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吉田勝彦さんのスゴさ

  • 2013年09月21日(土) 12時00分
 先週14日のウイニング競馬は、実況アナウンサーの大御所、吉田勝彦さんをゲストにお招きしてお送りしました。みなさんご覧いただけましたか?吉田さんの出演中、私は隣にいて進行のお手伝いをしながら、幸福感に浸っていました。いやぁ、楽しかったなぁ。

 あの放送で吉田さんが語ったのは、たとえて言えば、数十冊に及ぶ“吉田勝彦大全集”に収められた話のほんの一部。十数年前から親しくお付き合いいただいている私は、7割くらいの話は伺っているかもしれません。でも、まだその“大全集”は完結していないんです。日を追うごとに新しい話が加えられていますからね。そこが吉田さんのスゴイところと言えるでしょう。

 さてさて、吉田さんと私は、ある共通する経験をしています。実は、社会人になる前に、同じことをやって新聞に取り上げられたんです。と言っても、事件を起こして補導されたとか、行方不明になっちゃったとか、ではありませんよ。高校時代、放送部に所属していて、母校野球部の試合(夏の大会の予選)を実況録音したことが、新聞の地方版に載った、という話です。

 私は、大学1年生の時。神宮第二球場で行われた試合に、後輩の放送部員を連れて繰り出しました。ネット裏の最後列でパラボラの集音マイクまで用意して実況を始めたものですから、そりゃあ目立ちます。すぐに新聞各社が取材に来て大騒ぎ。なんと、朝日、毎日、読売が揃って記事にしてくれたんです。

 一方の吉田さん。部活動の一環として、3年の夏に甲子園で高校野球予選の実況をした、しかもそれが、神戸新聞の播州版に載った、というのです。

 さぁ、これを聞いて、その記事を発掘しようと思ってしまった私。ご本人の記憶では、母校野球部は弱いチームで、実況した試合ではあっさりコールド負けを喫したとのことです。早速、高校野球大会史を調べると、昭和29年(1954年)の兵庫県予選で、確かにそういう試合がありました。そこで今度は神戸新聞社に電話。当時の神戸新聞地方版は、明石の兵庫県立図書館にマイクロフィルムで残されていることがわかり、園田競馬観戦のついでに足を伸ばしてみました。

 ところが、閲覧させてもらった資料にその記事はありません。「ひょっとすると神戸新聞ではなく、朝日新聞かも」と思って、朝日のマイクロフィルムを借りてみたら、ついにその記事を発見しました!

 吉田さんは、「一方的な試合展開だったので『味方の苦戦にアナウンサーの声は途切れがち』と書いてあったと思う」とおっしゃっていました。実際には「アナウンサーの声は」と「途切れがち」の間に「ともすれば」という一言が入っていたのですが、その記憶はほぼ正確なものでした。なにしろ60年近く前の記事ですからね。ここでもまた、吉田さんのスゴさに感服しちゃった次第です。

テレビ東京「ウイニング競馬」の実況を担当するフリーアナウンサー。中央だけでなく、地方、ばんえい、さらに海外にも精通する競馬通。著書には「矢野吉彦の世界競馬案内」など。

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