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福島民友と福島民報が伝えていた昔の福島競馬場

  • 2013年07月20日(土) 12時00分
 今回は福島競馬にちなんだ話題。同競馬がラジオで初めて実況中継されたのは、1932年(昭和7年)6月。JOHK(今のNHK仙台放送局)が放送しました。これを報じた地元紙、福島民友と福島民報の紙面には、他にも競馬にまつわるおもしろい記事が満載されてます。今回はその中からいくつかをご紹介しましょう(文言や字体は原文を一部書き換えています)。

 まずは福島民友6月18日付け朝刊、「鉄道で無賃、取締る〜競馬で一層警戒」という見出しの記事。「春季競馬もいよいよ今十八日に蓋あけとなるが、この競馬期には毎年きまったように無賃乗車でやって来るものが相当な数に上り今季もすでに左の三件の無賃乗車を発見」とあります。その3人がどこからやって来たかというと、なんと埼玉、兵庫、三重から!無賃乗車してまで競馬場を渡り歩いていた人がいたんですね。

 そんなわけで、地元はもとより全国から競馬好きが押し寄せた福島競馬。その賑わいは大変なものだったようです。同18日の福島民報夕刊が開幕の様子を次のように伝えています。

「競馬場近くになると道の両端にならんだ幾十に近い予想家が恐ろしくカン高い声を立てている(中略)。太い赤い鉛筆をペロリとなめては予想勝馬の上に二重丸、三重丸をつける(中略)。『買った買った、百発百中の予想だ』とまたカンを高くされる」。

「入口に差しかかると、背の高い腕章をつけた一人を三十名ばかりのファンがギウというほど固い鉄門に押しつけている。腕章の人はたまりかねて持っていた一たばのビラをぱっと投げる。今度は群衆はサッとその一たばのビラをめがけてしがみつく。きょうの出馬表の争奪戦だったのだ」。熱気ムンムン。喧噪という言葉がふさわしい、それはもう大変な大騒ぎです。

 極めつけは、同21日の福島民報、「蛇男泥松登場、福島競馬第三日目雑観」の記事でしょう。「午後一時頃、突然蛇男が現れる。酔っ払いに真似て懐から蛇を出す(中略)。これが蛇のおつげだといって勝ち馬を教える。もしそれが的中すれば礼金を取る。出し渋ったりするとたちまち蛇のかま首を腕につき付ける。レディなどは悲鳴を上げる。そして結局二、三円の金をせしめられる」。とんでもない“コーチ屋”ですね。この泥松、横浜から来た男で、「全国の競馬場を巡り列車内や馬見所でこの手で婦人達から金をせびっていた」と言います。昔の競馬場には、とんでもなくうさん臭い人たちがいたようです。

 今や、その名残はほとんどなし。競馬場は至って健全なエンターテインメント施設になりました。ファンが新聞やプログラムを奪い合うなんていうことはまずありませんし、怪しげなコーチ屋も排除されています。福島競馬場は、1997年の新スタンド完成以後、場内の雰囲気が一変。その夏競馬も今週限りです。明るく楽しく競馬を楽しみましょう。

テレビ東京「ウイニング競馬」の実況を担当するフリーアナウンサー。中央だけでなく、地方、ばんえい、さらに海外にも精通する競馬通。著書には「矢野吉彦の世界競馬案内」など。

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