして、同年12月3日に東京で行われたレースを第1回とし、名称が天皇賞に変わってからもその回数を引き継ぎながら、連綿と開催されています。第1回よりも前に、その起源となるレースは行われていたわけです。

 実は、先々週の当コラムでも一部をご紹介した“競馬中継事始め”についてあれこれ調べているうちに、そういう重賞がほかにもあることがわかりました。

 札幌記念、函館記念、福島記念、七夕賞はいずれも1965年創設の重賞ですが、太平洋戦争で中断されていた各地の競馬が戦後に再開されると、かなり早くから同名の競走が開催されていました。各レースのルーツは、1940年代後半(昭和20年代前半)に始まったと言っていいでしょう。

 また、1953年(昭和28年)8月の中京競馬場開設第1回開催では、金鯱賞、愛知盃(愛知杯)、中日盃(中日新聞杯)といった、後に重賞となり今も続いているレースが行われています。

 これらのレースは、いわば“有史以前の準重賞競走”。タイトルから察するところ、各競馬場の看板レースとなっていたはずです。

 ちなみに、1954、55年(昭和29、30年)12月の中山競馬に中山特別という重賞がありました。これを拡大発展させて、56年(昭和31年)に創設されたのが有馬記念(第1回は中山グランプリ)。中山特別は重賞に格上げされる前から行われていたので、今年で58回目を迎える有馬記念も、起源をさかのぼれば60年以上の歴史があるわけです。

 去年は近代競馬150周年。今年は日本ダービー80回。「故きを温ねる」というのは、なかなか興味深いものですよ。

テレビ東京「ウイニング競馬」の実況を担当するフリーアナウンサー。中央だけでなく、地方、ばんえい、さらに海外にも精通する競馬通。著書には「矢野吉彦の世界競馬案内」など。

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