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「ダービーをイメージして使ってきた」キズナと武豊騎手の“固い絆”

  • 2013年05月21日(火) 18時00分
 いよいよダービーウィークですね。昭和7年に創設された日本ダービーは、今年で節目の第80回目。このメモリアルレースのトップに立つ馬は…!?

 ダービーと言えば、ディープインパクトが一番印象深いです。僕が落馬して2年目にカメラマンの久保さんに誘っていただきゴールの瞬間を目の当たりに見ることができました。僕に生きるパワーをくれた馬です。

 そのときの豊騎手の言葉に感動。「走ると言うより飛んでいるようでした。僕はなにもしていません ディープ自身がやってくれました。」と…。

 その感覚は分かりませんでしたが、このコラムでトレーニングセンター馬診療所を取材させていただいた時、ディープインパクトの一完歩と競走馬の平均の一完歩を比べた一覧表があり、一完歩が30センチくらい伸びているんです。やっぱりスゴイ馬だったんですね。

ダービーへ挑むキズナ

ダービーへ挑むキズナ

 今年は、皆さんもご存知のようにディープの子供、キズナ号の手綱を取るのが武豊騎手。強い赤い糸でつながっているんでしょうね。豊騎手も「固い絆でつながっています」とおしゃっていました。

 そうそう、ディープが1着の時、佐々木(晶三)厩舎のインティライミが2着だったんですよね。天馬と呼ばれたディープに勝ちに行くために、好位からスタートしロスのないレース運びをし、ファンからどよめきが起きましたね。

 負けて強しのレースだったけど2着。今度こそ是非に欲しいタイトルですよね。一生に一度しかないレースにかける陣営の強い思いを感じました。

 そこで今回は、キズナ号の陣営をたずね、担当の田重田厩務員にいいお話を聞いてきました。

常石:いよいよダービーですね。意気込みを!

田重田:どのレースも同じですよ。僕らの仕事は無事に送り出し無事に迎えることが一番嬉しいです。その後に結果が付いてくると、次のレースへの励みになってきます。

常石:前走(京都新聞杯)は強い勝ち方でしたね。折り合い面の心配などはないですか?

田重田:やっとキ甲が抜けてきたな 中学生くらいに成長してきましたね。今でもこれだけ走るからこれからどれだけ成長してくれるか楽しみです。精神面でも成長してきたと思います。

豊さんが手綱を取ってくれ、キズナのことは手の内に入れ、癖もよくつかんでくれてるから、大船に乗ったつもりでいますよ。やっぱりダービー4勝は大きいですよ。

常石:調教の準備をされているとき厩で両脚をそろえて思いっきり伸びをしてから前脚でコンコンとかいていましたね.あんな仕草はよくするんですか? 競馬に行ったとき装鞍所で鞍を置いたときに脚を伸ばしてあげるのと一緒ですよね。軽いストレッチですね。

田重田:エネルギーが有り余って、早く出してほしいんですよね。飛び出すように出ていくでしょう。物見もせず集中して歩くのも速いですね。伸びする馬って走るって言われますよね。だから頼もしいですよね。自分で体のコントロールをし、リフレッシュしている。自分自身をしっかり持っているね。

豊さんは、首をのびのび振らせてリズムを崩さないように乗ってくれるので、キズナも気分よく走れる。走りたい気持ちを大事にしてくれるんです。

常石:体重管理は難しいですか?

田重田:毎回は体重を量っていませんが 手入れをしていたら腹の肉のつき具合とか大体の体重が分かり、運動量に併せて餌の量などを考え調整している。今は配合肥料とか栄養剤などいいものが沢山あるのでいいですね。でも食べるのに太らない時はどうするのか。太りすぎた時は、運動量と餌の量などを工夫しています。

常石:40年間という長い間、沢山の馬を育ててきていますが、パドックでどんなところを見たらいいですか?

田重田:パドックでまわっている時、感触のいいのは、トモが“ガツン”と入る音を聞いたら今日はやるなと思うね。踏み込みの音がいいのは気持ちいいね。1歩1歩ガツンと踏み込んで歩いてる馬がいいね。反対にうるさいとかではないが、馬の持つエネルギーが伝わってこない時はやっぱり走らないね。硬い馬は歩幅が小さくチョコチョコ歩いてるしね。

力を要れてゆっくり脚を出して歩けるような馬に育てていかなくてはいけない。腰の甘い馬は爪を立ててもらう。前はあまりいじったらあかんけど、生意気なことを言うかもしれませんが、馬のいいところは誰が見ても分かると思うけど、1頭の馬の何処が悪いかを見つけ出したり故障しやすいところをケアする。面倒くさいと思ったら良くならないので、信念を持ってやっていかないと、走る馬にはならない。能力の差は勿論あるが、その馬の持つ能力を出してやりたい。つねちゃんも騎手だったから、腰の緩い馬なんてよく分かるでしょう。

常石:腰が緩いとふらふらして恐いですよね。

キャリア40年のベテラン田重田厩務員

キャリア40年のベテラン田重田厩務員

田重田:つねちゃんも今左が弱いけど、しっかりケアしたら歩き方がよくなると思う。自分の弱いところを早く見つけてケアしていく。ここが大事なんですよね。ゆっくり踏み込んで歩くと余裕ができ人の顔も見えてくるでしょう。そしたら顔も覚えられるんですよ。頑張って!

常石:さすが40年のベテランですね。人も馬も一緒なんですよね。そのベテランの目でキズナを育てているんですね。今日の追いきりはどうでしたか?(2週前)

田重田:体のほぐしで、坂路で追い切りをする。前回より疲れはないし、どんなとこでも乗れる。息入れもきっちりできるので大丈夫。

騎手に乗ってもらったときは、何処が悪かったか言ってもらうと、早くケアができるので修整している。馬体をしっかり触って体調変化に気をつけている。レースが上手くなってきているし、この馬の最大の魅力は瞬発力と集中力だと思う。馬自身が教えてくれるのでケアがしやすい。エネルギーが有り元気なのが嬉しい。調教に出る前の運動の時にリズムの良さが分かる、のできっちりケアをする。

武豊騎手、ダービー5勝目への手応えは!?

武豊騎手、ダービー5勝目への手応えは!?

 実は、豊さん(武騎手)にもキズナのことをお聞きしてきたんですよ!

武豊:ディープに似たところはありますが、良いところもしっかり似ています。レースごとに成長していますね。最初はぼてっとしたところがありましたが、きっちり絞まってきましたね。ダービーをイメージしてレースを使ってきているので、勝つだけの力は十分あると思う。

常石:ダービー5勝目になるんですか?

武豊:キズナの勲章で勝ちたいですね。ディープから仔への固い絆で結ばれていますからね。

常石:ありがとうございます。豊さんの5勝目楽しみにしています。

 田重田さんのお話をうかがっていると、キズナに限らずどんな馬でも、持っている能力を引き出すためには馬の持つ悪いところを早く見つける。それらをケアすることで能力以上の力が出せるように育つ、というのが印象的でした。

 強い馬が揃いましたね。ダービーそして凱旋門賞へとつなぐ絆を強く手繰り寄せたい気持ちでいっぱいです。皆さんの予想はいかがですか? 楽しんでくださいね。常石勝義ことつねかつでした。[取材:常石勝義/栗東]

◆次回予告
次回のゲストは戸崎圭太騎手。春のGI戦線も終盤、安田記念の手応えからJRA移籍後の活躍ぶりについて、赤見千尋さんが直撃します。公開は5/28(火)18時、お楽しみに!

常石勝義
1977年8月2日生まれ、大阪府出身。96年3月にJRAで騎手デビュー。「花の12期生」福永祐一、和田竜二らが同期。同月10日タニノレセプションで初勝利を挙げ、デビュー5か月で12勝をマーク。しかし同年8月の落馬事故で意識不明に。その後奇跡的な回復で復帰し、03年には中山GJでGI制覇(ビッグテースト)。 04年8月28日の豊国JS(小倉)で再び落馬。復帰を目指してリハビリを行っていたが、07年2月28日付で引退。現在は栗東トレセンを中心に取材活動を行っているほか、えふえむ草津(785MHz)の『常石勝義のお馬塾』(毎週金曜日17:30〜)に出演中。

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